会田誠さん、山口晃さん、O JUNさん、
池田学さん、金子富之さん‥‥と、
挙げていったらキリがないんですけど、
個性的で魅力的、
ときに論争的な芸術家が多数所属する
ギャラリーがあります。
ミヅマアートギャラリー、と言います。
どうして、つぎつぎ、こんなにも。
そんな疑問をいだきながら、
代表の三潴末雄さんにうかがいました。
ギャラリストという仕事について。
どうしてアートは「高い」のか。
アーティストの言葉は、なぜ響くのか。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>三潴末雄さんのプロフィール

三潴末雄(みづますえお)

ミヅマアートギャラリー エグゼクティブ・ディレクター

東京生まれ。成城大学文芸学部卒業。
1980年代からギャラリー活動を開始、
94年ミヅマアートギャラリーを東京・青山に開廊
(現在は新宿区市谷田町)。
2000年からその活動の幅を海外に広げ、
インターナショナルなアートフェアに積極的に参加。
日本、アジアの若手作家を中心に
その育成、発掘、紹介をし続けている。
また、アジアにおけるコンテンポラリーアートマーケットの
更なる発展と拡大のため、
2008年に北京にMizuma & One Galleryを、
2012年にシンガポールのギルマンバラックスに
Mizuma Galleryを開廊した。
批評精神に溢れた作家を世界に紹介するとともに、
ジパング展等の展覧会を積極的にキュレーションし、
その活動の幅を広げている。
著書に 『アートにとって価値とは何か』 (幻冬舎刊)、
『MIZUMA 手の国の鬼才たち』(求龍堂刊)がある。

MIZUMA Sueo Executive Director, Mizuma Art Gallery
Born in Tokyo. Graduated from the Literature Department of Seijo Univeristy, Tokyo. In the 1980s he began working with gallery projects, and in 1994 opened Mizuma Art Gallery in the Aoyama area of Tokyo (it is now located in Ichigayatamachi, Shinjuku-ku, Tokyo).
From 2000 onwards he expanded to work on an international scale, actively participating in numerous art fairs worldwide. Focusing on young artists from Japan and other Asian countries, Mizuma continues to discover, support and introduce their work to ever-greater audiences. With the objective of developing and expanding the contemporary art market still further within Asia, in 2008 he opened Mizuma & One Gallery in Beijing and in 2012 Mizuma Gallery opened in Singapore’s Gillman Barracks.As well as introducing to the world artists whose works are redolent with a spirit of bitter critique, he also takes a proactive role in curating exhibitions such as the renowned recent ZIPANGU shows, which toured museums throughout Japan. The range of his contributions to the global art scene continues only to expand.  Text: ‘What is Value in Art?’ (published by Gentosha), ‘MIZUMA Geniuses from the land of handwork’ (published by Kyuryudo)

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第2回 なぜ芸術家の言葉は響くのか。

──
巨大な絵を細いペンで描く池田学さんとは、
どのようないきさつで?
三潴
はじめは、個展のDMが届いたんで、
展覧会を見に行ったんです。
そしたら、一見して、なんて作家だと。
──
大きな作品もあったんですか、すでに。
三潴
今ほどではなかったんだけど、
朽ちた戦艦を描いた《再生》がありました。
今では浜松市美術館の所蔵ですが、
そのとき展覧会をやってたギャラリストに、
「俺、作品を買うからさ、
あの作家やらせてよ」って言ったんですね。
──
池田さんの展覧会を、やらせてと。
三潴
そしたら
「本人さえよければ、いいよ」ってことで、
のちにやることになるんだけど、
本人が言うには、
はじめの1週間は、誰も来なかったらしい。
──
その展覧会に、ですか? 
池田さんでも、はじめは‥‥そうですか。
三潴
ぼくは、絶対におもしろくなるぞと思って、
それから3日間、
展覧会に通い詰めて口説いたんですけどね。
──
口説くというと、どんなふうに?
三潴
今でもよく覚えていますよ。
喫茶店でお茶を飲みながら、
「君は世界に通用する才能があると思う、
ぼくと一緒にやらないか」
──
おお。
三潴
「でもね、ひとつだけ言っておくけど、
ちいさい絵は描かないこと」
「大きな絵で勝負したほうがいい。
そうすれば必ず世界へ行けるよ」って。

