シリア料理のレシピ集『スマック』著者の
アナス・アタッシさん、
同書の日本語版を刊行した翻訳家で
編集者の佐藤澄子さんと、
シリアの料理を食べながら、話しました
(アナスさんは後半からZOOMで登場)。
シリアという国のこと、
シリアの人びとのこと。
料理がつなぐもの、料理が感じさせるもの。
食べる前に抱いていたシリアのイメージが、
変わりました。
ゆたかで、あたたかい時間でした。
何よりも、シリアの料理が、おいしかった。
もっと食べたいので、
こんどは自分でつくってみようと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第5回 母の料理から教わったこと。

──
アナスさんのお話をうかがっていて
わかったのは、
料理って、異国の地でも、
どんどん友だちをつれてきてくれる、
そんな役割を果たしているんだなと。
この本に載っている食卓の写真には、
豊さと幸せがあふれていますし。
アナス
今から思い返すと、子どものころは、
おいしいものを
たくさん食べさせてもらってました。
甘やかされてたんですね(笑)。
──
いいなあ(笑)。
アナス
豊かとおっしゃってくれましたけど、
シリアのいいところって
「いつでも料理がある」ことです。
友だちが訪ねて来くるときには、
かならず食べるものを用意するのが、
ぼくたちのやり方。
だからいま、ぼくは、自分自身でも、
その文化を
引き継いでいこうと思ってるんです。
友だちが遊びに来てくれたときは、
とにかく、
たくさんの料理をふるまおう、って。
──
それは、オランダで?
アナス
はい、続けています。
パートナーと暮らしているんですが、
しょっちゅう話すのは、
どうも‥‥
ぼくらが友だちの家に呼ばれるより、
ぼくらの家に来たがる人のほうが、
圧倒的に多いよね‥‥ということで。

アナス・アタッシ『スマック』より アナス・アタッシ『スマック』より

──
料理がいっぱい出てくるから(笑)。
アナス
そうです(笑)。
──
それも、おいしいお料理‥‥が。
アナス
友だちも気に入ってくれてるみたい。
──
アナスさんは、
みんなで一緒にごはんを食べて
おしゃべりすることって、
どうして大事だと思われますか。
アナス
料理‥‥それもおいしい料理があると、
その「場」が変わると思うんです。
みんなの居心地もよくなりますし、
知らない人同士でも
くつろいで話ができるようになる。
──
たしかに。
アナス
料理って、迎える側のホストが
訪ねて来てくれた人を歓迎している印。
来てくれてうれしいという気持ちを、
相手に知らせるものでもありますよね。
奥野さんも今日、佐藤さんの家に来て、
きっと、
そういう気持ちになったと思うんです。

──
はい、まさしく。
歓迎されているといううれしさですね。
ちなみにアナスさんは、
お母さんのお料理のどういうところが
好きですか。
アナス
それは、いちばん難しい質問ですけど、
ぼくが母の料理で、
いちばんいいなと思っているところは
「火の使い方」なんです。
──
火‥‥火加減?
アナス
そう、火を使うときに、
きちんと時間をかけているっていうか。
母は、ちゃんと「待っている」んです。
トマトソースをつくるときにも、
深い味わいを出すために、
きっちり時間をかけて火を上手に使う。
5分でつくったトマトソースと、
1時間、煮込んだトマトソースとでは、
まったく別物ですから。
──
同じ材料を使っていても。
アナス
火にかけて適切な時間「待つ」ことで、
いい味を引き出す。
火が、味をよくしてくれるんですよね。
母の料理からは、
そのことをいちばん学んだと思います。

アナス・アタッシ『スマック』より アナス・アタッシ『スマック』より

──
アナスさんのお料理って、
お母さんのお料理とは、違うんですか。
アナス
火の使い方については、
母から学んだ通りだとは思いますけど、
ぼくのほうが
多めにスパイスを使うかもしれない。
たぶん、母よりも
より実験的に料理するのが好きですね。
──
お料理は、じゃあ、毎日?
アナス
1日1食か2食は、ぼくがつくります。
 
