谷川俊太郎さん(たにかわ しゅんたろう)
1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ「ピーナツブックス」シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
詩の朗読を中心とした
ライヴ活動も精力的に行なっている。
現代を代表する詩人のひとり。
- 糸井
- 谷川さんも吉本(隆明)さんも、
ぼくらに嘘を言わないから助かります。
- 谷川
- あ、そう? 吉本さんも正直?
- 糸井
- 吉本さんは、嘘がないことが
美学だったのかもしれない。
「俺は見た目が悪いから」と
しょっちゅうおっしゃっていまして、
いつも家では車椅子を使わずに、
上半身だけでいざるように玄関まで行って
人を見送っていました。
あの「構わない感じ」は、
かっこつけ方の種類が
ほかの人たちとは違ってたんじゃないかなぁ。
たとえばぼくらだったら、
玄関に見送りに出るときに、
這っては行かないと思うんです。
- 谷川
- そうね、這っては行かないね。
- 糸井
- ところが吉本さんは、這うのがふつうなんですよ。
「どうもどうも」って。
- 谷川
- それは昔ながらの躾だったのかもしれないよ。
吉本さんは足腰が立ったときも、
必ず玄関まで見送りに来てた?
- 糸井
- はい、来てました。
- 谷川
- きっと自然な流れで、
やってるだけなんでしょうね。
- 糸井
- そうですね、それを守ってるだけ。
だけども、這って行くかどうかです。
それは大きい。
- 谷川
- (笑)
見送られたほうは、
すごく気を遣っただろうね。
- 糸井
- でも、慣れました。
- 谷川
- 平気になっちゃう?
- 糸井
- 本人が平気だからです。
- 谷川
- そうか(笑)。
- 糸井
- まぁ、あそこんち(吉本さん一家)は、
みんながへっちゃらな人たちでしたからね。
だからといって全員が
なんにも思ってないわけはなくて、
ちゃんと気にしてるところがある。
人から見れば、谷川さんも、
なんにも気にしないでいてくれている
ように見えるかもしれないけど、
そんなことはないですよ。
ぼくだってそうです。
「自分で勝手に守ってる」ということが、
それぞれにあって、それは個性ですよね。
- 谷川
- もちろんそうですね。
- ほぼ日
- 吉本さんご一家は、それぞれが
個性の芯のようなものをお持ちです。
吉本さんが亡くなられたとき、
家族ってなんだろうと、考えるきっかけになりました。
- 糸井
- 家族って、いままであたりまえに
「一緒に住んでる人たち」のことだと思ってたけど、
最近はそうじゃない形もたくさんあるね。
- 谷川
- ぼくなんか、娘たちはずっと
アメリカです。
- 糸井
- 家族って、もしかしたらあれは、
ある短いあいだだけの
流行だったのかもしれませんね。
- 谷川
- かもね(笑)。
- 糸井
- ああ、たぶん「流行」と言うしかないと思うなぁ。
家族という考えは、きっと
以前のぼくらに都合がよかったんですよ。
「稼ぐ分量」と「何人食うか」のバランスで、
家族という単位が便利だったから流行したんです。
つまりそれは、時代の都合ですよ。
- 谷川
- 都合という言葉で成り立っているのが、
いまの世界ですからね。
- ほぼ日
- そうか、そのときそのときの都合で、
ものごとは自然に成ってきた、と。
- 谷川
- だいたいのことが、結果的に、
都合どおりになってますよ。
- 糸井
- もし「都合の悪い、我慢してやること」があったら、
結局それは、
あとの都合を考えてやってる、というだけのこと。
だからあんまり「家族」という言葉に
しばられる必要はないですね。
- ほぼ日
- 家族が都合だった、とすれば‥‥、
これからのそのほかの未来も、
都合で決まっていくってことですか?
- 谷川
- そういうことだね。
- ほぼ日
- 谷川さんは具体的に、ご家族に対して、
今後のことや未来について要望を伝えたりは‥‥。
- 谷川
- ぜんぜんないですね。
- 糸井
- うん、そうでしょうね。
- 谷川
- なりゆきのままです。
家があるんだからここに住めば、
ぐらいのことは言うけど、
向こうがそうしなかったら、
そのままだからね。
- 糸井
- 子どもたちにだって予定があるんだよ、
ということもありますもんね。
- ほぼ日
- そうか、なりゆきか‥‥。
- 谷川
- でも、そのなりゆきっていうのは、
すごく複雑微妙なものなんですよ。
- 糸井
- なりゆきは、結局、
都合と同じ意味でしょうか。
- 谷川
- 基本的にはそうなんですけど、
自分の都合が通らなくても「なりゆき」になる、
ということはありますよね。
- ほぼ日
- すべてのしくみが都合で、
ことの運びがなりゆきなんだったら、
じつは「悩み相談」って、無意味ですね。
- 谷川
- でも、ぼくはおたくで本出してるでしょう。
- ほぼ日
- あ‥‥あれはもしかして
無意味だったんでしょうか。
- 谷川
- 実際的には無意味ですよ。
- ほぼ日
- わぁ!
- 谷川
- でも、たのしい読みものになるから、
出すんです。
- 糸井
- そうだね、悩み相談というのは
やりとりがおもしろいってことだからね。
- 谷川
- そう。読んでておもしろい、
エンターテインメントなんですよ。
あの中にはうんと短い
ドラマみたいなものもあるし。
- 糸井
- そして、読む人が回答を自分で解釈して
納得して参考にするからね。
- ほぼ日
- 読む側の都合ですね、それも。
- 糸井
- そうだね。
- 谷川
- (笑)
(つづきます)
2021-03-20-SAT
-
谷川俊太郎さんへの質問を募集します。
今年アプリで開校する予定の
「ほぼ日の學校」で、
谷川俊太郎さんが授業を
してくださることになりました。谷川さんは
「できればみなさんからの質問に
答えてみたい」
とのこと。
谷川さんへの質問をぜひお送りください。<質問のテーマ>
・学ぶことについて、教育について
・言葉について
・詩について言葉について悩んでいること、
日頃から疑問に思っていたこと、
この連載を読んで思った質問、など
あるていどテーマに沿っていればOKです。メールの件名を
「谷川さんに學校の質問」にして
postman@1101.comあて
メールでお送りください。
〆切は2021年3月31日です。