こんにちは、ほぼ日のです。
人生に、一体なんなんだろう、というような
不思議なことが起こったことはありますか?
私はあります。
2017年、北ヨーロッパの国・ラトビアで行われた
「お邪魔者(Saboteur)」という
ボードゲームの世界大会で2位になりました。
いつか世界一になるのが夢です
‥‥なにそれ、と思いますよね。
自分でも思います。
上の写真、隣にいるのは、このゲームの作者、
ベルギー人のフレデリック・モイヤーセンさんです。

個人的な話で恐縮ですが、
一人でも多くの人にこのゲームの楽しさを
知っていただきたく、よかったらお付き合いください
3年間、全力で遊んだ日々の記録です。

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第5回 世界2位になってしまった。

 
さて、翌朝、
2017年11月25日、世界大会当日です。
ドイツのゲーム会社、Amigo(アミーゴ)社のかたが
先導してくださって、
みんなでホテルから歩いて会場に向かいます。
まるで遠足みたいだな、と思いました。
世界中の、いろんなところから来た、
普段何をしているのかもわからない連中(私も含めて)が
ぞろぞろと歩いていくさまは、
はたからみると奇妙だったと思います。
ここで、日本から応援&観戦に来てくださった
メビウスゲームズの能勢さんご夫妻とも合流。
能勢さんご夫妻は、
海外のさまざまなボードゲームを
日本に輸入されています。
私が社員旅行ではじめて遊んだボードゲーム
「ごきぶりポーカー」や「ハゲタカのえじき」など
名作ゲームの箱には
「メビウスゲームズ」と書かれています。
「すごろくや」の丸田さんもその昔、
メビウスゲームズでお手伝いをしていたそうで、
つまり、この世界に先駆者として君臨する
すごい存在なのですが、
常にやさしくてユーモアのある、素敵なお二人でした。

▲メビウスゲームズの能勢さんご夫妻。
ゲームファンからは「メビウスおやじ」「メビウスママ」
と呼ばれています。
奥に見えるのは、会場のラトビア国立図書館! ▲メビウスゲームズの能勢さんご夫妻。 ゲームファンからは「メビウスおやじ」「メビウスママ」 と呼ばれています。 奥に見えるのは、会場のラトビア国立図書館!

 
歩きながらメビウスおやじさんが言いました。
「ところで、『お邪魔者』っていいネーミングでしょ?
原題の『Saboteur』じゃよくわかんないから、
日本ではどうするか悩んで、
ぼくが『お邪魔者』って付けたんだよ」
実は、Saboteurのままのほうが
かっこよくて良かったかも‥‥と
それまでちょっと思ってしまっていたのです。
でもたしかに言われてみると、
『お邪魔者』のほうが断然覚えやすい。
おじゃまもの、という響きも慣れればかわいい。
ボードゲームを輸入するにあたって、
日本でどう受け入れられるかを
いつも考えていらっしゃるんだなと、
また新しい世界を覗けた気がしました。
その他にも、メビウスおやじさんが付けた
数々のボードゲームのネーミング逸話を伺いながら、
気づくと会場に到着していました。

▲会場に着いて渡された名札。
「World Championship‥‥!」 ▲会場に着いて渡された名札。 「World Championship‥‥!」

 
主催者の挨拶があり、すぐに予選がはじまります。
さまざまな国、地域から来た33名が
6~7人ずつテーブルに振り分けられました。
私と同卓になった香港出身の男性を見て、
メビウスママさんが言いました。
「あッ、あの人!
2016年のドイツのエッセンで行われた
ボードゲーム大会で
ワールドチャンピオンになった人よッ。
カルカソンヌの世界大会にも出てたわッ」
え、そんな強者が同じテーブルなんて!
と驚いているひまもなく、
ゲームははじまりました。
すごいスピードで、
その男性、ホラス・チャンさんは、
流暢な英語でみんなを誘導し、
場の流れを完全に持っていきます。
ホラス・チャンさんが高得点を稼ぎ出し、
私はかなりの点差をつけられ、その回は終了します。

