こんにちは、ほぼ日のです。
人生に、一体なんなんだろう、というような
不思議なことが起こったことはありますか?
私はあります。
2017年、北ヨーロッパの国・ラトビアで行われた
「お邪魔者(Saboteur)」という
ボードゲームの世界大会で2位になりました。
いつか世界一になるのが夢です
‥‥なにそれ、と思いますよね。
自分でも思います。
上の写真、隣にいるのは、このゲームの作者、
ベルギー人のフレデリック・モイヤーセンさんです。

個人的な話で恐縮ですが、
一人でも多くの人にこのゲームの楽しさを
知っていただきたく、よかったらお付き合いください
3年間、全力で遊んだ日々の記録です。

前へ目次ページへ次へ

第4回 来たぞ、ラトビア!

 
お邪魔者日本選手権で優勝し、
世界大会に出るため、ひとりラトビアに‥‥
何がなんやら、ですが、ともかくそうなりました。
2017年11月24日、
フィンランドのヘルシンキで乗り換え、
無事に北ヨーロッパのラトビアへ到着。
ラトビアは高緯度に位置しているため、
11月の後半にもなると日中でもどんよりと薄暗く、
着いた日も、上空は厚い雲で覆われていました。
住所を頼りに、世界大会の主催者である
ドイツのアミーゴ社さんが用意してくれたホテルに
向かいます。
無事ホテルにチェックインした後、
周辺を散策していると、
カラフルな三角屋根の家が並ぶ一角に、
教会らしき高い塔がそびえ立っているのが見えました。
何がなんやら、の気持ちのまま、
ふと、その塔のてっぺんから、
当日の会場を見てみよう、と思いました。
ギリギリまで仕事に追われ、
ラトビアに関する何の知識も持たないまま
来てしまったので、
それくらいしかやることがなかったのです。

▲ラトビア。美しい街でした。 ▲ラトビア。美しい街でした。

 
着くと、そこはやはり教会で、
中に入るとエレベーターで
展望台へ行ける仕組みになっていました。
(10分に1回だけ動くシステムの、
不思議なエレベーターでした)
さっそく上がってみると、
そこには冷たい風が吹き荒れています。

▲この上に登りました。 ▲この上に登りました。

 
ここでようやくガイドブックを開くと、
私がいる場所は首都リガの「旧市街」と言われる場所で、
大きな川を挟んだ向こう岸は「新市街」だそう。
川の向こうにある最も目立つ建物が、
王冠みたいなものが上にちょこんと乗っている
「ラトビア国立図書館」で、
まさにそこが翌日の2017年11月25日、
「お邪魔者」の世界大会が開催される会場なのです。

▲川の向こうに見える、不思議な形のラトビア国立図書館。
あれが世界大会の会場‥‥! ▲川の向こうに見える、不思議な形のラトビア国立図書館。 あれが世界大会の会場‥‥!

 
極寒の中、その変わった建物をただ眺めていると、
「なんでこんな流れになったんだろう」と、
自分が置かれているこの状況を心底不思議に思いました。
芝居じみた書き方ですが、本当にそう思ったのです。
実際、ボードゲームをはじめる前頃から、
プライベートでショックなことが重なり、
気持ちが沈んでいました。
日本大会で優勝したり、
海外に来られたりすること自体が驚きで、
天からプレゼントをもらったような、
心の奥に静かな、しん、とした空気が
流れているような感覚を覚えました。

▲曇っているけれど、雰囲気がとてもいい旧市街。 ▲曇っているけれど、雰囲気がとてもいい旧市街。

 
しかし、11月末のラトビアは寒いです。
教会のてっぺんには、
体を切りつけるような寒風が吹き続け、
立っていられないほどでした。
寒い。こんなところで感傷に浸っていたら
風邪をひいてしまいそう。
我に返り、ホテルに戻ることにしました。

