元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 佐久間
- 千原ジュニアさんが
何かでおっしゃっていたことなんですけど、
俳優やミュージシャンの方とか、
芸能人がドラッグに手を出すという
ニュースをときどき聞きますけど、
お笑い芸人ってそういうのがまったくない。
- 糸井
- うん。
- 佐久間
- それは客前でドッカーンって
笑いを取ったときの快楽物質が
とんでもないからじゃないかって。
その快楽物質から覚めるためには、
やっぱり冷静じゃないと
無理っていうのもわかってるというか。
- 糸井
- なるほど。
- 佐久間
- お笑いっていう芸術の場合、
ドラッギーな感じだと行けないっていう。
- 糸井
- 研ぎ澄まされた冷静さと、
非常にロジカルであるがゆえに、
そこを外すことができるんだけど、
じゃあ、そのロジカルの部分が
どんどん発達することで
お笑いがよくなっていくかっていうと、
それはまた逆でもあって、
お笑いって詩でもあるわけですよね。
- 佐久間
- ああ、そうですね。
捉えられないもので
作るしかないところもあります。
- 糸井
- 昔のことでいうと、
ぼくがよく思い出すのは
「トカゲのおっさん」なんですよ。
- 佐久間
- ああ、『ごっつええ感じ』の。
- 糸井
- あれを笑っていいのか、
笑ってはいけないのか、
ある意味では悲しい存在だし、
それを知ってるような知らないような。
- 佐久間
- はい(笑)。
- 糸井
- 大道具さんや小道具さんに
あのコントのセットを作らせて、
トカゲのおっさんに対して
子どもがどういう目で見てるかも考えて、
で、笑いものにされつつ、
本人は元気ものでっていうあたりで
悲しいドラマにしないようキープさせて。
‥‥もうね、あのコントは何(笑)?
- 佐久間
- ぼくは10代だったから、
「これ、友達に電話したほうがいいのか?」
って思いながら見てました(笑)。
‥‥その頃って糸井さんは?
- 糸井
- 十分いい歳ですよ。
中年過ぎですよ、たぶん。
- 佐久間
- クリエイターとして活躍されていた方が、
当時のあれを見たときって、
どういう気持ちだったんですか。
- 糸井
- まず素晴らしいと思うわけです。
で、自分はできそうに思ったとしても、
絶対にできないんだと思った。
- 佐久間
- 毎週やってましたからね。
あんな現代芸術みたいなやつが(笑)。
- 糸井
- 「ひょうきん族」のときは、
それこそ浅草のコントやってる人たちが、
出オチのネタとしてやるみたいなことの
応用編として見られたんです。
- 佐久間
- 構造が理解できたってことですね。
- 糸井
- できた。
でも「トカゲのおっさん」とか、
料理しながらだんだん
頭がおかしくなっていく人とか。
- 佐久間
- 「キャシィ塚本」ですね(笑)。
- 糸井
- もう思い出せばキリもないほど、
どこがおもしろいのかわかんないんだけど、
おもしろいに決まってるじゃんっていう。
- 佐久間
- あの頃は本当に宝石みたいなコントを
毎週やっていたんですよね。
この前の「伝説の一日」でも
ダウンタウンさんの漫才を見て
すげえなと思いながらも、
こんなフリートークを
毎週「ガキの使い」でやってたなって。
それを毎週見ていたと思うと、
20代の頃の自分に
「お前、それ毎週録画しとけよ」
って言いたくなります(笑)。
- 糸井
- そうなんですよね。
- 佐久間
- あの頃のダウンタウンさんって、
やっぱり異常だったんでしょうね。
- 糸井
- 詩ですよね、もう。
- 佐久間
- そうですね。
- 糸井
- 笑いの仮面を被ったすごい詩人。
ボブ・ディランがノーベル賞もらえるなら、
ダウンタウンがノーベル賞をもらっても。
- 佐久間
- おかしくないくらい。
- 糸井
- 全然おかしくないと思う。
- 佐久間
- そりゃ、呪いが解けないわけだ(笑)。
- 糸井
- しかも、ある一部分とか、
あそこになかったものという形で、
いろんなお笑いの人たちに
それが系統樹として広がっているわけで。
- 佐久間
- 系統樹として広がってますね。
たけしさんやさんまさんも、
もちろんそこにはいますけど、
ダウンタウンさんのカルチャーというか、
松本人志さんが散りばめたピースは、
いまの現代お笑いの
いろんなところにいると思います。
- 糸井
- いまちょうど名前が出ましたけど、
たけしさんやさんまさんは、
「いま、おもしろい」っていうものを
本当にいつもわかってますよね。
受け手として全然鈍ってない。
- 佐久間
- まさにそうですね。
一番最初の話に戻っちゃいますけど、
たけしさんやさんまさんは
受け手としてもとんでもないです。
- 糸井
- 先日、ちばてつやさんに会ったんです。
- 佐久間
- ええ。『あしたのジョー』の。
- 糸井
- あの人は漫画家なんだけど、
同じくらいそれができてる方で。
- 佐久間
- ああ、そうなんですね。
だからいまも「ちばてつや賞」とか、
とんでもなくおもしろいって言いますもんね。
- 糸井
- みんなそこですよね。
- 佐久間
- 長く一線でやられてる方の中には、
絶対に錆びない受け手の自分がいる。
- 糸井
- いる。
- 佐久間
- 結局、矢沢さんが自分に厳しかったり、
木村さんが「俺のダンスは本物じゃない」
みたいなことを言うのは、
受け手の自分が錆びてないからなんでしょうね。
- 糸井
- まったく錆びてない。
さんまさんでいうと
『向上委員会』のときの働きぶりね。
- 佐久間
- 信じられないですよ(笑)。
- 糸井
- もうね、涙が出る(笑)。
- 佐久間
- この前『さんま御殿』に
出演させていただいたんですけど、
さんまさん66歳なんですけど、
本番中、水一口も飲まないで
2時間収録まわして帰っていったんです。
信じられないですよ(笑)。
- 糸井
- 水も飲まない?
- 佐久間
- 一口も飲まなかったです。
スタジオ来てすぐまわして、
2時間何も飲まないまましゃべって、
最後に「ほな!」って言って帰りました。
- 糸井
- はーー!
- 佐久間
- 「なんだ、この人は」と思いました。
本番中に水を一滴も飲まないのは、
世界でもポール・マッカートニーと
さんまさんだけだと思います、本当に(笑)。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
若かりし頃の佐久間さんが悩み苦しみ
必死になって身につけた「62の方法」が、
出し惜しみされることなく詰め込まれています。
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