自由で常識にとらわれない発想をする
建築家の谷尻誠さん。
2012年の著書『1000%の建築』の中では、
糸井との対談を企画していたそうですが、
残念ながら実現にはいたりませんでした。
しかし、谷尻さんはそのページを本から削らず、
糸井との大切な「未完成の対談」と題して、
空白のままで出版していたのです。
それから8年後の2020年。
改訂版が発行されるタイミングで、
新しく収録した谷尻さんと糸井の対談が
8ページにわたり掲載されることになりました。
そのときのふたりの自由なおしゃべりを、
ほぼ日特別バージョンにしてお届けします。
(収録は2020年1月に行われました)
谷尻誠(たにじり・まこと)
建築家・起業家
1974年広島県生まれ。
SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役。
大阪芸術大学准教授、広島女学院大学客員教授、
穴吹デザイン専門学校特任教授。
都市計画・建築・インテリア・プロダクトなど、
さまざまなジャンルで活躍。
社食堂やBIRD BATH&KIOSKの開業、
絶景不動産、21世紀工務店、未来創作所、
tecture、Bypassなどを起業させる。
著書に『1000%の建築』(エクスナレッジ)、
『CHANGE』(エクスナレッジ)、
『談談妄想』(ハースト婦人画報社)など。
- 谷尻
- 昔の自分はどんなお仕事が来ても、
「頼んでくださった方のために」
みたいなところがあったんです。
でも、最近ちょっと変わりましたね。
いまは自分がやりたいことで、
仕事をしていかないとダメだなって。
- 糸井
- そうですか。
- 谷尻
- 糸井さんを遠くから見てると、
そういう仕事のやり方を
ずっとやられてるように見えるんです。
- 糸井
- ぼくらはいま、
BtoBの仕事をほとんどしていません。
もともとぼくは広告をやってたわけだけど、
いまは自分たちで広告をつくるのと
同じようなことをしています。
広告というか、コンテンツですよね。
- 谷尻
- ええ。
- 糸井
- すべてのことを
自分たちで決められるというのが、
いまのぼくらがいる場所です。
これをやったおかげで、
だいぶん鍛えられました。
一切儲からないようなことでも、
やるべきと思ったらやれます。
もしそのことで痛い目にあっても、
それは自分のせいですからね。
その覚悟がだいぶんできてきた気がします。
- 谷尻
- そういう仕事のほうが、
思考の切れ味は増しそうですね。
- 糸井
- そもそも現実味のない
夢みたいな話をすることって、
ぼくらにはないんです。
ほぼ日がいま大事にしている言葉で、
『夢に手足を。』というのがあります。
- 谷尻
- 夢に手足を。
- 糸井
- ふわふわ浮いてる夢だけ語っても、
それは商売にはなりません。
夢に手足がついて、
「きょうはどこに行くの?」
「きょうはどうやって1歩前に進むの?」と、
それをたえず問われる場所で
ぼくらは仕事をしています。
ビジョナリーとリアリストというのかな。
そのバランスを考えるようになりましたね。
- 谷尻
- それは自然とそうなっていったんですか?