右が香港のホラス・チャンさん。英語も堪能で、圧倒的な強さ。
右が香港のホラス・チャンさん。英語も堪能で、圧倒的な強さ。

 
さらにテーブルを変え、計6ゲームが終了。
途中経過の用紙が張り出されたときは、
私の手持ちの点数はわずか6点、
33人中16位でした。
ぜんぜん、勝てない。
(ちなみに、お邪魔者はプレイ中に全く話さなくても
一応プレイはできますし、そこに金があるよ、
と言いたいときに「Gold」と言うくらいで、あとは
ジェスチャーなどでどうにかなりました)
決勝に行けるのは全体の上位6人。
私はその時点で、16位。
ここから挽回するのは厳しい。
諦めと自己弁護のような、
「まあ、ここまで来れたんだし、それだけでも」
という気持ちが生まれていました。
ふと気づくと、メビウスママさんが、
私のそばに来てくれていました。
私のプレイを逐一、Twitterで
ツイートしてくれていたようです。

「せっかく日本から応援に来てくださったのに、
こんな結果でごめんなさい」

それは、心の底から出てきた言葉でした。
何がなんやら、とはいえ、
一応こうやってラトビアまで来させていただいたのに、
自分が勝たないといけない場面で、
勝てない悔しさ、情けなさ。
すると、
「私たちは、こうやって大会に
出てくれていることだけで、本当にうれしいの。
結果を気にせず楽しんで!」

とおっしゃいます。
そのとき、いや、やっぱりどうしても勝ちたい、
と思いました。
何がなんやら、みたいな傍観者の気持ちで
いてはいけない。
何がなんでも、決勝に行かなくては、
という気持ちになったのです。

▲みんな、真剣‥‥! ▲みんな、真剣‥‥!

 
勝たなきゃ、と焦っていた気持ちがなくなり、
「ここから全部のゲームで勝てば、
逆転して決勝に行ける‥‥」
と思っている自分がいました。
無謀なことでしたが、
「とにかくそうなる」と思いこむことにしたのです。
ちょうど、そのときです。
この「お邪魔者」作者である
フレデリック・モイヤーセンさんが通りがかり、
話しかけてくれました。
私のお邪魔者の箱にサインをしてくださって、
そこには「good luck」と書かれていました。

▲good luck! ▲good luck!

 
グッドラック効果があったのかもしれません。
そこからの数時間、
自分でも本当にびっくりしたのですが、
すべてのゲームに勝つことができ、
ポイントを重ね続けました。
そして、気づいたら全体の2位で
予選を通過し、決勝に行くことができたのです。

▲運が良くなってきてからの予選のスコアシート。私は一番上。
▲運が良くなってきてからの予選のスコアシート。私は一番上。

 
決勝は、6人で行われました。
無理だと思っていた決勝テーブルに座った瞬間、
「たのしい‥‥!」という気持ちが
どんどんわいてきました。
決勝には、
前夜のカフェで
「箱の中身をきれいに揃えてくれた
オーストリアの男性」がいました。
いろいろなゲームに強い香港のホラスさんもいました。
決勝では3ゲーム行われ、得点が多かった人が優勝です。
1時間30分後、ゲーム終了。
頭が真っ白で、
どういうふうにプレイしたか、
プレイ直後もわからなかったですし、今も思い出せません。
優勝したのは
スペイン人のオスカー・マーティンという男性です。
(スペイン語読みだとたぶんオスカルですが、
ずっとオスカーと呼んでいたので、そう記載します)
私の右隣に座った黒い服の男性です。
そして、2位は‥‥‥‥私!

 
まさか2位になってしまうなんて。
その後、メダルと賞品をもらって、
3人並んでバシャバシャ写真を撮られても、
全く実感が湧いてきませんでした。
ただただ、
この場に来られてうれしい、という
感謝の気持ちだけがありました。

▲1位オスカー・マーティン(スペイン)、2位私、3位ホラスさん(香港)。 ▲1位オスカー・マーティン(スペイン)、2位私、3位ホラスさん(香港)。

 
後から考えても、なぜ勝ったかわかりません。
たぶん私はとてもラッキーだったのだと思います。
そもそも、この数年はひどく落ち込んでいたにもかかわらず
なぜか日本大会で優勝してラトビアにいることも、
エレベーターのなかで
突然ギリシャ人たちに会ったことも、
すべての要素が「幸運」という言葉でしか
説明がつかないくらいでした。

▲仲良くなったギリシャ人のみなさん。
左端が「お邪魔者」プレイヤー、右の3人は「WIZARD」プレイヤー。
右端の男性は、「WIZARD」で世界2位に! ▲仲良くなったギリシャ人のみなさん。 左端が「お邪魔者」プレイヤー、右の3人は「WIZARD」プレイヤー。 右端の男性は、「WIZARD」で世界2位に!

