谷川俊太郎さん(たにかわ しゅんたろう)
1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ「ピーナツブックス」シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
詩の朗読を中心とした
ライヴ活動も精力的に行なっている。
現代を代表する詩人のひとり。
- 糸井
- 谷川さんの詩のなかには、
前衛的な作品もあるし、
もっとポップな、
子どもたちが鑑賞するような詩もあります。
どちらが長く残るものでしょう。
- 谷川
- ぼくが思うに、やっぱり、
ポピュラー詩の中に残るものがあると思います。
現代詩の先端をやろうなんて思って書いたものは、
そういうものを認めてくれるスノッブも
ある程度はいるわけだけど、長い目で見ると、
「かっぱかっぱらった」
(「かっぱ」『ことばあそびうた』)
みたいなものが残りそうな気がします。
ぼくはそれで満足ですけど。
- 糸井
- それはつまり、作品が
お客さんと一緒に残るということでしょうか。
- 谷川
- そう思いたいです。
ただ、いまの世代はどうなんだろう。
そういうものも残んなくなっちゃうのかな。
歌なんかでも、歌そのものは残っても、
歌詞ってあまり残んなくなってんじゃない?
どうなのかしら。
- 糸井
- そういわれれば、いまの歌詞は
残りにくいものを作ってるような気もします。
- 谷川
- ですよね。なんかそんな感じがするのね。
- 糸井
- しますね。
あえてそうしてる、というような‥‥。
大衆作品と芸術作品という分け方って、
何のためにするのかわからないけど、
例えば、ビートルズが残っているのは、
あきらかに大衆音楽として‥‥
- 谷川
- でしょうね。
- 糸井
- ですよね。
それを歌う人がいる限り、残るわけですから。
考えてみれば谷川さんは、
それこそ「鉄腕アトム」の歌詞から何から、みんな、
ポピュラー作品側では完璧に残ってますね。
- 谷川
- 完璧かどうかはわかんないけど、
そうですね、残っちゃうんですよね。
『鉄腕アトム』なんていまだに、
俺が歌うと涙ぐむ人がいるんだもん。
- 糸井
- 空を越えてね。
- 谷川
- それはぜんぜん歌詞のせいじゃないと思う。
いわゆる大衆的なものって、
人に寄り添う力があるんでしょうね、
完全にその人の思い出ソングになっちゃってんだね。
- 糸井
- ああ、そうだよ。
すごいなぁ。
- 谷川
- ねえ。
だからすごいもんだと思いますよ。
- ほぼ日
- 「かっぱ」は
前衛詩じゃないんですね。
大衆詩なのか‥‥。
- 谷川
- だと私は思ってますけど。
- ほぼ日
- でも作る側は、
そんなこと考えずに書いてますよね。
- 谷川
- もちろんそうです。
- 糸井
- ほとんどそうですよね。
たとえば谷川さんの「ネロ」は、好きな人が多いけど、
「誰が読まなくても俺は書くぞ」という詩ですよね。
- 谷川
- あれはネロという犬の死に感動して、
書いてましたからね。
- 糸井
- うーーん、じゃあ、こういうことかな。
大衆作品か芸術作品かの差は、
つまり、たくさんの人が読めば大衆詩に‥‥
- 谷川
- なると思いますね、はい。
- 糸井
- そうなんだろうなぁ。
「大衆ナントカ」と「純ナントカ」のことは、
一生つきまとうテーマです。
- 谷川
- でも、境い目は曖昧で、
決められないんじゃないでしょうか。
ときどき誰かがぼくの詩を選んで
編集してくれることがあるけど、
「こんなむずかしい詩とアトムを
同じ本に入れちゃうの?」
ってくらい、ごちゃまぜになってますよ。
- 糸井
- そうですよね。
例えば、笑いを入れたからって、
大衆用に限られるわけじゃないですし。
- 谷川
- そうですね。ほんとうにそう。
- 糸井
- 「かっぱらった」なんて、
笑いが入ってるじゃないですか。
- 谷川
- うん、入ってますよね。
- 糸井
- だけど、それは、
さっき言ったように、純文学かもしれない。
- 谷川
- たとえば絵でもそうで、
草間彌生さんの作品、
ぼくはとっても好きなんだけど、
あの人は前衛画家ですよ。
もとは「ハプニング」なんて、
ニューヨークで過激なことをやってた人です。
でもいまはものすごい人気で、
「前衛」ひとくくりにはできなくなってる。
- 糸井
- そうですね、作品がすごい値段にもなってますし。
- 谷川
- 彼女自身は金が欲しいとは
もともと思ってなかったと思う。
あの水玉を、
売れると思って描いたとは思えないんだよね。
彼女の作品はいま、
とってもポピュラーになってます。
かぼちゃの作品のグッズもたくさん出てて、
かわいいからね、つい買っちゃう。
- 糸井
- その「どっちだかわかんない感」は、
おもしろいですね。
- 谷川
- ね。
(つづきます)
2021-03-22-MON
-
谷川俊太郎さんへの質問を募集します。
今年アプリで開校する予定の
「ほぼ日の學校」で、
谷川俊太郎さんが授業を
してくださることになりました。谷川さんは
「できればみなさんからの質問に
答えてみたい」
とのこと。
谷川さんへの質問をぜひお送りください。<質問のテーマ>
・学ぶことについて、教育について
・言葉について
・詩について言葉について悩んでいること、
日頃から疑問に思っていたこと、
この連載を読んで思った質問、など
あるていどテーマに沿っていればOKです。メールの件名を
「谷川さんに學校の質問」にして
postman@1101.comあて
メールでお送りください。
〆切は2021年3月31日です。