いや、描いてくださったんです、実際に。
すでにカタチになっていて、
唯一無二の百人一首が、
できあがっているんですけれども。
テーマといい、タイミングといい、
納期といい、納期といい、納期といい、
無理かなぁ~と思いながらの依頼に、
まよわず「OK」をくだすった先生。
よくできたよなあ。
発案から完成まで電光石火だったなあ。
ことが終わった今、もういちど、
自分たちに問い返したいと思います。
「もし、和田ラヂヲ先生が、
百人一首の絵を描いたら‥‥?」
可能性しか感じないじゃないか!
そりゃほしいに決まってるじゃないか~。
取材は、ほぼ日奥野です。
つくった星野もいて、よくしゃべります。
「ほぼ日の百人一首」について
制作のきっかけは、
2018年1月に開校した「ほぼ日の学校」。
「シェイクスピア」「歌舞伎」「万葉集」「ダーウィン」と、
さまざまな古典のおもしろさを、
知識だけではなく身体まるごとで学べる場を作っています。
「万葉集講座」の最中には、まさに万葉集を典拠とする
新元号「令和」が発表になるというできごともありました。
日頃から古典の魅力に触れる機会が増えたなかで、
「ほぼ日なりのアプローチで百人一首をつくってみよう」
という企画がもちあがったのが、2019年春のことです。
最初にできあがったのは、コンパクトなサイズの
「ほぼ日の百人一首(サイズ小さめ)」。
ほぼ日手帳2020のストア購入特典として
お客さまの手元に届く非売品です。
読み札の絵は、漫画家の和田ラヂヲさんによるもの。
橋本治さんのみずみずしい現代語訳・解釈を参考に、
百首の情景をのびのびと描いてくださいました。
ぼんやりとラフレシアを見つめるメガネの小野小町、
自動改札で手を上げる蝉丸‥‥
一枚一枚の札をなんども読んで味わって
ときには共感してたのしめる、
とくべつな百人一首になりました。
この百人一首を、より多くの方に届けたい。
もともとカルタ遊びに親しんでいる人はもちろん、
はじめて百人一首に触れるきっかけになってほしい。
そんなことを思い、
より長く使っていただける標準サイズの百人一首を
販売することにしました。
販売ページはこちら↓
- 和田
- あ、これ。ホタテの向きが物議を。
- ──
- 醸した?
- 和田
- ホタテ貝の向きを逆にしてくれと、
修正のお願いが来たんです。
- ──
- 貝の向き?
- 星野
- そうでした。
橋本治さんによる現代訳
住の江の
岸に寄る波
夜の中
夢の中でも
僕を避けるの?
出典:橋本治『百人一首がよくわかる』(講談社)
- ──
- 貝の上下が「逆」だったってこと?
- 星野
- そうです。
- 和田
- これの反対だと思ってたんだよね。
生まれてこのかた、55年間。
- ──
- そこ、意識したことなかったです。
というか、ホタテ貝に
「正しい向き」ってあるんですか。 - 上下というか、天地というものが。
- 星野
- こうやってビキニにしたときには、
あると思うんですよ。
- ──
- それは、誰かが決めたルールなの?
- 星野
- そう言われると。
- 和田
- 武田久美子が、正解なんじゃないか。
- ──
- ああ!
- 和田
- 武田久美子を正解にしていいと思う。
- 星野
- 検索してみましょう。
(武田久美子さんの画像を検索する) - あ、合ってます、向き合ってますッ!
- 和田
- あ、合ってる?
- ──
- よかった‥‥です。
- 星野
- ああ、この絵も、素敵なんです。
月明かりをこう表現するなんて。 - 一瞬、おやと思ったんですけど、
表現の意図がわかったとたん、
みんなで先生にしびれてました。
橋本治さんによる現代訳
秋風に
たなびく雲の
切れ間から
もれてる月の
光はくっきり
出典:橋本治『百人一首がよくわかる』(講談社)
- 和田
- 俺は、しめきりにしびれていたけど。
- ──
- つまり、この人が満月だという表現。
先生の美的センス、最高だなあ。
- 星野
- 今回の百人一首をつくるにあたっては、
当然、印刷物ですから
校正チェックなどをするんですが、
さっきの「ホタテの上下」問題だとか、
「この人が満月」問題みたいに、
「正解があるのかないのかわからない」
「一瞬どう解釈していいかわからない」
みたいな箇所が、たくさんありまして。
- 和田
- そうだろうね(笑)。
- 星野
- いっそ、
現代語訳のほうでつくったらどうかな、
という意見も出たんですけど。
- ──
- つまり、橋本治さん訳の百人一首を。
- 星野
- 社長の糸井が「ちょっと待て!」と。
- 「おまえたちは、
もう十分におかしなことをしている。
だから、これ以上、
おかしなことはしないほうがいいぞ」
と。
- 和田
- 盛りすぎてると。
- ──
- おかしなことはひとつでいい‥‥と。
- 星野
- そうそう、そうなんです。
つくっていると、つい忘れちゃって。
- 和田
- いや、それは、大事なところですよ。
いろんなことに通じる話です。
- ──
- はい、額縁に入れて、肝に銘じます。
「おかしなことは、ひとつでいい」
- 星野
- そもそもは、ラヂヲ先生に
のびのびと絵を描いていただくには、
どんな監修の先生を、
おつけしたらいいんだろうって、
みんなで話していたんです。
- 和田
- 監修?