▲街はとっても歩きやすい。 ▲街はとっても歩きやすい。

▲はちみつ屋さん。菩提樹のはちみつが売ってました。 ▲はちみつ屋さん。菩提樹のはちみつが売ってました。

▲まるまるとした猫がいました。 ▲まるまるとした猫がいました。

 
さて、ホテルに着いて、暖房の効いたロビーで一息つき、
エレベーターに乗った、そのときです。
先に乗り込んでいた外国人4人組、
男性3人に女性1人が何かを話しています。
旅行者だろうな、と、
全く気にしていなかったのですが、
耳に聞きなじみのあるフレーズが入ってくるのです。
英語でもなく、日本語でもなく‥‥
それはギリシャ語でした。
私は英語はまったく話せないのですが、
ギリシャ語だけは少し話せます。
大学時代に訪れたギリシャに強く惹きつけられ、
それだけの理由で、その時点ですでに
ギリシャには17回行っていて、
休日には10年ほどギリシャ語の学校に
通ったこともあります。
扉側に向いて立っていた私は、振り返り、

「イステ・エリネス?」
(あなたたちはギリシャ人でしょうか?)
と聞きました。
一瞬の静寂の後、
彼らは私をじっと見て、1人の男性が、
はっきりと大きな声で
「ネ!」(そうだ)と言いました。
そこはギリシャからも遠く離れたラトビア、
見知らぬアジア人からギリシャ語で話しかけられ、
彼らはとても驚いていました。
私たちはいったん同じフロアで降り、
「なぜ、ギリシャ語を話せるんだ?」
「ギリシャが好きで、長年勉強したからです」
そんな会話を交わした後、今度は私が驚く番でした。
彼らはギリシャから来た世界大会の出場者だったのです。
もっと正確にいうと、
翌日、同じ会場で同時刻に
「お邪魔者」と「WIZARD(ウィザード)」という
2つのゲームの世界大会が行われるとのことで、
その「WIZARD(ウィザード)」のほうに出場する
ギリシャ代表プレイヤーたちだったのです。

▲その瞬間の写真。3人の男性が世界大会への出場者。 ▲その瞬間の写真。3人の男性が世界大会への出場者。

 
その夜、ホテルのロビーで前夜祭があり、
「お邪魔者」と「WIZARD(ウィザード)」のプレイヤーが
全員集合しました。
私はそこでも「お邪魔者」の世界大会に出場する
別のギリシャ人と知り合いになりました。
日本からは1人しか出場できませんが、
2~3人が出場できる国もあるようでした。

▲ホテルでの前夜祭。おつまみとビールが出ました。
ボーダー服の男性は、「お邪魔者」の作者、
ベルギー人のフレデリック・モイヤーセンさん! 
▲ホテルでの前夜祭。おつまみとビールが出ました。 ボーダー服の男性は、「お邪魔者」の作者、 ベルギー人のフレデリック・モイヤーセンさん!

 
その後、各国の代表者たちと
夜のリガに繰り出して飲みに行くことになりました。
少し歩いて適当なカフェバーに入り、
好きなお酒をそれぞれ注文しました。
初対面の人たちと「ボードゲーム」という
共通点のみで向き合う、不思議な夜でした。
だいたい、みんな国を代表してきている、
とはいっても、このボードゲームの特性上、
(だいたいお邪魔者という名前からして間抜けな感じだし)
なんかこう、
「すみません、自分みたいなものが
代表、みたいになっちゃって‥‥」と
身の置き所なく、照れている感じがあります。

