ヒップホップユニットDos Monosのラッパーで、
大人気ポッドキャスト
「奇奇怪怪明解事典」を主宰するタイタンさんが、
『編集とは何か。』をおもしろがってくれまして。
「どんなところが?」と、うかがってきました。
折しも、書籍版の『奇奇怪怪明解事典』も
リリースされたタイミングだったので、
担当編集者の国書刊行会・イシハラさんも交えて、
いろいろ、おしゃべりさせていただきました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。おもしろかったー。

>タイタンさんのプロフィール

TaiTan(タイタン)

Dos Monosのラッパーとして2018年にアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約。これまでに『Dos City』『Dos Siki』『LARDERELLO』の3枚のアルバムをリリース。ポッドキャスターとしては、Spotify独占配信中のPodcast番組『奇奇怪怪明解事典』にて、JAPAN PODCAST AWARDSのSpotify NEXT クリエイター賞を授賞。また、クリエイティブディレクターとしても、¥0のマガジン『magazine ii』や、テレ東停波帯ジャック作品『蓋』などを手がけた。

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第1回 イイヅカが企てて、 タイタンにしゃべらせている。

──
自分は編集者の仕事に就いてはや20年、
いまだに
編集者に憧れているようなところがあり、
もっといい編集者になりたい、
そう思って、14人の編集者のところに
インタビューに行って、
この『編集とは何か。』ができたんです。
タイタン
ええ。
──
で、インタビューをしてみたら、
みなさん、それぞれの「編集」について
極めて専門的な話をしているのに、
それは「編集」だけじゃなく、
いろんな仕事に通じるものだったんです。
タイタン
そう思いますね。
──
なので、ただ編集者だけでなく、
いろんな職業の人に読んでもらいたいと
思っていたんですが、
めっちゃくちゃ早く反応してくれたのが、
タイタンさんでした。
そうなったらいいなあと
思っていたことではあったんですけど、
なんと
最初がラッパーの方だったとは(笑)。
タイタン
はい(笑)。
じつはこの本、
自分で見つけたわけじゃないんですよね。
送っていただいたのを読んだんですけど、
そしたら
めちゃくちゃおもしろかったんです。
──
この書籍版『編集とは何か。』の編集者
星海社の築地教介さんが、
タイタンさんの
ポッドキャストの大ファンだったんです。
それでお送りしてみます‥‥って。
タイタン
ああ、ありがとうございます。
──
タイタンさんが
おもしろく読んでくださったと聞いて、
すごくうれしかった。
なので、ぜひお話をうかがいたいなと。
さっそくですけど、聞くところによると
タイタンさんは、
編集者になりたかった時期もあった、と。
タイタン
そうですね。
小学6年生とか中学のころなんですけど、
まだ編集者って言葉は知らないが、
おそらく
テレビ番組や雑誌の裏っかわには、
それを仕掛けている人がいるんだろうと。
──
おお。
タイタン
そういう、何ていうのかな、
企て人みたいな人にあこがれてたんです。
──
具体的には、何を見てそのように。
タイタン
ふつうに当時のテレビ番組ですよ。
「爆笑問題のバク天!」とか
「トリビアの泉」とか‥‥
あとはラジオ番組の「放送室」っていう。
──
はい、本にもなりましたよね。
松本人志さんと高須光聖さんがやってた。
タイタン
もう少し大きくなったら、
『Switch』とかのカルチャー誌なんかも、
かっこいいなあ‥‥とか。
──
自分は「VOWが好きだー!」と思って
編集者に憧れたんですが、
タイタンさんは、表面をつくっている
「裏の人、場をつくる人、企てる人」に
目が行ったってことですか。
小学6年とか、そんなちっちゃいころに。
タイタン
そうですね‥‥あらためて思い返すと、
大きかったのは、やっぱり高須さんかな。
あのテレビ番組の裏側では
こういうことが起きていたんですよって、
ラジオでしゃべってる。
それが、めちゃくちゃおもしろい。
こんな仕事いいなって、
そのときに思ったんだと思います。
──
でも、その後、成長したタイタン少年は、
編集者ではなくラッパーになった。
タイタン
そうですね、はい。
ただ、ラッパー以外での活動名を
「イイヅカタイタン」とかっていう
謎な名前にしているのも、
人前に出て、
ラップしたりしゃべったりしているのは
タイタンだけど、
プロジェクト全体を企てているのは自分、
つまり「イイヅカ」のほうである、
という感覚があるんです。
──
ああ、イイヅカさんが企画して、
タイタンさんにしゃべらせている‥‥と。
つまり考えている側のイイヅカさんが、
裏側にいる人、企てる人‥‥編集者的な。
タイタン
いちおう、そんな感じかなと。
──
少し前にタイタンさんと玉置周啓さんの
人気ポッドキャスト
「奇奇怪怪明解事典」を書籍化した本が
出版されましたけど、
はりきって読ませていただいたんですね。
タイタン
ありがとうございます。
──
そしたら、タイタンさんの書いた前書に、
