宮沢りえさんが50代を迎えた節目に、
二度目の糸井との対談が実現しました。
前回ふたりがじっくり話したのは、
じつに10年前のことです。
それからの期間に変化したこと、
子どものころから変わらない部分、
そして「思い通りにならないあらゆること」の先に
ひらけた景色について。
全10回、おたのしみください。

＞宮沢りえさん プロフィール

宮沢りえ（みやざわりえ）

1973年生まれ。
「ぼくらの七日間戦争」(88)の主演で映画デビュー。
以降、映画やドラマ、舞台と幅広く活躍。
「華の愛 遊園驚夢」(01)で
モスクワ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。
「たそがれ清兵衛」(02)、「紙の月」(14)、
「湯を沸かすほどの熱い愛」(16)で
三度の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝く。
舞台でも高く評価され、
2018年には読売演劇大賞・最優秀主演女優賞を受賞。
近年の主な出演作品に、映画「月」(23)、
アニメ映画「火の鳥エデンの花」(23)、
テレビドラマ「鎌倉殿の13人」(22/NHK)、
「真犯人フラグ」(22/NTV)、
舞台「骨と軽蔑」(24)、
「アンナ・カレーニナ」(23)、
「泥人魚」(22)などがあり、
2024年6月からは栗山民也演出の舞台
『オーランド』への出演を控える。

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第７回　 永遠が挟まる。

宮沢
舞台は40ステージ、50ステージと
つづくことが多いので、自分の肉体と相談しながら
「ほんとはここまでやりたいけど、
これは50回連続ではできないかもしれない」
というところを葛藤しながらお芝居するんです。
でも映画はもう、自分のからだと話し合うことなく
演じてしまった、その瞬間が撮れれば、
それをずっと残すことができます。
‥‥とはいえ、こないだすごく
「やっぱりわたしたちの仕事って、
ほんとうにはかないな」と感じたんですよ。
糸井
はかない。
宮沢
はい。
ある作品を撮り始める初日に、
共演者、スタッフ、監督と
「はじめまして」と出会って集まって、
そこから数ヶ月いっしょに過ごして、
お互いを知っていって。
でも、作品ができあがると
「じゃあ、さようなら」で、
もう集まって会うことはほとんどないんです。
舞台だったら３ヵ月、４ヵ月と、
ひょっとしたら家族より長い時間を共にするのに、
公演が終わったらまるでなかったかのように
ばらばらになってしまう。
糸井
ああ、そう言われてみると、
たしかに、はかないですね。
宮沢
もちろん、何回も共演する方もいますけど、
同じチームが集まることはなくて。
「こんにちは」と「さよなら」を
繰り返しているんです。
でも、そのはかない時間のなかに、
ときどきみんなの心に永遠に残る一瞬があります。
とってもはかない時間のなかに、
ときどき、永遠が挟まる。
そういう仕事を、
わたしは40年ぐらいやってるんだなと、
最近あらためて思いました。

糸井
‥‥いま、はかないっていう言葉を、
りえちゃんが褒めてあげたね。
宮沢
あーーー。
糸井
「はかない」という言葉に、
りえちゃんがプレゼントを
いっぱい与えた気がします。
宮沢
そんなことができていたらうれしいです。
糸井
きっと「はかない」も、ほんとは、
すごくいいものなんだよね。
宮沢
そう思います。
はかないものは
ゼロになるわけではないですし、
もしゼロになったとしても、
どこかにはすこしだけ存在していると思います。
あ、人の命もそうかもしれない。
糸井
人の命、まさしくそうですね。
‥‥あ、そういえば、きょうのりえちゃんは
「諦め」も褒めてあげたね。
宮沢
アハハ、そうでしたね。
でもほんとうに、生きているなかで、
はかないことも、諦めることも、
とてもたのしいです。
糸井
望んで、はかないことをやる場面だって、
いくらでもありますもんね。
ほんの一瞬だけ見られる景色なんかを、
わざわざ飛行機に乗って見に行くとか。
否定的に思われがちなものが、
じつはほんとうに良かったんだなということも、
若いときには見えにくいのかもしれないね。
宮沢
うん、そうですね。
若いころは、例えば東京タワーとか富士山みたいな、
「絶対的にそこにいる」というものへの安心感が
あった気がするけれど、
いまは、一瞬しか咲かない桜に
心が惹かれる気がします。
あ、でも、桜は毎年咲くのか。
糸井
いや、今年咲いた桜は今年だけなんだよ、やっぱり。
宮沢
そうですね。
糸井
今年散った花びらは今年だけなんだよ、やっぱりね。
宮沢
その桜を、誰とどんな瞬間に見たかということも
記憶に残っていますしね。

（つづきます）

2024-06-12-WED

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