シリア料理のレシピ集『スマック』著者の
アナス・アタッシさん、
同書の日本語版を刊行した翻訳家で
編集者の佐藤澄子さんと、
シリアの料理を食べながら、話しました
(アナスさんは後半からZOOMで登場)。
シリアという国のこと、
シリアの人びとのこと。
料理がつなぐもの、料理が感じさせるもの。
食べる前に抱いていたシリアのイメージが、
変わりました。
ゆたかで、あたたかい時間でした。
何よりも、シリアの料理が、おいしかった。
もっと食べたいので、
こんどは自分でつくってみようと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- アナスさんのお話をうかがっていて
わかったのは、
料理って、異国の地でも、
どんどん友だちをつれてきてくれる、
そんな役割を果たしているんだなと。 - この本に載っている食卓の写真には、
豊さと幸せがあふれていますし。
- アナス
- 今から思い返すと、子どものころは、
おいしいものを
たくさん食べさせてもらってました。 - 甘やかされてたんですね(笑)。
- ──
- いいなあ(笑)。
- アナス
- 豊かとおっしゃってくれましたけど、
シリアのいいところって
「いつでも料理がある」ことです。 - 友だちが訪ねて来くるときには、
かならず食べるものを用意するのが、
ぼくたちのやり方。
だからいま、ぼくは、自分自身でも、
その文化を
引き継いでいこうと思ってるんです。
友だちが遊びに来てくれたときは、
とにかく、
たくさんの料理をふるまおう、って。
- ──
- それは、オランダで?
- アナス
- はい、続けています。
- パートナーと暮らしているんですが、
しょっちゅう話すのは、
どうも‥‥
ぼくらが友だちの家に呼ばれるより、
ぼくらの家に来たがる人のほうが、
圧倒的に多いよね‥‥ということで。
- ──
- 料理がいっぱい出てくるから(笑)。
- アナス
- そうです(笑)。
- ──
- それも、おいしいお料理‥‥が。
- アナス
- 友だちも気に入ってくれてるみたい。
- ──
- アナスさんは、
みんなで一緒にごはんを食べて
おしゃべりすることって、
どうして大事だと思われますか。
- アナス
- 料理‥‥それもおいしい料理があると、
その「場」が変わると思うんです。 - みんなの居心地もよくなりますし、
知らない人同士でも
くつろいで話ができるようになる。
- ──
- たしかに。
- アナス
- 料理って、迎える側のホストが
訪ねて来てくれた人を歓迎している印。
来てくれてうれしいという気持ちを、
相手に知らせるものでもありますよね。 - 奥野さんも今日、佐藤さんの家に来て、
きっと、
そういう気持ちになったと思うんです。
- ──
- はい、まさしく。
歓迎されているといううれしさですね。 - ちなみにアナスさんは、
お母さんのお料理のどういうところが
好きですか。
- アナス
- それは、いちばん難しい質問ですけど、
ぼくが母の料理で、
いちばんいいなと思っているところは
「火の使い方」なんです。
- ──
- 火‥‥火加減?
- アナス
- そう、火を使うときに、
きちんと時間をかけているっていうか。
母は、ちゃんと「待っている」んです。 - トマトソースをつくるときにも、
深い味わいを出すために、
きっちり時間をかけて火を上手に使う。
5分でつくったトマトソースと、
1時間、煮込んだトマトソースとでは、
まったく別物ですから。
- ──
- 同じ材料を使っていても。
- アナス
- 火にかけて適切な時間「待つ」ことで、
いい味を引き出す。 - 火が、味をよくしてくれるんですよね。
母の料理からは、
そのことをいちばん学んだと思います。
- ──
- アナスさんのお料理って、
お母さんのお料理とは、違うんですか。
- アナス
- 火の使い方については、
母から学んだ通りだとは思いますけど、
ぼくのほうが
多めにスパイスを使うかもしれない。
たぶん、母よりも
より実験的に料理するのが好きですね。
- ──
- お料理は、じゃあ、毎日?
- アナス
- 1日1食か2食は、ぼくがつくります。
ただ、もしも日本に行って、
話に聞くように、
コンビニごはんがおいしいのであれば、
そんなにつくらないかも(笑)。
- ──
- 日本のコンビニ、すごいんで!(笑)
- でも、今日はずっと、
アナスさんのお母さんの料理レシピに、
感動していました。
つまりですね、おいしくて。
- アナス
- よかった(笑)。うれしいです。
- ──
- 大学時代の恩師がベトナム戦争世代で、
学生のときは
戦争反対の運動をやっていたんですが、
あるとき、デモ行進をしているときに
「ベトナムの人たちって、
朝ごはんに、何を食べてるんだろう?」
と、ふと疑問が湧いたんだけど、
答えが出てこなかったらしいんですね。 - そのときに、そんなことも知らないで、
デモ行進をやっててもダメだと、
一回、運動をやめて、
ベトナムの歴史や人々の生活について、
一から勉強し直したそうなんです。
- アナス
- なるほど。
- ──
- 先生からそのエピソードを聞いて以来、
「食べるもの」って、
その国の人々の暮らしを表しているし、
考え方とか、気持ちとか‥‥
どういう人たちであるかってことにも、
関係しているような気がしてます。 - 今日、はじめて食べたシリアの料理は、
とても優しい味がしたんです。
だからシリアへ行ったこともないのに、
シリア人の友だちもいないのに、
なぜか身近に感じたし、
親しみも湧いたのかなと思っています。
- アナス
- まったく同意します。
- ぼくが旅をする理由が、それなんです。
さまざまな国へ行って、
その国の人たちが
朝ごはん、昼ごはん、晩ごはんに
どんなものを食べているんだろうって、
そのことにすごく興味があって。
- ──
- そうですか。
- アナス
- やっぱり、異国の食文化を知ることで、
その国の人たちのことが、
ちょっとわかるようになるんですよね。 - 言葉をはじめ、各国には、
さまざまな文化の要素がありますけど、
なかでも「食」って、
かなりすごいものだぞって思ってます。
- ──
- 日本の人たちも、この本で、
シリアの料理をつくって食べたら、
きっと、アナスさんの伝えたいことも、
伝わるような気がします。
- アナス
- ありがとうございます。
- ぜひ、もっとシリアの料理をつくって、
食べて、
どんなふうに思ったか、聞きたいです。
- ──
- はい、佐藤さんほど
うまくできるかはわからないですけど、
自分でつくって食べたら、
感じたことを、またお伝えしますね。
- アナス
- ありがとう。
- ──
- 佐藤さんに、スマックももらったんで。
「これがないとはじまらない」やつ。
- アナス
- それはよかった(笑)。
ぼくにとって、
日本食って欠かせないものなんですね。
ラーメンやお寿司なんか、
ひと月に一度は、食べずにいられない。
- ──
- そうなんですか。
- アナス
- うん、だから日本のみなさんにとって、
シリア料理が、いつか、
そういうものになったらうれしいです。
(終わります)
2023-07-22-SAT
-
アムステルダム在住のシリア人、
アナス・アタッシさんが刊行した
お母さんの料理のレシピ集。
まずは、その美しい料理の写真に
惹かれて手に取りました。
味のイメージはつかなかったけど、
翻訳者であり、編集者であり、
版元でもある佐藤澄子さんが
レシピをもとにつくってくれた
シリア料理が、本当においしくて。
ところどころにはさまる、
アナスさんのコラムもいいんです。
インタビューにも出てきますが、
「スマック」とは、
「これがなければはじまらない」
という、シリアのスパイス。
日本でも手に入るようなので、
ぜひ、おうちでつくってください。
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