▲左側は主に北欧諸国のみなさん。
右側はギリシャ人のみなさん。 ▲左側は主に北欧諸国のみなさん。 右側はギリシャ人のみなさん。

 
とはいえ、お酒の力も借りて、みんな徐々に打ち解け、
リラックスした雰囲気になってきました。
私も英語で

「日本には何人くらいのプレイヤーがいるのか」
というようなことを尋ねられました。
何人‥‥とか考える前に、
英語でとっさに返事ができません。
「この人、英語ができないんだ」
私の左右に座ったギリシャ人が助け舟を出してくれ、
私にギリシャ語で伝えてくれ、
私がギリシャ語でこたえた内容を
英語でまた伝えてくれる、
その場しのぎの交流がはじまりました。
ああ、まさか。
好きで続けてはきたけれど、
ほとんど何の役にも立たなかったギリシャ語が、
今、ここで役立つなんて! 人生って不思議です。
その後、ギリシャの人たちに、
「爆破カードのことを英語で何て言うの」
「金はGoldって言えばいいんだよね‥‥」
などと聞いて、翌日の大会に
最低限必要な単語を教えてもらいました。
付け焼き刃もいいところです。
他の国の人々は、私がテーブルの上に置いていた
日本語版「お邪魔者」をじっと見ていました。
内容は同じなのですが、
タイトルが漢字なので珍しかったのだと思います。
むかいに座ったオーストリア人男性に
「中を見てもいいか?」と訊かれたので、
うん、と答えます。
そうして箱を開けた彼は、
「あっ」と、厳しい顔をしました。
私の大雑把な性格が良くないのですが、
「お邪魔者」の箱の中がまったく整頓されておらず、
カードがごちゃ混ぜ。
裏表もばらばら、説明書も綺麗に折りたたまれていない。
箱を開けたらそんな状態だったので、
眉間に皺を寄せつつ、
黙ってカードを揃えはじめたのです。

 
そのとき、私は悟りました。
ここにいる人たちは、
本当にボードゲームが好きなんだ。
開けた箱のなかがぐちゃぐちゃだったら、
人のものでも揃えずにはいられないんだ。
世界の、ボードゲームを愛する人々がここにいる‥‥!

いい! とてもいい!

よくみたら、左のオーストリア人は
サイコロ柄のポロシャツ着てるし!
そんなふうに心の中で一人感動しながら、
夜は更けていきました。

(つづきます)

2021-09-30-THU

前へ目次ページへ次へ
  • お邪魔者ってこんなゲームです。

    ドイツ生まれのボード(カード)ゲーム。
    「お邪魔者」と「お邪魔者2」がありますが、
    大会は通常の「お邪魔者」のほうを使います。
    3人以上でできますが、5~8人がベストな人数です。
    最初に引く役割カードによって、
    「金鉱掘り」チームと「お邪魔者」チームに別れます。
    どのチームになったかは自分だけがわかっています。
    各々の言動やカードの出し方を見つつ、
    味方が誰か、敵が誰か、を推理しながら、
    順番に1枚ずつカードを場に出していきます。
    「金鉱堀り」チームは「道」のカードをつないで
    金塊を掘り当てると得点が入ります。
    「お邪魔者」チームは「金鉱掘り」の動きを妨害し、
    金鉱を掘り当てる前に全員の手持ちのカードを
    尽きさせることができると
    得点が入ります。

    基本的な遊び方やルールは
    すごろくやさんのページをご覧ください。
    (動画付きでわかりやすいです)

    ★このほか、日本・世界大会用の特別ルールには、
    「自己中ドワーフ」という
    新しい役割も加わります。
    これによりゲームが一段と楽しくなるので、
    基本的な遊びかたがわかったら、
    ぜひ大会ルールでも遊んでみてください。
    「自己中ドワーフ」の役になった人は、
    「金鉱掘り」になりすまし、 自分のターンで
    金鉱を掘り当てると、 得点を独り占めできます。

    ※「自己中ドワーフ」の役割カードは、
    「お邪魔者」の商品には付いていないので、
    「赤い服を着た金鉱掘り」の役割カードを
    「自己中ドワーフ」にみなすといいですよ。
    (私たちもそうしています)
    2019年の世界大会のルールはこちら。

    協力:メビウスゲームズすごろくや