元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 佐久間
- ぼくが仕事をはじめたとき、
テレビ業界は修羅の世界だったんですけど、
糸井さんが仕事をはじめたときって、
「どこまでなら行ける」とか
「こんなことしたいけど自分にできるかな」とか、
そういうのを考えたことってありますか?
- 糸井
- そんなようなことを
聞かれたことはあるんだけど、
「ぼくは修羅の世界だったんです」
からはじめられると、
ちょっと真剣に話さないと(笑)。
- 佐久間
- ほんとに修羅の世界だったので(笑)。
当時はハラスメントもあったし。
自分がここに完全適応したら
数年で潰れると思ったところから、
この本はスタートしてるので。
- 糸井
- それでいうと、
ぼくは修羅の世界とは思わなかった。
最初はね。
で、大したことないものでも、
案外食えちゃうんだなって。
- 佐久間
- へぇーー。
- 糸井
- 「このくらいで行けちゃうんだ」
っていう気持ちと、
自分はそれを言える場所にも
たどり着いてないってときに、
「俺、もうちょっとできるんじゃないかな」と
割と冷静に思ってましたね。
それくらいの場所にいたので、
自分に気づく人が1人でもいれば、
もうなんでもしてあげようと思った。
- 佐久間
- その気持ちわかります。
- 糸井
- ぼくは喫茶店の隣の人に
仕事を頼まれたこともあります。
たまたまそこにいた客とかに。
- 佐久間
- どういうことですか(笑)。
- 糸井
- 喫茶店で何か書いてたのかなぁ。
隣の人が「そういう職業なの?」
って聞いて来るから「まあ」って答えたら、
「外の仕事とか引き受けたりできる?」って。
そのときは潰れそうな会社の
唯一のコピーライターだったんですけど、
彼の抱えていた仕事をバイトとして
ぼくに回してくれたんです。
- 佐久間
- どういう仕事だったんですか。
- 糸井
- CMの制作プロモーションの
ディレクターみたいな人で、
10本考えると1本1万円くらい出る。
- 佐久間
- つまり、ただアイデアを出すだけの仕事。
- 糸井
- そう、本当に下請けの仕事。
4本くらい出すと4万円だから、
当時の給料分くらいもらえるわけです。
それでうれしそうにバーッと書いて出すと、
「こういうのおもしろいよねー」って。
つまりそう言われるだけのネタで、
それが採用されることはないんです。
- 佐久間
- あー、採用されないネタなんですね。
- 糸井
- この本にもそういうの書いてありますね。
- 佐久間
- おもしろいと思われるものと、
会議を通って世の中に出る強度があるものって、
また別ものなんですよね。
ぼくはそれで結構悩みました。
糸井さんはどうやってそのきっかけを?
- 糸井
- 当時のぼくは、自分の上に
どんな人がいるかも知らないんです。
たった1人のコピーライターなので、
同じ職業の人がどんなふうに
うまくいってるかっていう
事情をまったく知らなかった。
有名な制作プロダクションの
名前も知らなかったくらいですから。
もっとこうなりたいもない。
だから飯が食えてるってだけで、
それなりにけっこう満足もしてた(笑)。
- 佐久間
- なるほど(笑)。
- 糸井
- 「食えてる」っていうのは、
自分にとっては機嫌がよかったですね。
- 佐久間
- そういう糸井さんが、
「ここはけっこう響くな」とか、
「苦労してないのに評価されるな」とかに
気づいた瞬間って何だったんですか。
- 糸井
- それはチームプレーの
おもしろさがはじまってからですね。
- 佐久間
- チームプレー?
- 糸井
- そのときいた会社は本当に潰れちゃって、
1人にならざるを得なくてフリーになったんです。
- 佐久間
- ええ。
- 糸井
- フリーのコピーライターになると、
ぼくが営業でありプロデューサーでありっていう、
そういう役を兼ねることができたんで、
自分が本当にすごいと思ってる
イラストレーターの湯村輝彦さんに
お仕事をお願いしたことがあって。
そしたら湯村さんが「いいよ」って。
- 佐久間
- おおー。
- 糸井
- そのときはもう、
打ち合わせするだけで楽しいんです。
自分が本当にすごいと思ってる人に
「今度こんなことがしたい」って言うと、
湯村さんが「それいいね」とか言ってくれる。
そうやって一緒に作ったのを見て、
自分でこんなにいいと思ってるんだから、
これはきっとどこかに通じるだろうと。
- 佐久間
- 自分がこれだけ強く思えてるんだから、
世の中にも伝わるはずだって思えた?
- 糸井
- そう思えましたし、
どこにもないものってこともわかる。
さらに通じなくもないことをやってる。
つまり、条件は全部そろってた。
あとは誰かが気づくんじゃないのって。
- 佐久間
- それはすごいな(笑)。
そう思えるのはすごいですね。
- 糸井
- それで新人賞みたいなのをもらったんですけど、
それは「他にないもの」というのが
大きな理由だったと思います。
それが「ないもの」とわかってもらえたのは、
ぼくのコピーもそうかもしれないけど、
やっぱり湯村さんと組んだからなんです。
- 佐久間
- チームでつくったから。
- 糸井
- チームとして評価されるよろこびが、
そのときすごくあった気がしますね。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
若かりし頃の佐久間さんが悩み苦しみ
必死になって身につけた「62の方法」が、
出し惜しみされることなく詰め込まれています。
はたらく勇気がじわじわ湧いてくる一冊です。Amazonでのご購入はこちらをどうぞ。