ふつうはクライアントワークに
寄ってしまいそうですよね。
- 糸井
- 別にクライアントの話を
まったく聞かないわけじゃないんです。
ぼくも仕事を頼まれたからには、
やっぱりクライアントに
よろこんでもらいたいと思っていました。
でも、頼んでくる側って、
背負ってる事情が大きすぎるんですよね。
まったく関係のない大勢に向かって、
「そこに座ってぼくの話をぜんぶ聞いてください」
ということをしようとする。
結局、それをやっちゃうと、
誰も話なんか聞いてくれないんです。
- 谷尻
- あー、なるほど。
- 糸井
- だけど、仕事を頼まれたぼくが
文句ばかり言ってもしかたがないわけで。
芝居の舞台で、客席の最前列のぼくが、
「なんかいまの、よくわかんないなあ」
って言うのはちょっと違うじゃない。
- 谷尻
- ああ、わかります。
クレーマーじゃなく、
ぎりぎりカスタマーでいたいというか。
- 糸井
- ほんとは文句を言われた人が、
よろこんでくれるのが一番いいんだけどね。
- 谷尻
- 「よくぞ言ってくれた」みたいに。
- 糸井
- 舞台の上にいる人だって、
客席に座ってみたら「ほんとだ」って
なるかもしれないし。
舞台と客席を往復しながらつくるのは、
インターネット時代らしいやり方ですよね。
いろいろ試せるというのは。
- 谷尻
- とりあえず出してみて反応を見る、
というのはありますね。
- 糸井
- でも、そうじゃないものもあります。
農業なんかはそうですよね。
枝豆づくり40年というのは、
40回しか試すことができないわけで。
デジタルネイティブの人たちって、
そういうものが
ちょっと苦手なのかなって思いますね。 - 自分は年寄りでありながら、
いつも新人だという構造の中にいます。
そういうぼくみたいな人の役割って、
いまみたいなお互いぜんぜん違うものを
「敬意」でつなぐことなのかなって、
最近はそんなことを思いますね。
- 谷尻
- それに糸井さんの言葉って、
誰にでもわかりやすいから、
みんながついていきやすいですよね。
- 糸井
- でも、谷尻さんも上手いですよ、言葉。
- 谷尻
- ほんとですか?
- 糸井
- うん、すごく鍛えられてます。
だって、煙に巻かないもの。
- 谷尻
- 煙には巻かないですね(笑)。
- 糸井
- 建築家の人たちって、
理科系の技術者でありながら、
どこかで詩人の要素もあると思うんです。
- 谷尻
- ええ。
- 糸井
- 「この景色の中で、この言葉を聞きたい」
というような要素が、
建築家の中にはあるはずなんです。
だから「煙に巻くのも腕のうち」というか。
- 谷尻
- たしかにそういうのはありますね。
ぼくなんかはそういうのを見ると、
ほんとうは建築家の仕事って、
もっと社会性をもって取り組むべきなのに、
なぜか陸の孤島で演説してるような
建築家が多いなって思っちゃうんです。
なんでうちのばあちゃんでもわかる言葉で、
建築のよろこびを伝える人が
いないんだろうなって。
そういうのはずっと思ってますね。
- 糸井
- そうですね。
- 谷尻
- 逆にぼくは、難しい言葉に
ものすごくアレルギー反応があります。
だから「いまの建築業界を変えたい」とか、
そういう大きな話じゃなくて、
凝りかたまった硬い部分を
ちょっと柔らかくすることなら、
ぼくにもできるかもしれないなって。
そう思ってここまで20年間、
ずっとやってきたような気がします。
- 糸井
- 谷尻さんって依頼主と建築家、
あるいは公共の施設を利用する人たち、
みんなが仲間になればいいのにって思いながら
やってるように見えますよね。
同じ目的をもった仲間の集いが、
建物とか空間の使い方を考えてるというか。
- 谷尻
- それはもう、うれしすぎる言葉ですね。
- 糸井
- 子ども同士が集まるときも、
そういうのがあるじゃないですか。
- 谷尻
- 子ども、ですか?
- 糸井
- 子ども同士がテントを張るとして、
そこに寝るのも自分たちですよね。
雨がふったら困るからこうしようとか、
1回テントを組み立てたけど、
ここがよくないからやり直そうとか。
キャンプが得意な子も一緒になって、
「あ、ほんとだ」って言ってやりますよね。
- 谷尻
- 必然的に協力しあいますよね、
キャンプって。
- 糸井
- だからキャンプみたいな発想なのかな。
「じゃあ、俺、魚焼くわ」みたいに。
- 谷尻
- そうなっていくと一番幸せですね。
プロジェクトとしても。
- 糸井
- そういうときって、
ちょっと大きな夢をもった人がいないと
退屈になっちゃうんじゃないかな。
わがままな施主とか、
無茶なことをいっぱい言う人とか、
じつはそういう要素こそが、
おもしろさになっていくんでしょうね。
(つづきます)
2020-05-30-SAT
-
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