画家の制作風景を紹介する
『ある画家の記録』というコンテンツで、
3ヶ月ほど連載してくださった中村隆さん。
そこからご縁がつながり、
「生活のたのしみ展 2023」に
中村さんのお店を出すことになりました。
どんな作家さんで、なにを売るお店なのか。
できあがったグッズを見ながら、
ご本人といろいろおしゃべりしました。
中村隆(なかむら・たかし)
画家、イラストレーター。
1976年、新潟県生まれ。
98年日本デザイン専門学校卒業。
以後、フリーのイラストレーターとして活動しながら、
定期的に個展をひらいて作品を発表している。
作品は「HB Gallery Online Shop」などで販売中。
ほぼ日のこれまでの登場コンテンツ:
『ある画家の記録。Season2』
- ──
- 「生活のたのしみ展」では、
中村さんが過去に描かれた5作品を
ポスターにして販売します。
B2とB3、どちらもつくりました。
- 中村
- いま壁に貼ってあるのは、
B2ですね。
- ──
- そうです。
- 中村
- こうやって並べると、
新鮮でおもしろいですね。
このカモメの絵がいちばん昔かな。
いまと比べて絵が几帳面。
- ──
- 実際にこういう場所があるんですか?
- 中村
- 新潟の「笹川流れ」という海水浴場です。
昔よく行った地元の場所で、
ここでキャンプをしたりしてました。
海の先まで歩いて行けるんです。
- ──
- 絵の中だと、
人が釣りをしてますね。
- 中村
- 先のほうまで歩いて行けるんですよ。
足場をぴょんぴゅん渡って。
- ──
- 日本海側と太平洋側って、
海の雰囲気がちょっとちがいますよね。
- 中村
- 日本海のほうが地味ですね(笑)。
- ──
- そんなことはないです(笑)。
でも、やっぱりなんかちがうんですよね。
- 中村
- 日本海側は太陽が海に沈みますからね。
- ──
- この絵の特長は、
カモメと空の余白ですよね。
けっこう大胆な構図というか。
- 中村
- ほんとうは空も描くつもりだったんです。
でも友だちに見せたら、
「入れなくていいんじゃない?」っていわれて、
「あ、そのほうが楽かも」って(笑)。
- ──
- でも、これだけ余白があると、
逆にバランスがむずかしそうですけど。
- 中村
- むずかしいですね。
埋めれば完成した感じはするんですけど。
余白が多いと未完成な印象にもなるので。
- ──
- 描きはじめたらあとで消せないし、
むずかしい決断ですよね。
- 中村
- 埋めたほうが絵としてまとまるので、
そのほうが楽なときはありますね。
- ──
- チーム内では、
これが一番人気かもしれないです。
- 中村
- あ、そうですか。
- ──
- 生活感のあるモチーフと
色のギャップがおもしろいですよね。
正面に「クワ」があるのもいいねって(笑)。
- 中村
- このときの個展のテーマが
「収穫」だったので、
それでこのモチーフになったのかも。
- ──
- コンクリートの描き方も、
場所によっていろいろ変えてますよね。
- 中村
- あー、そうですね。
ちょっと濡れたところに水色を重ねて。
水は水色ではないんですけどね。
- ──
- こういう作品って、
どうやって完成になるんですか。
つまり、いくらでも描き込めますよね。
- 中村
- そこはむずかしいですよね。
何回も塗り返して、
終わりどころを探していくというか。
- ──
- バチッと終わりは来ない?
