こんにちは、ほぼ日の永田です。
もう、20年以上前から、2年に一度、
オリンピックの全種目を可能なかぎり観て、
そこに寄せられる膨大なメールに目を通し、
それらを翌朝までに編集し、読むだけでも
1時間くらいかかる長文コンテンツに仕上げて
大会期間中毎日公開する、という、
常軌を逸することをやっておりました。

しかしそれも2020東京オリンピックで一区切り。
前回の北京オリンピックからは、
毎日、観ることは観るものの(観るんですね)、
メールの編集と長文テキストの公開はやめて、
1日1本、観戦コラムを書く、という、
のんびりした姿勢でやっています。

観戦しながらのリアルタイムな感想は、
永田の旧ツイッターのアカウント
(@1101_nagata)で発信しています。
ぎゃあ、とか、うぁっ、みたいな反応は
そちらでおたのしみください。
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#16

ブレイキンを観た

 
DJが流す音楽に合わせて自由にダンスし、
1対1のバトルによって勝ち進んでいく
パリオリンピックの新競技、ブレイキン。
たのしみにしていたこの競技をリアルタイムで観て、
ぼくは、うわあ、すごい、けど、
こりゃ、わからんなあ、と思っていた。
演技としては十分に魅了されるけれど、
競技としてはどっちが勝ったのかわからない。
いま、目の前で行われたダンスなのに、
どっちが勝ったのかぜんぜんわからないのだ。
まあ、それはそれでいいじゃんか、と思っていた。
もう、どっちが勝ったとか、
そういうのはお腹いっぱいだし、
これはもうこのままたのしく観ようよ、と思っていた。
そういうスポーツファンは多かったと思う。
とりあえず、AMIとAYUMIという、
ふたりの日本人選手を応援しながら、
この新しい競技をたのしく観ようぜ、と。
しかし、ちゃんと観ていると、
しだいに差異に気づくのだ。
「差異に気づく」というのは、多くのことのはじまりだ。
ものづくりとか、恋愛とか、アイディアとか、
とても多くのことは「差異に気づく」ことからはじまる。
たとえば、対決を観ているうちに、
あ、いまのはよかったな、と自分なりに思う。
ダンサーがくり返し登場するうちに、
この人のダンスはすごいな、と思う。
あるいは、いまのダンスは物足りなかったなとか、
ちょっと最後のほうをごまかしたなとか、
この人、さっきのほうがよかったなとか、
そういうこともなんとなく思うようになる。
そんなふうに感じとったことが、
ジャッジの勝ち負けとシンクロしたり、
実況や解説の人の言ってることと重なったり、
会場の盛り上がりと一緒になったりすると、
そうそう、そうだよね、と思う。
するともう、スポーツファンは
その競技の入口の前に立っている。
そして決定的な要素はとてもシンプルだ。
好きな選手ができること。
応援している日本人選手でもいいけれど、
それだと好き以前の問題だったりもするので、
ぜんぜん知らない選手のほうがわかりやすい。
「あ、この人、いいな」程度でかまわない。
ぼくの場合はNICKA選手だった。
いや、ブレイキンは選手とかつけないほうがいいな。
わあ、この子、いいな、と思ったのがNICKAだった。
リトアニアの17歳。明るくて弾むようなNICKA。
一次リーグ、ベスト8、ベスト4と
競技が進むにつれ、ぼくは願うようになる。
この選手が勝ち残ればいいな、と。
「可哀想だた惚れたって事よ」に沿うなら、
「願うたハマったってことよ」である。
ブレイキンはそのようにして
観るものをしだいに巻き込んでいった。
AMIとAYUMIが勝ち残っていたこともあって、
「#mitazo」をつけたブレイキンの投稿も
どんどん増えていった。
最後まで、勝ち負けについては、把握はできなかった。
それでも、解説の人がくり返し言っていた、
「引き出し」とか「ボキャブラリー」とか、
「あしさばき」とか「詰め込んだ」とかは、
なんとなく共感できるようになっていた。
初代の金メダリストがAMIに決まったのは
朝の5時前とかだったけれど、
きっとそれを目撃したほとんどの人たちが、
週末の生活サイクルを台無しにしてしまったことを
後悔していなかったと思う。
ぼくはもう、決勝戦が「AMI対NICKA」になった時点で、
これはどっちが勝ってもいいや、と思っていた。
でもできればもちろんAMIに勝ってほしかったので、
つまり、最高の結果になった。
いやあ、よかった、ブレイキン。
数時間前にはじめて観たときは、
ああ、こりゃぁわかんねぇな、とか思ってたくせに、
決勝戦の結果がカウントダウンとともに発表されるころには
心臓をどきどきさせながら祈るくらいになっていた。
男子もたのしみだな、ブレイキン。
そしてしみじみ思うのだけど、
まさか自分がリトアニアの
17歳のダンサーのファンになるだなんて
まったく予想していなかった。
オリンピックって、
そういう機会のかたまりなんだと思う。
NICKA、アルカラス選手、森秋彩選手、草木ひなの選手、
オリンピックで好きになった選手がたくさんいる。
フェンシングやセーリングという競技だって、
オリンピックがなければ観ることもなかっただろう。
DJがかけた音楽に合わせて即興で踊ることも、
きっとぼくの人生とは接点がなかったはずだ。
十代や二十代ならいざ知らず、
歳をとると好きなものは保守化するのがふつうだ。
ぼくはこんなにスポーツを観るのが好きだが、
きっとオリンピックがなかったら、
野球と大相撲を観るくらいで十分満足していただろう。
ふと気になって調べたところ、
2028年に開催されるロサンゼルスオリンピックでは、
クリケット、ラクロス、スカッシュ、
フラッグフットボールが新しく追加されるらしい。
ほかはなんとなく知ってるが、
フラッグフットボールってなによ?
しかし4年後、
きっとぼくはその競技をなんとなくわかって、
結果を願うようになっているに違いない。
オリンピックは、観るぼくらを刷新してくれるという、
ありがたい機能を持ち合わせているのだ。

(つづきます)

2024-08-10-SAT

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    タイトル写真:とのまりこ