
元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 佐久間
- 糸井さんから見ると、
普通の人と矢沢永吉さんは何が違いますか。
- 糸井
- 永ちゃんは本当に受けてるかどうかを、
本当に気にしてると思います。
それでいうと木村拓哉は、
もっとそうかもしれない。
- 佐久間
- じゃあ、ずっと不安ってことですよね。
- 糸井
- それを不安として思ってるのか、
喜びとして思ってるかはわからない(笑)。
- 佐久間
- それがあることがうれしい?
- 糸井
- 「人としてその方がいいじゃん」
って思ってるような気はしますよね。
- 佐久間
- はーー。
- 糸井
- 木村くんがどのくらい自己批判的かというと、
昔、永瀬正敏くんと木村くんと
ぼくの3人で一緒にいたことがあって、
永瀬君は木村君のファンなんです。
かっこいいと思ってる。
で、ぼくもそう思ってる。
- 佐久間
- ええ。
- 糸井
- で、永瀬くんとぼくは、
木村くんをかっこいいと思うの中に
「踊れる」というのがあるんです。
- 佐久間
- ほう。
- 糸井
- 例えばエレベーターに乗るとき、
クルっと一回転してから
乗ることだってできますよね。
やろうと思えばだけど(笑)。
- 佐久間
- はははは。
- 糸井
- そんなことする必要もないけど、
でももし踊れるんだったら、
ちょっとしてみたいじゃないですか。
- 佐久間
- できるっていう気持ちは
ちょっと持ってみたいですね。
- 糸井
- 誰もいないときに
クルクルっと回ってから
エレベーターに乗るというのは、
どうでもいいことだけどやってみたい。
それ、木村くんはできるんです。
2人して「それいいよなぁ」って
心から絶賛したことがあった。
そしたら木村くんは
「俺のは踊りじゃないから」って。
- 佐久間
- えぇ?
- 糸井
- 「俺のは教わったことをやってるだけ」って。
つまり、木村くんは
「俺に教えてくれる人の踊りが、踊り」
って言うわけです。
ステージの振り付けをする人とか。
- 佐久間
- 創作できる人の踊りこそ、
本当の踊りということですか?
- 糸井
- 創作の部分だけじゃなくて、
彼は「品質」を見られるんでしょうね。
- 佐久間
- 品質。
- 糸井
- ものすごく短い時間で
ダンスの振り付けを覚えなきゃならない。
これもすごく大変なことなんだけど、
それは一所懸命やればできると。
だからそこはやります。
だけどそれは「踊り」じゃない。
それを教えてくれてるSAMさんの踊りこそ、
本当の踊りなんだって言うわけです。
SAMさんを見るとかっけえなあと思うと。
- 佐久間
- はぁぁ。
- 糸井
- 彼は街で普通のお兄ちゃんが踊ってても、
立ち止まってじっと見る人ですから。
だから本人からすると
大したことないジャンルの
プロだと思ってるんじゃないかな。
- 佐久間
- ものすごく大変ですね。
その目を常に持つというのは。
- 糸井
- で、おそらく永ちゃんも持ってると思う。
- 佐久間
- 永ちゃんも。
- 糸井
- だから永ちゃんは自分のステージを
自分で褒めたりできるんですよ。
「いまの矢沢、最高だね」って。
- 佐久間
- ああ(笑)。
- 糸井
- 最高じゃない可能性があるものを、
ひとりの客として見てみたんだけど‥‥。
- 佐久間
- だけど?
- 糸井
- 「この矢沢、どうも最高だね」
- 佐久間
- あははははは。
- 糸井
- いまのはまさにそうで、
「どうも最高だね」と
「油断したら、矢沢は落ちるぞ」
みたいなところがありながらも、
やっぱり「最高だね」って言うのは、
いつでも自分の品質みたいなものに。
- 佐久間
- 厳しい?
- 糸井
- 厳しい。
- 佐久間
- その気持ちを持ってないと、
あそこには行けないわけですね。
- 糸井
- 行けないんだと思う。
- 佐久間
- でも、その気持ちって
誰しもがある程度は持っていないと。
- 糸井
- うん、できないよね。
- 佐久間
- 仕事ができないですよね。
そういう意味でいうと、
ぼくらが一概に天才って言っちゃう人たちと、
ぼくらの普通の仕事なんかも
本当は地続きの部分がきっとあるわけで。
- 糸井
- そうだと思いますね。
この佐久間さんの本も
「君は何者でもない人かもしれないけど、
こういうふうに生きると案外いいよ」
っていう話じゃないですか。
- 佐久間
- ただ、ぼくはみんなに
楽な道を選んでほしいわけじゃないんです。
無駄に傷ついたり無駄に消耗したり、
そういうのはショートカットしてほしいけど、
楽な道に行ってほしいわけじゃない。
騙されてほしくはない。
楽というのは、たぶん騙されてるから。
- 糸井
- うん。
- 佐久間
- 無駄な戦いはしてほしくないんだけど、
自分の行きたい場所に行くための
武装は必要だと思っています。
その武器を、たぶん俺は持ってる。
持ってるというか組織の中で学んだから、
その学んだことをここに書いておくよ、
っていう本なんです、これは。
- 糸井
- 「ネクタイしてるかしてないかだけで、
人は人を判断するよね」
というようなことが書いてるわけですよね。
- 佐久間
- そうです。
- 糸井
- そこのところはわかるんだけど、
「そういうときにネクタイできる俺」
というのだけどんどん育っちゃったら、
それはまた違いますよね。
- 佐久間
- そうですね。
- 糸井
- たぶん大事になるのは、
「本当にいいなあ」と、
「いいなに見えるけどそうでもないな」と、
「全然よくないな」を見分けられること。
で、自分に対してもそれができること。
- 佐久間
- その刃が自分にも向いてることが大事。
- 糸井
- そう思いますね。
「いろんな人に会うといいよ」っていうのは、
そういうのばっかり見てる人に会うから、
そこが鍛えられるんでしょうね。 - 人は口で言ってることが2種類あって、
ひとつは「誰でもなれるよ」という言い方がある。
これ、嘘ではないんです。
- 佐久間
- 嘘じゃない。
その条件だけクリアすることはできる。
- 糸井
- だけどそれでいい気になって、
おしまいになった人も山ほどいるわけで。
- 佐久間
- それはもう、ぼくでさえ見てきました。
- 糸井
- そうだよね(笑)。
- 佐久間
- きっと糸井さんは
もっと見てらっしゃると思いますけど。
- 糸井
- 「あいつもういねえな」みたいなね。
その差というは、さっき言った、
「俺の踊りなんか踊りじゃなくて、
SAMさんのが踊りなんですよ」
って思えるかどうかだと思うんです。
- 佐久間
- そういう目を持ってるかどうか。
- 糸井
- だと思うんですよね。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
若かりし頃の佐久間さんが悩み苦しみ
必死になって身につけた「62の方法」が、
出し惜しみされることなく詰め込まれています。
はたらく勇気がじわじわ湧いてくる一冊です。Amazonでのご購入はこちらをどうぞ。