元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 佐久間
- テレビ東京ではたらいていたとき、
ぼくがバイブルにしていた本が
斉須政雄さんの『調理場という戦場』なんです。
- 糸井
- 本の中にも出てましたよね。
- 佐久間
- ぼく、あんまり本に
赤線とか引かないんですけど、
斉須さんの本は何本も引きました。
- 糸井
- あの本は「ほぼ日」がはじまって、
すぐくらいに出したんじゃないかな。
- 佐久間
- ぼくがまだ20代だった気がします。
- 糸井
- あの本は調理場にいる人も読んでるし、
そうじゃない人も読んでるし、
海外に行く行かないの人も読んでる。
- 佐久間
- 当時、テレビ東京の中には
「お笑い」という分野がなくて、
自分がそれをやりたいなら、
それを開拓するところから
はじめないといけなかったんです。
それで心が折れそうになったときとか、
胸が熱くなりながら読んだ覚えがあります。
- 糸井
- そうでしたか。
- 佐久間
- だから、ぼくの本も
そんなふうになればいいなと思って
書いたところはあります。
- 糸井
- 文体やスタイルはだいぶ違うけど、
でも、そうなる可能性はあるかもね。
- 佐久間
- 本当ですか?
- 糸井
- あの本とこの本の共通点は、
「俺とかお前は大したことないやつだ」
っていうのがコンセプトですよね。
- 佐久間
- あーー。
- 糸井
- 若いときに間違えがちなのは、
「俺には何かあるはずだ」なんです。
まずそれを壊せないと、
やっぱり自分の道が開けない。
- 佐久間
- 自分は何かできると思ってるし、
あと、ちょっと上を見くびったりする。
- 糸井
- うん(笑)。
- 佐久間
- ちょっと上をすぐ見くびるんだけど、
「そこにすら届いていない自分」
という現実がある。
そういう状況の自分が、
すこしでも自分の思う価値に
たどり着くにはどうすればいいのか‥‥。
- 糸井
- そうですね。
- 佐久間
- だから圧倒的な天才は、
この本を読む必要がない。
圧倒的な天才は組織に入らなくていいし、
いまなら自分ひとりでできますから。
- 糸井
- うん。
- 佐久間
- だけど世の中の
98から99パーセントは天才じゃない。
ぼくもそうだし、ほとんどの人がそう。
そういう普通の人たちが
やりたいことをやれるようになるには、
組織というものをある程度乗りこなさないと
無駄な戦いばかりすることになって、
やりたいことに全然たどり着けない。
ぼくはそういう経験をたくさんしたので、
まずそれを伝えたかったのが、
この本を書いた一番の動機だった気がします。
- 糸井
- その経験をした覚えはあるわけですね。
- 佐久間
- めちゃくちゃあります。
- 糸井
- 圧倒的な天才っていうのが、
どういうことを示すのか
ぼくにもよくわからないんだけど、
例えばイチローが圧倒的な天才かと言ったら、
本人も否定してるけど、
もう圧倒的な努力の人ですよね。
- 佐久間
- はい。
- 糸井
- あと、バンドをやっていて
天才と言われるようなタイプの人。
ぼくがよく例に出すのは、
永ちゃん(矢沢永吉)ですけど、
もうずーっとトップに君臨してますよね。
- 佐久間
- そうですね。
- 糸井
- でも、あの永ちゃんでさえ、
ギターのスケールを練習してたわけで。
ドレミファソラシドが弾けないと
何にもできないわけですから。
ビートルズも譜面は読めなかったけど、
その代わり練習はたくさんしてた。
この前、ビートルズの『Get Back』が
公開されてましたけど。
- 佐久間
- はい、ディズニープラスで。
- 糸井
- あの映像を観てみると、
彼らは締め切りを守るために
努力してたりするんですよね。
「世界一のバンド」がですよ?
そんなビートルズが
締め切りを守ってるというのに、
なんで俺たちごときが締め切りを‥‥(笑)。
- 佐久間
- ははははは。
- 糸井
- だから圧倒的な天才って、
ぼくはいないんじゃないかと思う。
- 佐久間
- 立ってるだけで大丈夫みたいな。
本当の意味での圧倒的な天才はいない。
- 糸井
- 天才扱いされればされるほど、
望まれるものが大きくなるから、
そこでの綱渡りみたいなことを考えると、
その場所にいられる度胸が天才ですよね。
- 佐久間
- 糸井さんはすごい方を、
たくさん見てらっしゃるじゃないですか。
矢沢さんもだし、木村拓哉さんもそうだし。
- 糸井
- はい。
- 佐久間
- そういう人をそばで見てきた
糸井さんが言うんだから、
きっとそういうことなんでしょうね。
- 糸井
- みんなすごい資質は持ってますよね。
その意味では佐久間さんも持ってるし、
ぼくはぼくで持ってると思います。
同じことを同じだけやるのに、
このジャンルにおいては
俺はあんまり一所懸命やらなくても
けっこうできるな、っていう。
- 佐久間
- わかります。
- 糸井
- そのジャンルはあるんだと思う。
それが苦しくてしょうがないんだったら、
もう辞めてると思う。
だから苦しいだの辛いだの言ってるけど、
それはちょっとだけ嘘で(笑)。
- 佐久間
- わかります(笑)。
やりながらありますよね。
ここは苦労しなくても
思ったより褒められるなっていうのが。
- 糸井
- そうなんです。
- 佐久間
- それを見つけることも
大事なんだろうなと思います。
- 糸井
- 大事ですね。
ただ、それをずっとやりつづけて、
40年くらい経ったときに
「お前まだすごいな」って
言われてるかどうかっていうと、
それはそれで怪しいですけどね。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
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