- 星野
- そのとき、ふと河野学校長が、
橋本治さんが生きてたらなぁ‥‥と
つぶやいたんです、ポツリと。
- ──
- お亡くなりになって数ヶ月でしたね。
- 星野
- で、そのつぶやきに導かれるように、
グーグル検索したら、
橋本さんの『百人一首がよくわかる』
が、ヒットしたんですよ。
- ──
- え?
- 和田
- この本ありきの話じゃなかったの?
- 星野
- いえ、ラヂヲ先生が「先」なんです。
- ──
- ひゃー、そうだったんだ‥‥。
- オファー役の自分も、
橋本さんの本が先かと思ってました。
- 和田
- いやいや、俺だってそう思ってたよ。
- だって、この本がなかったら、
そうとう難しかったと思うぞ。
- ──
- ですよね、きっと。
- 和田
- 橋本さんの現代語訳がなかったら
描けなかった絵も、
めちゃくちゃたくさんあるからね。
- ──
- ピザを「頼んでない」歌とか。
- 和田
- 在原業平朝臣の歌とか。
- 業平がイケメンだったってことは、
この橋本さんの本で知ったし。
- ──
- ええ。
- 和田
- いやあ、びっくりしたなあ。
- はじめに『百人一首がよくわかる』
ありきで、
あの解釈を絵にしたらおもしろいね、
という流れなのかと思ってた。
- 星野
- 最初にラヂヲ先生が決まったんです。
本を見つけたのはあとからなんです。 - 先生にお願いしようとなった次の日、
朝一でミーティングをやって、
お昼ごろに
「こんな本があったぞ!」って。
- ──
- 奇跡の品じゃないか。この百人一首。
- 星野
- そうなんです。いろんな意味で。
- ──
- たしかにあのときは、
1日とか2日くらいのみじかい間に、
主に社内メール上で
いろいろ決まっていった感じでした。
- 星野
- はい。
- ──
- でも、そういうときって、
だいたい「いい仕事」になりますね。
- 和田
- それは言える。漫画もそう。
- 星野
- 振り返ると、この百人一首は、
和田ラヂヲ先生にお断りされてたら、
実現しなかった気がしますね。
- ──
- そもそも、どうしてあんな突然に?
- 星野
- ぶっちゃけ申し上げますと、
当初、ほぼ日手帳のオマケとして、
ラヂヲ先生に
イラストをお願いしてつくる、
まったく別のものを考えてまして、
オファーの準備をしていたんです。
- ──
- おお。
- 星野
- でも、糸井から突然、
「オマケは、百人一首にしよう!」
ってメールが来まして。
- 和田
- へえ。
- 星野
- 日曜日の夜に。
- 和田
- 日曜日の夜‥‥。
- 星野
- みんなで「そりゃいいね!」となりまして、
さっそく次の日の夕方に集まって
打ち合わせをしたんですが、
100枚の絵を、どうしようかという話に。
- ──
- 時間もそんなにないしね。
- 和田
- 100枚って、なかなかだからね。
- ──
- 経験者は語る。
- 星野
- 月とか川とか十二単とか坊主とか、
誰に描いてもらおうか‥‥。 - そう考えたとき、わたしたちには、
「やっぱりラヂヲ先生しかいない」
と。
- 和田
- ほんとですか(笑)。光栄だけど。
- ──
- その間のやり取りについては、
社内メールで
断片的には知っていたんですけど、
「百人一首の絵をラヂヲ先生に」
というアイディアの突破力、
ものすごいなあと思っていました。 - 時間もそんなにないみたいだけど、
実現できたらすごいぞと思って、
祈るような気持ちで
ラヂヲ先生にメールをお送りして。
- 和田
- ええ。
- ──
- すぐにOKのお返事が来ました。
まだ祈り終わらないうちに。
- 星野
- あのスピード感、ビックリでした。
- 奥野さんから
「先生、やってくださるってよ!」
って聞いたとき、
大げさでなく涙が出そうになって。
- ──
- ついさきほど知った事実ですけど、
同時に
ダイヤモンド社『やばい世界史』の
お仕事もあったのに、
直後には、ゴッホの生誕地をめぐる
オランダへの旅も控えていたのに、
どうして先生は、あの大仕事を
引き受けてくださったんでしょうか。
- 和田
- 締め切りが、あまりにシビレたんで、
逆に、
なんかいけるんじゃないかなあ、と。
- ──
- なんたる、逆転の発想‥‥。
- 和田
- 橋本さんの現代語訳もあったし、
「たぶん、いけるんじゃないですか」
みたいに返したと思うんだけど。
- ──
- はい、そうでした。たしかに。
- 和田
- それにさ、おもしろそうだったしね。
- でも、まさか自分が、
百人一首を描くとは思わなかったな。
- ──
- ある意味、トリプルネームですこれ。
異種格闘三つ巴戦というか。
- 星野
- いにしえの、遠い時代の歌人たちと、
彼らの詠んだ歌を、
現代の言葉に翻訳した橋本治さんと。
- 和田
- うん。
- ──
- その現代語訳を、
さらに独自に解釈したラヂヲ先生と。
- 星野
- かつてない百人一首が、できました。
本当にうれしいお仕事になりました。
(つづきます)
2019-12-19-THU
-
「ほぼ日の百人一首」、
2019年12月17日(火)発売!「ほぼ日の学校」を通じて、
ほぼ日の面々が古典に親しむなかでうまれた
「ほぼ日の百人一首」。
100枚の読み札には、
漫画家の和田ラヂヲさんによる
描きおろしの絵が描かれています。
かるたとして遊ぶのはもちろん、
1枚1枚の札を読んで味わうことができ、
「そばにおく古典」として楽しめる、
とくべつな百人一首ができました。