>谷川俊太郎さんについて

谷川俊太郎さん(たにかわ しゅんたろう)

1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ「ピーナツブックス」シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
詩の朗読を中心とした
ライヴ活動も精力的に行なっている。
現代を代表する詩人のひとり。

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第2回 「俺は若い」とは言いたくない。

谷川
最近は、少食なんですよ。
糸井
でも、少食なりに、
召しあがるほうなんじゃないでしょうか。
谷川
どうなんだろう。
自分では少ないと思ってるんだけど、
人から見ると「なんだ食ってんじゃん」てことかも。
糸井
もし自分が食えなくなったら、
さみしい気がするなぁ。
でも谷川さんは、お元気そうですね。
谷川
あのね、頭はわりと大丈夫です。
足だけ。
糸井
足かぁ。
谷川
うん。
歩くのが億劫なのね。
だからすぐ家に帰っちゃう。
糸井
それでまた歩かなくなるから、
もっと億劫になりますね。
谷川
一所懸命歩くようにはしてるんだけどね。
あとは、意識の問題です。
「自分が老いてる」という意識が
自分を邪魔してる、ということはありますね。
糸井
ああ、なるほど。
谷川
だけど「俺は若いんだ」なんて、
言いたくないわけよ。
糸井
それはとってもよくわかります。

谷川
吉本隆明さんが車椅子になったのは、
おいくつぐらいのときだった?
糸井
80‥‥4、5ですね。
吉本さんの場合、糖尿病がありましたから。
足と目は手術したんじゃないかな。
谷川
ああ、目ね。
糸井
白内障で、すごく大きなモニターを使って
本を読んでいました。
一文字一文字をすごく大きく表示して。
谷川
そうでしたね。
ぼくそれ、何かで見た記憶がある。
糸井
吉本さん、その時期がけっこう長かったですよ。
谷川
ぼくは吉本さんが講演のステージで、
車椅子をぐるぐる回しながら話してるのが
好きだったな。あれ、よかったね。
糸井
熱心に話しているうちに、
徐々に椅子が回っちゃうんですよ。
谷川
このごろ、
80歳以後の人の生き方というのに興味があってね。
曽野綾子さんとか寂聴さんとか、
ものすごく元気な人たちもいいけど、
「ちょっとダメ」という人の本も読みたいんです。
でも、なかなかないんですよ。
糸井
たしかにないですね。
谷川
でしょ。
出版社が売れないと思うのかなぁ。
老いてても元気、とか、老いるのはつらい、
という本はいくつもあるんだけど、
もっとふつうに、
「だんだん衰えていく」というのを
読みたいんだけどさ。
糸井
ぼくも読みたいです。
谷川
でもやっぱ、
ほんとに歳取ってみないと
わかんないことってありますね。
糸井
ありますね。
吉本隆明さんは、80を過ぎてから、
歳を取るということがどういうことかわかってくる、
とおっしゃってました。
谷川
ほんと、そんな感じ。
ぼくの場合は80より、
もうちょっとあとぐらいかな。
83、4ぐらい。
老いの実感みたいなものが、
観念じゃなくわかってきた。
糸井
ああ、観念じゃなく、ねぇ。
どうしたってまずは観念になっちゃいますよね。
「思い込んでなってること」と
「ほんとにそうなってること」が、
ごちゃごちゃだから。
谷川
そうそう。そのとおり。
いやほんとに、
意識というのは影響するんですよ、体にね。
糸井
しますよね。
「ダメかも」というセリフを言ったら、
何日か引きずります。
ひとつはっきりしているのは、
たのしいやりかけのことがあると、
元気でいられますね。
谷川
そういう意味じゃ、ぼくは締切が大切です(笑)。
締切って重荷だったんだけどね、
いまは締切があったほうがいいですよ。
糸井
わかる(笑)。
谷川
それから、
ぼくはひとりでいるのが好きで、
これまでぜんぜん苦にならなかったわけね。
だけど、こうなってみると、
うちに誰か来てくれると元気になってく感じ。
自分で気づかずにそうなってた。
糸井
自分も絶対にそうだと思う。
いまの歳でもそう思ってます。
谷川
似てるね、どっか。
糸井
もうほんっと、そうだと思う。
なおかつ「ひとりでいるのは平気だよ」というのも、
嘘ではない。
谷川
そうそう、
ぜんぜん嘘じゃないんですよ。

(つづきます)

2021-03-19-FRI

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  • 谷川俊太郎さんへの質問を募集します。

    今年アプリで開校する予定の
    「ほぼ日の學校」で、
    谷川俊太郎さんが授業を
    してくださることになりました。

    谷川さんは
    「できればみなさんからの質問に
    答えてみたい」
    とのこと。
    谷川さんへの質問をぜひお送りください。

    <質問のテーマ>
    ・学ぶことについて、教育について
    ・言葉について
    ・詩について

    言葉について悩んでいること、
    日頃から疑問に思っていたこと、
    この連載を読んで思った質問、など
    あるていどテーマに沿っていればOKです。

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    「谷川さんに學校の質問」にして
    postman@1101.comあて
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    〆切は2021年3月31日です。