- 中村
- バチッとは来ないですね。
いつも時間が来たら、
そこでおしまいみたいな。
- ──
- 個展の締め切りとか。
- 中村
- このときはそうですね。
そういうのがないと、
意外とずっと描けちゃうんです。 - となりの猫の絵も、
あとちょっと時間があったら、
上の黒をもう一回重ねたかもしれない。
- ──
- あぁー。
- 中村
- テーブルの茶色も、
もう1ラインひいてもいいかも。
ただ、網にすると落ち着いちゃうんで、
絵に流れがなくなっちゃうんです。
半分死んだ感じになるというか。
時間を置くとそういうのが見えてきます。
- ──
- この絵はなんといっても猫が(笑)。
- 中村
- 目がキラキラしすぎちゃって(笑)。
- ──
- 完全にこっち見てますよね。
- 中村
- 猫は何回描いても
ちょっと人っぽくなるんですよね。
どうしてもマンガみたいに。
- ──
- ぼくはこの猫大好きです(笑)。
- 中村
- 猫を飼ってない人の猫というか。
個人的には失敗しちゃったなと思ってるんです。
- ──
- いやいや、ぜんぜん。
- 中村
- みんな「かわいい」っていってくれるので、
結果、これでいいと思ってますけど。
でも、失敗はおもしろいですよ。
逆にそこが個性になってくれるので。
- ──
- 個人的にはこの絵、すごい好きです。
スカッとしていてきもちいいですよね。
- 中村
- ありがとうございます。
- ──
- こういう風景、ほんとにありますよね。
東京から山梨に高速で向かうときに。
「あ、富士山!」っていう瞬間。
- 中村
- そうそう、そのまんまです(笑)。
雲だけ狙って残したりしてますけど。
- ──
- 車の描き方もよくて、
いちばん前はただの四角(笑)。
- 中村
- そうそう(笑)。
- ──
- ちなみに、B2サイズになると、
原画よりも大きいわけですけど、
実際にポスターとして見てどうですか?
- 中村
- いや、おもしろいです。
こうやって大きくすると
「手で描いてる」っていうのが
原画よりもよくわかります。
- ──
- そうなんですよね。
手描きのグルーブ感がより出てますよね。
- 中村
- それはおもしろいなって思います。
- ──
- もともとの絵に情報量があるから、
これだけ拡大しても
ぜんぜん違和感がないんですよね。
知らない人が見たら、
この大きさで描いてると思うかもです。
- 中村
- それは印刷をしてくださった
凸版さんがすごいんだと思います(笑)。
これだけ拡大してるのに、
色がほんとうにきれいに出てる。
- ──
- 色味がいいですよね。
できるだけに原画の色に近づけようと、
かなり工夫されたそうです。
- 中村
- ほんとにありがたいです。
- ──
- 街の見え方がかっこいいですよね。
「遠くにあるな」ってくらいで。
- 中村
- あんまり描きたくなくて(笑)。
どんどん流れて行く感じだったので。
- ──
- でも、車で走っていたら、
ほんとうにこれくらいのイメージですもんね。
- 中村
- じつはこれ、台湾の風景なんです。
- ──
- あ、そうなんですか。
- 中村
- ただ、どこでもハマるように、
あまり特徴が出すぎないようにしてます。
富士山とこのタクシーの2枚は、
同じ個展のときの作品で、
テーマは「旅」だった気がします。
- ──
- そういわれると、
どちらも旅っぽいですね。
- 中村
- 最後、ちょっと足りない気がして、
空に紙飛行機を飛ばして。
- ──
- あとで入れたんですね。
- 中村
- 最初はなかったんですけど、
車との対比でなにか飛ばしたいなって。
それで紙飛行機を入れて、
雲でバランスをとって。
- ──
- 雲を描くのってむずかしそうですよね。
どんな形にもできるだけに。
- 中村
- そうなんですよね。
目線がどうたどるかを考えながら、
こう来てこう、こう、みたいな。
- ──
- 雲ひとつふえるだけでも、
絵の印象ってがらっと変わりますよね。
- 中村
- そういうこともありますね。
描きながら変えたりもしますし。
- ──
- なんか中村さんの絵を見てると、
いろいろ感想をいいたくなりますね。
見ていてぜんぜん飽きないです。
- 中村
- ありがとうございます。
絵を見てそう思ってもらえるのはうれしいですね。
(つづきます)
2023-04-26-WED