ヘアメイクという仕事を通じ、
俳優やモデルなど、表現をなりわいとする人たちに
長くふれてきた岡田いずみさんは、
その人の魅力について
深く考える瞬間がたびたびあるといいます。
人の魅力って何だろう?
表現という仕事に就く人の特別さって?
なぜ、あの人は輝いて見えるのだろう?
その話をするならぜひ、と、
岡田さんが会いたかったのが、
AMUSEで新人発掘を担当し、
多くの俳優を見いだしてきた大橋良行さんでした。
大橋さんは、街をあるく彼らの、
いったい何を見てきたのか、
どこに魅かれて声をかけるのか。
そして、魅力とはいったい何なのか。
全5回、たっぷりおたのしみください。

>大橋良行さんのプロフィール

大橋良行(おおはし・よしゆき)

株式会社AMUSEの新人開発担当マネジャー。
発掘(スカウト)から、俳優の育成を担当する。
自ら経営をしていた株式会社ウィルの時代から、
上野樹里、吉高由里子、佐藤健、
三吉彩花、甲斐翔真などを育てててきた。

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その4 虚空から花を取り出すように。

大橋
僕、ミスアタックも結構あって、
しまったなぁと思うこともあるんです。
岡田
どういうときにそう思われるんですか?
大橋
この世界に引き込んではいけない人、
っていうのがいるんです。
岡田
え?!
大橋
いるんです。
引き込まなきゃいけない人も、います。
そこが、段々分かってくるようになる。
岡田
引き込んじゃいけないのは、
やっぱり、その子のために?
大橋
そうです。
岡田
大変な世界ですもんね。
大橋
ほんとに素晴らしい世界ですけれど、
残酷な世界でもありますので、
いろんな結果になって出てくることを、
僕はもうほんとに、たくさん知っています。
声を掛けるんじゃなかったとか、
逆に、この子こそ声掛けてあげなきゃいけないとか、
その人にとって最後の砦みたいな世界でもあるんです。
いろんな意味で。
ですから、たまたまですけど、
上野さんや吉高さんや健くんなんかは、
この世界があってよかった人間かもしれません。
虚空から花を取り出していくような世界ですから。
スカウトっていうのは。
岡田
そうですよね。
大橋
日本中が「わっ!」と言ってくれるときもあれば、
家族から恨まれることもあります。
そこはもう筆舌に尽くしがたいです。
MBSさんの華丸大吉さんが司会の
『逃がした魚は大きい』っていう番組で、
僕が逃した人で、今どうしても会いたい人を
探してくださったことがあるんです。
2007年ですから結構前ですね、
そのとき中学2年生の女の子で、
博多で通りかかって初めて会って、
名前だけは聞いていたんですけど
そのあと会えなかった子がいたんです。
MBSさんで調べていただいたら、
その後、熊本大学理学部に入られて。
それから、モロッコだったか
アフリカの大学の医学部に行かれた。
その頃は日本に帰ってきていて、パッと、
幕が開いたら、彼女がいてくれたんです。
岡田
え、すごい! 
再会できたんですね。
大橋
はい。でもあの子はやっぱり、
この世界に入らなくてよかったと思いました。
今、女医さんをやってらっしゃいます。
めちゃくちゃ美人で、
会うだけで病気が治りそうな感じですよ(笑)。
岡田
そっか。彼女はその道でよかったということですね。
大橋
そうです。
逆に、この世界に入ってよかった、
っていう人もたくさんいますし。
岡田
大橋さんはチャンスの神様でもあるじゃないですか。
ローティーンの吉高さんがイヤリングをキラキラって、
そうやった瞬間に何かが始まった。
それをキャッチして、
「チャンスを与える」という言葉が合ってるのか
わからないですけど、
そのチャンスを共有して、
一緒にやっていこうね、みたいな、
その人の力を最大限に盛り上げていってくれる、
そういうお仕事だという気がするんですよね。
大橋
うんうん。
そうかもしれないですね。
岡田
大橋さんは、ご自分から見つけるわけですよね。
向こうから「私を見つけて!」っていう印象の子を
探すわけではなくて。
大橋
もう何回も、毎日来る子もいますよ。
目の前に立たれることも、
10年ぐらい前にはありましたね。
でもそういうタイプに触手は動かないですね。
なんでしょうね、多分、
こっちから見つけたいタイプなんでしょうね。
自分の癖なのかもしれないですけど、
どっちかっていうと偶然派なんでしょうね。