──
大きな作品に、魅力を感じたんですか。
三潴
たとえは良くないかもしれないけど、
ぼくは、作家というのは、
池の鯉に似ていると思ってるんです。
つまりさ、ちいさな生簀で育てても
ちいさくしか育たないけど、
でかい生簀でのびのび泳がせたら、
そのぶん大きく育つってことがある。
──
なるほど。
三潴
ただ、当時、池田くんは、
三潴の言うことなんか聞いちゃダメだ、
ちいさい絵が売れるようになってから
大きな絵を描くべきだって、
まわりから、散々言われたそうですが。
──
そうなんですか。
三潴
でも、大作をごまかすことはできない。
才能があるかどうかは、
大きな絵でバーンとやらせればわかる。
そんなこんなで、池田くんには
「大きな絵を描け」と言ったんですが、
そのときは、
あんなに時間がかかるとは思わずにね。
──
たしか《誕生》は「3年3ヶ月」とか。
三潴
ミヅマでの初個展では1年半くらいかけて、
《興亡史》という作品を描いたんです。
今、高橋コレクションに入ってるけど、
その絵を見に、すごい数の人が来て。
──
高橋コレクションというのは、
精神科医で現代アートコレクターの、
高橋龍太郎さんのコレクション。
三潴
海外からもコレクターがこぞって来て、
白紙の小切手を渡されて、
「幾らでもいいから書いてくれ」とか。
──
そんな世界が本当にあるんですね‥‥。
三潴
あるんですよ。
その後、池田くんは、《予兆》という
また大きな作品を描き、
そのあとに《誕生》へ向かうわけです。
──
ウィスコンシン州のチェゼン美術館で
滞在制作をして、3年3ヶ月をかけて。
三潴
今は、民間の企業が大きな制作空間を
提供してくれていて、
新しい作品を描きはじめています。
それは《誕生》よりさらに大きな作品。
──
わあ、ほんとですか。すごい。
三潴
3メーターかける6メーター、かな。
──
いつごろ完成するんですか。
三潴
また3年はかかるんじゃないですかね。
ちょっと前、最初の筆入れのシーンに
立ち会ってきたんだけど、
何を描くかは、
まだ、決まってないって言ってました。
──
決まってないけど、筆は入れる。
三潴
漠然としたテーマはあるんだろうけど。
描きはじめたんです、とにかく。
──
それは、楽しみです。
三潴
いや、歴史に残るような作品の誕生を
目のあたりにできるというのは、
ギャラリストとして、
こんな幸せなことはないと思ってます。
なにせ、3年もかけて描いてる間には
いろんなことが起きるんだ。
子どもが生まれたりとかもするんだよ。
次女も三女も。
──
池田さん、《誕生》の制作中に
利き手を怪我して、
左手で描いたりもされてましたよね。
三潴
あれだけ大きな作品になってくると、
作品自体のなかに、
作家の人生が入っちゃうんだよ。
ギャラリストってのは
完成した作品を売ればいいんだよって、
もちろんそれが仕事なんだけど、
ぼくは、そんなふうにしてまで、
作家が目の前の作品に込めている
「大切なもの」を、
同じように大切にしたいと思っていて。

──
自分はアートについては素人ですが、
アートのことに興味があって、
こうしてよく
取材をさせていただているんです。
で、その記事を、
アートの専門家ではない、
一般の読者が読んでくれるんですね。
三潴
ええ。
──
すると、山口さんや池田さんたち
アーティストの「言葉」が、
ぼくと同じように、
アートのことに
必ずしもくわしくない読者にも、
すごく響いている感じがするんです。
三潴
ああ。
──
それって、なぜだと思われますか。
三潴
今、人のものの見方だとか感じ方が、
なかば無理やり
画一的にさせられているような空気、
あると思うんです。
そんななかで、アーティストってさ、
自分なりの見方、感じ方を
貫いているからじゃないですかねえ。
──
なるほど。
三潴
一見、アーティストなんて、
狂ってるように見えるかもしれない。
でも、本当におかしいのは、
どっちなんだろうってことですよね。
──
その「狂ってるように見える人」の
言葉や考え方や生き方に、
共感したり憧れている自分がいるんです。
それは、そういうアーティストの言葉が、
ぼくたち人間の
本質的な部分に触れているからだろうと
思ったりします。
三潴
狂ってると同時に、天才だから。
彼らは、豊かな知識人でもあるしね。
山口くんなんか、
『ヘンな日本美術史』って書いてさ、
小林秀雄賞なんか取っちゃう。
──
本当ですよね。絵ばかりでなく。
三潴
それも頭でっかちの秀才じゃなくて、
身体性を伴った知識人なんです。
だからこそ、山口くんは、
雪舟を研究している専門家にだって、
「私はこう考えます」って言える。
──
身体的な言語の持つ、説得力。
三潴
机上の空論でない、言葉の力ですよ。
──
肉体的・身体的な言葉だから、響く。
ぼくたち「ふつうの人たち」に。
三潴
狂人であると同時に、天才なんです。
アーティストってのは。

池田学 誕生 2013-2016 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 佐賀県立美術館蔵 デジタルアーカイブ:凸版印刷株式会社 ©️IKEDA Manabu Courtesy of Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore 池田学 誕生 2013-2016 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 佐賀県立美術館蔵 デジタルアーカイブ:凸版印刷株式会社 ©️IKEDA Manabu Courtesy of Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore

(つづきます)

2019-11-26-TUE

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  • いま、ミヅマアートギャラリーでは、
    O JUNさんの個展を開催中です。

    市ヶ谷と飯田橋のちょうど真ん中あたり、
    神田川のほとりに建つ、
    ミヅマアートギャラリーの長方形の建物。
    中ではいま、3年ぶりという
    O JUNさんの個展が開催されています。
    「途中の造物」と名付けられた展覧会は、
    油彩を中心とした新作が見られます。
    12月14日(土)まで。
    詳しくは展覧会のページでチェックを。
     
    O JUN
    《静物》
    2019 
    キャンバスに油彩 72.7×60.6cm
    撮影:宮島径 
    ©︎O JUN, Courtesy of Mizuma Art Gallery