 
何もかも終わってあとは帰るだけ、となったあと、
おまけのようなできごとがありました。
ラトビアはノルウェーにも近いです。
ノルウェーのオスロには、昔、
ギリシャの語学学校で出会って
仲良くなったノルウェー人の女性がいます。
数年ぶりにちょっと会って帰ろうと思い、
ラトビアの空港に向かいました。
空港でチェックインして、
カウンターでスーツケースを預け、
出国審査を通り、ゲート近くでお土産を見ていました。
そして、のんびりゲートに向かったら、
なんと飛行機に置いていかれてしまったのです。
(正確には、飛行機が走りはじめる前に
ハッと気づいてゲートに駆け込んだのですが、
「遅すぎます!もう乗れません」と言われてしまいました)
飛行機が目の前に停まっていたのに置いていかれた‥‥。
搭乗しなかった人のスーツケースは
機内に乗せてはいけないルールがあるのか、
手荷物受取場に行くように、と係員に言われました。
静まり返った暗い部屋で、待つこと30分。
たった1個のスーツケース(私の)を流すためだけに
巨大なベルトコンベアーがガタガタと動き始め、
さらに待つと、見覚えのある
くたびれたスーツケースが流れてきました。
重い気分でスーツケースを取り、
空港内を逆走して、カウンターに戻り、
次の便を泣く泣く買い直し、
空港内の椅子で次のオスロ行きの便を待っていたら、
なんと、
ギリシャに帰る便を待つギリシャ人たちと、
スペインに帰る便を待つオスカー・マーティンと
空港で再会したのです。
飛行機に乗り遅れなかったら、
もう一度会うのは難しかったと思います。
「のんびりしてたら、
いまそこで飛行機に置いていかれて」と
ギリシャ語で言うと、
奇人変人を見るような目で見られ、

「君、ほんとに日本人?
日本人は時間に正確だと思ってた」

「ファイナルコールとか聞こえなかったの?
あ、そうか英語ダメなんだ‥‥」
ギリシャ人たちは心底びっくりしていました。
でも、親切にも次に乗る正しいゲートまで
送ってくれると言います。
オスカー・マーティンはにこにこしていました。
私はせっかくここで会えたのだから、と、
オスカー・マーティンにダメダメな英語で宣言しました。

「来年は、私が勝つから!」

2018年も来れるかどうかなんてわかりません。
でも、絶対にまた来る、
という思いだけがありました。
オスカー・マーティンはにこにこ笑って去っていきました。

(つづきます)

2021-10-01-FRI

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  • お邪魔者ってこんなゲームです。

    ドイツ生まれのボード(カード)ゲーム。
    「お邪魔者」と「お邪魔者2」がありますが、
    大会は通常の「お邪魔者」のほうを使います。
    3人以上でできますが、5~8人がベストな人数です。
    最初に引く役割カードによって、
    「金鉱掘り」チームと「お邪魔者」チームに別れます。
    どのチームになったかは自分だけがわかっています。
    各々の言動やカードの出し方を見つつ、
    味方が誰か、敵が誰か、を推理しながら、
    順番に1枚ずつカードを場に出していきます。
    「金鉱堀り」チームは「道」のカードをつないで
    金塊を掘り当てると得点が入ります。
    「お邪魔者」チームは「金鉱掘り」の動きを妨害し、
    金鉱を掘り当てる前に全員の手持ちのカードを
    尽きさせることができると
    得点が入ります。

    基本的な遊び方やルールは
    すごろくやさんのページをご覧ください。
    (動画付きでわかりやすいです)

    ★このほか、日本・世界大会用の特別ルールには、
    「自己中ドワーフ」という
    新しい役割も加わります。
    これによりゲームが一段と楽しくなるので、
    基本的な遊びかたがわかったら、
    ぜひ大会ルールでも遊んでみてください。
    「自己中ドワーフ」の役になった人は、
    「金鉱掘り」になりすまし、 自分のターンで
    金鉱を掘り当てると、 得点を独り占めできます。

    ※「自己中ドワーフ」の役割カードは、
    「お邪魔者」の商品には付いていないので、
    「赤い服を着た金鉱掘り」の役割カードを
    「自己中ドワーフ」にみなすといいですよ。
    (私たちもそうしています)
    2019年の世界大会のルールはこちら。

    協力:メビウスゲームズすごろくや