編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第2回
888ブックス、3冊も出す。
- ──
- 吉田さんは、
888(ハチミツ)ブックスという
出版社を経営してらっしゃいますが、
こんなすごい本を3冊も、
出版することになったのはなぜですか。
- 吉田
- そこにたどりつくには、長い話が‥‥。
- 濱田
- そもそも、祖父江さんと吉田さんって、
昔からのお知り合いなんですよね。
- 祖父江
- はい。長いお友だちです。
- 吉田
- 友だちじゃないですよ!
- ──
- 友だちじゃないんですか(笑)。
- 吉田
- あ、友だちなんておこがましいという、
そういう意味でした。
- 祖父江
- うまれてはじめてのインタビューが、
吉田さんの担当だったんです。 - ぼく、それまでインタビューなんて
受けたこともなかったのね。
- ──
- じゃあ、まだ若いころに。
- 祖父江
- ヤングのころ。
- 吉田
- まだ、わたしが『illustration』という
雑誌の編集部にいたとき、
アートディレクターを訪問する連載で、
祖父江さんにお話をうかがったんです。
- 祖父江
- やったあ、これでちょっとは
有名になれるかもって大よろこびして。
- 吉田
- もう有名でしたよ。
- 祖父江
- 有名じゃないよー。
- 吉田
- いやいや、さくらももこさんの本とか
やってらっしゃいましたし。
『神のちから』とか。
吉田戦車さんの『伝染るんです。』も、
すでに手掛けてましたから。
- ──
- それはつまり何年くらいのことですか。
- 祖父江
- それについてはこちら、
コズフィッシュ本を見ればわかるよ。 - これこれ。1993年です。
- 吉田
- 1993年! 30年以上前なんだ。
- 祖父江
- だってまだ毛がある。
- 吉田
- ほんとだ。祖父江さん、30代です。
- ──
- お召しものの傾向は変わりませんね。
- じゃあ、濱田さんと祖父江さんとの
お付き合いも、長いんですか。
- 濱田
- いや、仕事で関わった最初は
2016年ですね。
さっきの『手塚治虫表紙絵集』の
取材のときです。 - ぼくはこれまでに、手塚先生の復刻本を
いろいろつくってるんですけど、
国書刊行会から出した最初の3冊を、
祖父江さんのもとにいらした
芥陽子さんにデザインしていただいたので、
そのときに
祖父江さんのことは意識してました。
もちろん、それ以前から
一方的に存じ上げていましたけど。
- ──
- なるほど。
- ちなみに手塚治虫さんの復刻本って、
どれくらい出されてるんですか。
- 濱田
- その年に、9冊くらい出したのかな。
で、これまでに50冊くらいかな。
- ──
- ごっ、50冊!?
- そんなに出してらっしゃるんですか。
どうしてそんなに、復刻本を。
- 濱田
- もともと手塚ファンだったんですが、
手塚プロの資料室が
新座のスタジオにあって。
そこにたまに遊びに行ってたんですよ。
で、さっきお名前の出た
資料室長の森さんとお話してるとき、
手塚漫画の復刻を
やりたいんですって話をしたところ、
国書刊行会から
出させてもらうことになったんです。
- ──
- ああ、そうか、国書刊行会さんって、
手塚作品の復刻本を
たくさん出されてますもんね。 - 濱田さんは、
あのシリーズを手掛けてらっしゃる
編集者さんだったんですか。
- 祖父江
- 最初の本は何だったの?
- 濱田
- それまで
初出版では単行本化されてなかった
『冒険狂時代』とかです。 - そのときに、森さんから
祖父江さんの名前が挙がったんです。
- 祖父江
- えーっ、そうだったんだ。
- 濱田
- 手塚先生の絵コンテ集があるんです。
河出書房新社から出てるんですけど。 - そのデザインを
祖父江さんがやってらしたんですね。
だから、ぜひ祖父江さんに
お願いしたかったんですけれども、
出版社の担当編集から
「でも、納期が‥‥」ということで。
- ──
- なるほど。
- 祖父江さんに装丁をお願いできたら
すばらしいものになることは
わかっているけど、
スケジュールが優先されることって、
まあ、ありますでしょうし。
- 濱田
- ちなみに、吉田さんとは、
2010年に、
和田誠さんから紹介していただいて
知り合いました。 - 吉田さんって、『illustration』では
「和田番」だったんです。
その後、吉田さんといっしょに
和田誠さんと和田唱さんの親子対談の
記事をつくったりしました。
その流れで、
祖父江さんにも手塚本の企画で
インタビューしたんですが、
そのとき祖父江さんからも、
もし手塚漫画の復刻やるんだったら
デザインをやりたいって。
- ──
- おお。
- 濱田
- だから、この『アーリーワークス』を
つくるときに、
もう祖父江さんしかいないでしょうと。
- 祖父江
- やったー!
- 濱田
- その間に、吉田さんは玄光社を辞めて、
888(ハチミツ)ブックス
という個人の出版社を立ち上げていた。 - それで、吉田さんのところで
手塚漫画を出せないかって話になって。
- 祖父江
- でもさ、森さんがお元気だったら、
祖父江さんはやめといた方がいいって
言ったんじゃない?
- 濱田
- いや、そんなことないと思います。
- 森さんには
祖父江さんに装丁してほしい気持ちが、
あったと思います。
- 祖父江
- ほんとに?
- 濱田
- ほんとです。
- 祖父江
- ほんとに?
- 吉田
- ほんとです。
- 祖父江
- うれしいな。手塚治虫の仕事、
ぼく、ほとんどしたことなかったもん。 - アニメ絵コンテの本だけだったから、
それまで。
- 濱田
- そうですよね。
- ──
- ともあれ、そのような経緯で、
濱田さん企画編集、祖父江さん装丁の
こんなにすごい3冊が、
吉田さんのとこから出ることになった。 - なるほど。よくわかりました。
- 濱田
- ちなみに「888ブックス」の名前は、
ぼくがつけたんですよ。
- 祖父江
- あ、そうなんだ。いい名前だと思った。
何だかダジャレっぽくて。
- 吉田
- ダジャレです、ダジャレです。
8が3つで「ハチミツ」ってことです。
- 濱田
- ぼくとしては、メビウスの輪のように、
吉田さんの出版活動が
ずっと永遠に続きますようにと願って。 - 漢字で書くと末広がりの「八八八」で
縁起もいいしって言ったら、
最初、
吉田さんには馬鹿にされたんですけど。
- 吉田
- 馬鹿にしてないです!
- ただ、ネットで画数の幸運度調べたら、
なかなかよかったんです(笑)。
- ──
- それで「いいかも」と?(笑)
- 吉田
- この名前は運がよさそうだなと思って、
それで。
(つづきます)
2024-10-29-TUE
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!