岡田
「移り変わっていくもの」と同時に、
私たちって、「永遠なるもの」、
エバーグリーンなものを目指していたりもしますよね。
ずっと変わらない魅力ってなんだろう、って。
私、『徹子の部屋』をよく観るんですけれど、
長く第一線で活躍をしている人って、共通した、
自分らしさをあまり隠したりとかしない、
伸び伸びとされてる部分があるような気がするんです。
あの伸び伸び感はどこからきているんでしょう。
そして人柄が、優しかったり、大人しかったり
いろいろなんだけど、
「一緒にいたくなる」ような、
「お話をしてみたくなる」ような、
何かがあるなぁと思うんです。
大橋
そうですね。アーティストもそうですけど、
長続きする人ってすごいですよね。
岡田
当たり前のことほど、「その人」が
出るような気がしているんです。
ほんとに当たり前のことって
意外とできないと思うんですよ。
でもそこに、この人はきっとこういうことを
大事に思って生きてるんだなぁっていう、
真摯な姿勢みたいなものが出る。
大御所と呼ばれて、長く輝き続け、
ほんとにいいお仕事されてる人には、
なにか共通点があると思っているんですけど、
大橋さんから見てどうでしょう?
大橋
意外と大御所のほうが
ストラグル(苦戦、もがき、焦り)
しているのかもしれませんね。
あがきながら努力するというか。
フラストレーションや悩みを抱えているけれど、
それを見せないだけなのかもしれないですよ。
岡田
あぁ!
大橋
多分そうなんじゃないかな。
必死だと思いますよ。
岡田
そうですよね。
大橋
僕らは新人をつかまえて、
ボンボンぶつけていますけど、
古くからいる人たちはそれを、バン!と受けて、
咀嚼して、協業していくわけですよね。
きっと相当ストラグルしてると思うんだけど、
そんな姿はお見せにならないでしょうね。
たとえばサザンオールスターズって弊社所属ですけど。
岡田
はい、大好きです。
大橋
ずっとトップでいらっしゃって、
でも、作曲をしている姿とかは、
お出しになっていないと思う。
少なくとも僕は見たことがないです。
でも、実際は、
相当大変なんじゃないかなと思うんです。
岡田
自分たちがつくってきたものがあって、
更にその上を、もっといいものを、って思うと、
どんどん大変になっていくと思うし、
若手がいっぱい出てきて、
みんなが新しいものに目が行くなかで、
「私」に何ができるのか。
やっていることが正解かどうかなんて、
誰も教えてくれないですよね。
しかもお師匠さんがいるわけじゃなくて、
自分1人でやっていかなければいけない。
そういうとき、やっぱり何かを信じて、
進んで行く姿勢、その世代の方たちの姿勢は、
私、ずっと学ばなければいけないなぁと思って、
正座しそうな勢いで
テレビの前にいたりとかします(笑)。
大橋
わかります(笑)。
岡田
桑田さんが最初出てきたときのイメージって、
もっと軽い感じだった気がしたんですけど、
どんどんどんどん、時代を歌っていってくれた。
その時代が大変になってきたとき、
桑田さんなりにいろんなことを考えて、
今を盛り上げていこうって思って
つくってるんだなぁって思うことがあります。
言葉がすごく好きなので、
歌詞を音楽に乗せてくれながらも、
強い社会性を感じたりして、
「今という時代をこんなふうに楽しんでみないか?」とか、
「大丈夫だよ」みたいなメッセージをいただいています。
そういう人たちってなんでそんなに世の中に
メッセージを出してくれるんだろうっていう思いが。
絶対大変なはずなんですけど、
楽をしたければ楽はできるかもしれないのに、
そこに向き合う人たちっていうのが
長くいらっしゃるのかなぁと思ったり。
大変なことに目を背けないというか。
大橋
大御所になられた方には、
スタッフの方々がずっと絶え間なく
努力をしてらっしゃるのも分かるんですよ。
長続きするっていうのは、
実は1人でできるものではなくて、
周りの人たちとの連携とか、
コンセンサスとか思いやりみたいなものが、
次につながっていくために大事なことじゃないかなぁって、
うっすら、思うんですね。
岡田
そうですね。
私たちもスタッフとしてかかわるときには、
そうありたいなといつも思います。
この人が全力を出せて、次につながっていったり、
新しいことをやってみたいと思えるように、
足りないところはスタッフでどうにかできないか
考えてみたりとか。
ほかのスタッフの気持ちもすごくわかるし、
本人には見えないところで
たくさんの人が動いてるのも知っているので、
そうやってできたベストな環境ごと、
その人なのかなって思うときがあるんですよね。
たとえば若い子がスカウトをされて
芸能界に入ったとしたら、
事務所の人も含めて環境だと思うんですけど、
その人の生活そのものだったりとか、
ご家庭だったり、友達だったり、
そういう環境ごとその人を輝かせてるような気がして、
その人単体に見えるんだけど、輝いてる魅力って、
実はそういうことも影響してるのかなぁと
思ったりするんですよね。
大橋
そうですね。
番組でいうと「朝ドラ」なんて、世界で類を見ないんです。
月曜日から金曜日までやるような朝の番組なんて。
アメリカでは、ソープオペラという昼間のはありますけど。
岡田
朝ドラはハードだって聞きますね。
大橋
すごいですよ。
ず~っと続けてるわけですからね。
俳優さんたち、特にヒロインも大変ですけれど、
スタッフもほんっと大変です。
岡田
直接聞いたんじゃないですけど、
放送局のロッカールームのロッカーに
殴ったのか蹴ったのか、へこみがたくさんあるとか。
よっぽど大変なんですね。
そんな状況でもなにかを目指していける、
続けられる人って、「集中力」や「忍耐力」、
やり続ける「継続力」もないと、
長くは続かないだろうなと。
大橋
そうでしょうね。
そこに一体なにがあるんだろうっていうのは、
人それぞれなんじゃないかなと思いますけれど、
それが、アーティストが、
アーティストたるゆえんでしょうね。

(つづきます)

2022-03-31-THU

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