ただ、もしも日本に行って、
話に聞くように、
コンビニごはんがおいしいのであれば、
そんなにつくらないかも(笑)。
──
日本のコンビニ、すごいんで!(笑)
でも、今日はずっと、
アナスさんのお母さんの料理レシピに、
感動していました。
つまりですね、おいしくて。
アナス
よかった(笑)。うれしいです。

──
大学時代の恩師がベトナム戦争世代で、
学生のときは
戦争反対の運動をやっていたんですが、
あるとき、デモ行進をしているときに
「ベトナムの人たちって、
朝ごはんに、何を食べてるんだろう?」
と、ふと疑問が湧いたんだけど、
答えが出てこなかったらしいんですね。
そのときに、そんなことも知らないで、
デモ行進をやっててもダメだと、
一回、運動をやめて、
ベトナムの歴史や人々の生活について、
一から勉強し直したそうなんです。
アナス
なるほど。
──
先生からそのエピソードを聞いて以来、
「食べるもの」って、
その国の人々の暮らしを表しているし、
考え方とか、気持ちとか‥‥
どういう人たちであるかってことにも、
関係しているような気がしてます。
今日、はじめて食べたシリアの料理は、
とても優しい味がしたんです。
だからシリアへ行ったこともないのに、
シリア人の友だちもいないのに、
なぜか身近に感じたし、
親しみも湧いたのかなと思っています。
アナス
まったく同意します。
ぼくが旅をする理由が、それなんです。
さまざまな国へ行って、
その国の人たちが
朝ごはん、昼ごはん、晩ごはんに
どんなものを食べているんだろうって、
そのことにすごく興味があって。
──
そうですか。
アナス
やっぱり、異国の食文化を知ることで、
その国の人たちのことが、
ちょっとわかるようになるんですよね。
言葉をはじめ、各国には、
さまざまな文化の要素がありますけど、
なかでも「食」って、
かなりすごいものだぞって思ってます。
──
日本の人たちも、この本で、
シリアの料理をつくって食べたら、
きっと、アナスさんの伝えたいことも、
伝わるような気がします。
アナス
ありがとうございます。
ぜひ、もっとシリアの料理をつくって、
食べて、
どんなふうに思ったか、聞きたいです。
──
はい、佐藤さんほど
うまくできるかはわからないですけど、
自分でつくって食べたら、
感じたことを、またお伝えしますね。
アナス
ありがとう。
──
佐藤さんに、スマックももらったんで。
「これがないとはじまらない」やつ。
アナス
それはよかった(笑)。
 
ぼくにとって、
日本食って欠かせないものなんですね。
ラーメンやお寿司なんか、
ひと月に一度は、食べずにいられない。
──
そうなんですか。
アナス
うん、だから日本のみなさんにとって、
シリア料理が、いつか、
そういうものになったらうれしいです。

アナス・アタッシ『スマック』より アナス・アタッシ『スマック』より

(終わります)

2023-07-22-SAT

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  • シリアのおうち料理のレシピ集 『スマック』、美しい本です

    アムステルダム在住のシリア人、
    アナス・アタッシさんが刊行した
    お母さんの料理のレシピ集。
    まずは、その美しい料理の写真に
    惹かれて手に取りました。
    味のイメージはつかなかったけど、
    翻訳者であり、編集者であり、
    版元でもある佐藤澄子さんが
    レシピをもとにつくってくれた
    シリア料理が、本当においしくて。
    ところどころにはさまる、
    アナスさんのコラムもいいんです。
    インタビューにも出てきますが、
    「スマック」とは、
    「これがなければはじまらない」
    という、シリアのスパイス。
    日本でも手に入るようなので、
    ぜひ、おうちでつくってください。
    Amazonでのお求めは、こちら