編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第3回
ちいさい会社だから、できた。
- ──
- 祖父江さん、濱田さん、吉田さんによる
手塚治虫先生3部作のうち、
1冊目の『アーリーワークス』収録の
「ロマンス島」という作品は、
デビュー作『新寶島』以前の作品ですが、
これまで未発表だったそうですね。
- 濱田
- そうなんです。
- 講談社の『手塚治虫漫画全集』400巻が、
文庫サイズの
『手塚治虫文庫全集』になったとき、
「200巻」全巻予約者のみが
手に入れられる本としては出ていますが。
- ──
- え、「200巻」全巻予約者‥‥!?
そんな強者だけが手にできるお宝だったんですか。
- 濱田
- そうなんです。
すでに『漫画全集』の400巻が存在し、
その文庫版「全200巻」なので、
全巻を予約した人の数は多くはなかった。 - ようするに
『ロマンス島』を読んだことのある人は、
ほとんどいなかったんです。
- ──
- すごい数ですもんね。
文庫と言えども「200巻!」‥‥って。
- 濱田
- ならば、きちんと単行本にしませんかと、
手塚プロの
出版局長の古徳さんという方に、
ダメもとで相談したんです。
そしたら「ああ、いいんじゃないか」と。 - ただ、888ブックスは
個人でやってる規模の出版社なんですと
お話したら、
そこも含めてOKをくださった。
そうやって企画が通って、
このプロジェクトはスタートしたんです。
- ──
- そういった経緯でしたか。
- 濱田
- ただ当初、ぼくと吉田さんは
もっと簡単につくれると思ってたんです。 - そしたら、まあ。
- 祖父江
- ぼくに頼んじゃったんで、たいへんに。
- 濱田
- でもね、めちゃくちゃいいんですよ。
- 『アーリーワークス』は2冊組ですけど、
まず、4コマの新聞連載の
『マアチャンの日記帳』などをまとめた
新聞連載集成は、コデックス装。
スクラップブックをイメージしたんです。
- ──
- はい、背の部分の綴じを見せちゃう製法。
おしゃれでステキ。
- 濱田
- そして『ロマンス島』は、
単独で「継ぎ表紙」風の丸背ハードカバー。
- 祖父江
- 言葉で説明するのは難しいんですが、
背にクロス貼りしてから、
表1、表4をくるむというのが「継ぎ表紙」です。 - この本は、クロスではなく紙で代用していますが。
- ──
- 手の込んだつくりで、カッコいいです!
- 濱田
- 実際、スクラップが残されていたんです。
- 手塚先生のお母さんが、
息子の漫画をスクラップしてたんですね。
その雰囲気も込みで復刻できないか、
ということでコデックス装が採用されて、
どうせだったら、
こっちの『ロマンス島』も一緒に‥‥と。
- 吉田
- 『マアチャンの日記帳』の原画はなくて。
スクラップから製版していただきました。
- ──
- それは‥‥大変そうです。
- 濱田
- 大変でした。
- さっきも言いましたが
手塚先生の生誕90年の記念本として、
2018年に出すはずでした。
が、待てど暮らせどカバーも上がらず。
忘れもしない、その年の忘年会の日に、
祖父江さんから吉田さんへ
表紙のラフが上がってきたんですよね。
まずは『マアチャンの日記帳』の。
- 吉田
- そうそう。濱田さん、すごいね。
細かいところまでよく覚えてる。
- 濱田
- そのラフを、その場にいたぼくと
手塚プロの田中さんも見せてもらって、
「ああ、いいですね!」って。 - ただ、中身はぜんぜん進んでないから、
これ今年もう出ないよね‥‥って。
- ──
- 忘年会の会場ですもんね。そこは。
- 濱田
- じゃあ、わかった、
2月9日に手塚先生の命日がくるので、
来年の2月かな、
でも、それも厳しいかもなあ‥‥とか。
いつ出るのかわからないという
漠とした不安を抱えたまま、
年を越しました。そこまでが序章です。
- ──
- まだ序章ですか!
- 祖父江
- いつ出たのかなあ。
- 濱田
- 2020年の4月です。
- 祖父江
- 2月にも間に合わなかったんだ。
- 吉田
- 正確には、奥付に記載された発行日は
「2020年4月25日」です。 - ただ、実際の出来上がりは、
それよりもう少し遅かったと思います。
ただ単に、
わたしの誕生日を発行日にしただけ。
ともあれ、
コロナの最中のゴールデンウィークに、
発送作業したのを覚えています。
- 祖父江
- 結局、何年遅れたの?
- 濱田
- 手塚先生の「生誕90年」にあたる
「2018年」に出ず、
翌年の2019年にも出ず、
さらに翌年の2020年に、やっと出た。
- 祖父江
- あー。
- ──
- 3年越し‥‥でも結果として、
こんな素晴らしい本がうまれた、と。 - ちなみに吉田さんも、
手塚先生のファンでらしたんですか。
- 吉田
- おふたりと並べられたら、困ります。
- 好きな作品は『ユニコ』とか、
『ブラック・ジャック』とか‥‥です。
つまり、ふつうの読者です。
他の先生の作品もいろいろ読みつつ、
手塚先生の漫画も読んでいて、
好きな作品もあるというレベルです。
- ──
- でも、こんなつくりの本って、
比較的、小規模でやってらっしゃる
版元さんならではですよね。
- 吉田
- 研究書のような雰囲気さえあるので、
大きな出版社では、
なかなか出せないかもしれません。 - であるなら、うちのような出版社で
丁寧につくれたらいいなと。
祖父江さんにも、
とことん、やっていただけましたし。
- 祖父江
- 大手だったら、こうはならないよね。
- 濱田
- ならないでしょうねえ。
予算とスケジュール両方がネックで。
- 祖父江
- 吉田さんのところが、
ゆるかったので、できたんですねえ。
- 濱田
- ゆるくはないと思いますが(笑)。
- 吉田
- はい、わたしも祖父江さんに対して
シリアスな雰囲気を出して、
いろいろ言ってはいたんですけれど、
のれんに腕押し‥‥(笑)。 - まあ、ともあれ
ちいさいかたちでやったからできた、
ということはたしかです。
- 濱田
- その意味では、
これ、たぶん増刷はできないんです。 - もっと高い値段を付け直さなければ
増刷できないと思う。
ということは「現品限り」なんです。
- 吉田
- そうなんです。
決して「もうかる本」ではないので。
- 祖父江
- この内容なら、こういうかたちがいいね、
というところからはじまってる。
わざと高くしようとしたわけじゃなくて。 - だからね、カツンカツンだとは思います。
吉田さんのとこ。
- 吉田
- はい、印刷代と印税と、
祖父江さんに払うギャラとで計算をして、
結果的にこの値段になりました。
- ──
- 20000+税、つまり「2万2000円」。
- 祖父江
- これくらいの本をつくろうと思ったら
これくらいかかるんだよね。
というか、世の中の本が安過ぎだよね。 - この『バンド論』だって、
この値段で、大丈夫だったのかなあ。
- 濱田
- 『バンド論』は「2000円+税」ですね。
貼ってるんですよね、人の手で写真を。
- ──
- そうです。貼ってます。1枚1枚。
- 祖父江
- ねー。出版社のもうけは、大丈夫かな。
本はもっと高くていいと思います。
(つづきます)
2024-10-30-WED
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!