元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 佐久間
- ぼくは自分の番組の
エゴサをよくするんですけど、
まわりが褒めてくれる番組ほど、
「しまった!」という部分に
気づいた人の感想を探しつづけます。
- 糸井
- (笑)
- 佐久間
- そこに気づいた感想があったら、
「バレないと思ったけど、そうだよなぁ」
と思いながらブックマークします。
「いいね」だとバレちゃうので(笑)。
ほとんどの人は気づかないけど、
「そこは手癖で作ったんだよなぁ」とか。
- 糸井
- はいはい、手癖ね。
- 佐久間
- 手癖、発生しちゃうじゃないですか。
- 糸井
- しますね。
- 佐久間
- 100人のうち1人しか気づかないとしても、
そういう感想はブックマークします。
「本当は嫌だけど」と思いながら(笑)。
- 糸井
- 自分でわかってる
「ここダメなんだよ」という部分は、
保留にするという手もあります。
- 佐久間
- 保留?
- 糸井
- わざわざエゴサしなくても、
保留にしとけばまた出てくるから。
- 佐久間
- でも何回か出てくると、
いいかげん直さないとダメだなって
思うじゃないですか。
- 糸井
- 使わない古新聞があれば、
すきま風が吹いたときに挟んだりできます。
案外、そういう使い道はあります。
- 佐久間
- 捨てるんじゃなく、再利用する。
- 糸井
- そういうテクニックは、
この本の次の話かもしれないですね。
「父から子へ」の次は、
「祖父から孫へ」というタイトルで(笑)。
- 佐久間
- たしかにこの本は、
多少ストイックに書いてますからね。
- 糸井
- 自分を甘やかすとも違うけど、
それをオーケーにしてあげたら、
違うところで元気よくいられるしね。
- 佐久間
- あぁ、なるほど。
- 糸井
- ねぇ。
- 佐久間
- 糸井さんに言うのは
釈迦に説法かもしれないですけど、
自分のダメな部分がずっと気になって、
いつまでも完成しないことってあるじゃないですか。
- 糸井
- ありますね。
- 佐久間
- 一時期、脚本家の坂元裕二さんが
脚本のお仕事をお休みされていたとき、
小説を書いていたそうなんですが、
「いつまで経っても書き終わらなかった」
ということをおっしゃっていたんです。
その話といまの話って同じというか。
たぶん自分の中の理想形があって、
許せないところで止まってしまったのかなって。
もともとあれだけ書ける人ですから。
- 糸井
- うん。
- 佐久間
- ただ、ぼくとしては心の中で、
それでもいいからその小説が
読みたかったなあって思いますけど(笑)。
- 糸井
- その話はさっきの
「圧倒的な天才がいない」と同じで、
「そもそも自由課題はない」
というふうにも言えますよね。
- 佐久間
- あぁー。
- 糸井
- 絵描きさんだったら
キャンパスに絵を描くわけで、
キャンバスに大きさがある時点で
もう自由課題じゃないですよね。
- 佐久間
- はい。
- 糸井
- 重力に逆らわずに生きてるぼくらが、
「なんか自由に描けたら」と思うのって、
どこかのところで諦めたほうが
いいものが見つかる気はするんです。
- 佐久間
- 糸井さんのお仕事って、
最初は制約から来るお仕事でしたもんね。
それこそ広告ってなると。
- 糸井
- いや、それがまたそうでもないんです。
- 佐久間
- そんなことないんですか?
- 糸井
- 広告はクライアントがいて、
それの代弁みたいに考えるとそうなんですが、
何を得られればいいかっていうのは、
うまく代弁できればいいってことでもないので。
- 佐久間
- 違う?
- 糸井
- お客さんとクライアントと、
さらに言うとそこの間に入るぼくが、
みんな喜べればそれでいいんです。
- 佐久間
- それがいいのはわかりますが。
- 糸井
- それが一番いいですよね。
でも、それは商品を代弁したからって、
その一番いいことができるわけじゃない。
モノが売れたらいいかといえば、
それだけがまたいいわけじゃない。
そうなると答えがどこにあるか、
案外わからなくなるんです。
- 佐久間
- わからないんですね。
- 糸井
- 例えばテレビ東京っていう局が
「どうなればいいんですか?」っていうのは、
俺、社長もわかんないと思うよ。
- 佐久間
- たしかに‥‥。
- 糸井
- 視聴率100パーセントで、
「全部取っちゃったらいいんですか?」
と聞いたとしても、そんなのねぇ。
- 佐久間
- それは業界の死滅に近いですもんね。
- 糸井
- じゃあ、ものすごく儲かって、
じゃんじゃん広告入ればいいかって、
それもダメですよね。
人々がたえずテレビ東京の噂をしてくれた。
それが望みでもないはずで。
- 佐久間
- うーん、そうか‥‥。
- 糸井
- そうなると本当のところは、
「テレビ東京があってよかったね」みたいな、
そのへんのモヤモヤしたところに
答えがあるんじゃないかなって思うんです。
- 佐久間
- 揺らいでる状態くらいのときのほうが
一番いいかもしれないと。
- 糸井
- 「もっとよくなるんじゃないの」
って思われてるときのほうが、
「ここまで行ったらピークだね」
って言われるよりかはいいですよね。
- 佐久間
- それはすごくわかります。
ゲームにしてもマンガにしても、
「あそこだけ直してくれたら」
とか言ってるやつこそ、
一番その作品にハマってますよね。
- 糸井
- そうだね(笑)。
- 佐久間
- Netflixの『トークサバイバー!』を見て、
「次あるんだったらあそこは直してほしい」
っていうような感想を見ると、
絶賛してくれてる人なんかより、
「お前が一番ハマってるよ」と思います。
- 糸井
- そいつはもう参加してますよね。
- 佐久間
- そう、参加してるんですよね。
そういう感想は一番シメシメって思いますね。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
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