じつに編集者的なセンスを感じました。
タイタン
あ、そうですか。
──
本という意味でできた物体をつくるとき、
内容だけでなく、どういうフォントで、
どういうカタチにするのか‥‥とかも、
メッセージに直結してくると思うんです。
その意味で、タイタンさんの前書には、
ポッドキャストという
音声コンテンツを「本」にするときの
核となるコンセプトが、
めちゃくちゃしっかりと書かれていた。
タイタン
最初から本にするつもりではじめたので。
──
スタイルが内容に影響するということに、
すごく意識的なんだなあと。
人間の「おしゃべり」の行ったり来たり、
言いよどみ、文脈に関係ない飛躍などを
そのままにしたいから、
あえて「可読性を高めすぎない」方針で
編集している‥‥って。
実際、かなり細かい字で3段組とかだし。
タイタン
ぼくは、昔からメディアオタクみたいな
ところがあって。
それこそマクルーハンじゃないですけど、
メディアがメッセージそのものである、
みたいなことを
おもしろがっているタイプだったんです。
文字が細かいということそのものから、
おっしゃるように、
伝わっていくこともあるんだろうなと。
──
本当に、番組を聞いているかのような、
そういう読書体験でした。
ちなみに、この『編集とは何か。』だと、
誰の話がおもしろかったですか。
タイタン
ぼくは、
白石(正明)さんと、久保(雅一)さん。
──
おお。
医学書院の「ケアをひらく」の編集者と、
ポケモンのプロデューサー。
タイタン
おふたりの話が、ピカイチでしたね。
白石さんに関しては、
辺境にある熱‥‥みたいなものを見出して、
ぼくらの前にひっぱりあげてくれた。
医学というものが最大権威としてある中で、
「ケア」という概念のインストールを
試み続けてきた20年‥‥なわけですよね。
──
そうだと思います、まさしく。
タイタン
はじっこにあった概念や存在を、
ぐぐぐぐーっと真ん中に持ってきた手腕が、
見事だなあと思うんですよ。
そもそも「ケアをひらく」のシリーズって、
ぼく、好きだったんで。
──
あ、読者だったんですね。
タイタン
ええ。伊藤亜紗さんの『どもる体』とか。
──
あの本は‥‥ねえ。ちょっとすごいです。
タイタン
ぼく自身が吃音を持っていたという軸が
あったりするので、
それもあって、すごいおもしろかった。
久保さんは辺境っていうか越境ですよね。
──
編集者から映画プロデューサーへ。
タイタン
存じ上げなかったんですけど、
ポケモンとミニ四駆を仕掛けていたのが、
じつはひとりの編集者だったのか、と。
──
そうそう。
タイタン
ミニ四駆の話とか、すごい泣けましたね。
だって、子どもたちに
ミニ四駆で遊んでもらうためには、
もうアニメにするしかないみたいな話で。
──
でも、最後の「軸」は編集者っていうか、
ポケモン映画のプロデューサーとなり、
世界を飛び回っている現在でも
「紙の編集をもう一回やりたいな」って、
最後、言ってたじゃないですか。
ぼくは、あれで泣きそうになりました。
タイタン
今日の冒頭の話で、子どものころから
企てる側の方がおもしろいんじゃないか、
そう思ってたって言いましたが、
おふたりは、
その漠然としたイメージを体現していて。
──
この本に出てくる編集者って、
出版界では有名な人たちばっかりだけど、
話を聞いてみたら、
みなさん、かなり「特殊」だったんです。
でも、その特殊が普遍に通じてる。
その力強さが、それぞれの仕事にあった。
タイタン
なるほど。
──
やっぱり自分のスタイルをつくることが
編集者にも必要なのかなと思いました。
変なことしていいんだなというか(笑)、
自分の興味を突き詰めていった先に、
道が拓けていた、みたいな人ばっかりで。
タイタン
ええ。
──
他方で、この本の最後で
河野通和さんがおっしゃっているんですが、
編集者の仕事とは
誰かの背中を押してあげることだ、
編集者の「いいね」で、
たくさんの作品がうまれてきたんだ‥‥と。
そこのところは、全員に共通していました。
とにかく、まあ、
すごい編集者って格好いいなと思いました。
タイタン
そうですね。うん。格好いいんですよね。
おぼろげながらにあこがれていた
「企てる人たち」の「具体的な技術」が、
いろんなケーススタディとして載ってる。
で、その「技術」は、
自分の領域にも工夫しだいで応用可能で。
そのことが伝わってくる本だと思います。

(続きます)

撮影:中村圭介

2022-06-27-MON

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  • Spotifyのチャートで最高順位第1位を記録、
    タイタンさん(Dos Monos)と
    玉置周啓さん(MONO NO AWARE)による
    大人気ポッドキャスト
    「奇奇怪怪明解事典」が待望の書籍化。
    立派なつくりの箱から厳かに本体を取り出し、
    厚紙の表紙をめくれば、
    中身は三段組・544ページもの壮大な宇宙。
    本、映画、Mー1から往年のテレビ番組、
    Tik Tokからネオリベ論まで。
    読み応え抜群の濃厚な内容ながら、
    話し言葉の書籍化なので、
    ポッドキャストのリズムでスラスラ読めます。
    刺激と興奮に満ちた一冊。ぜひご一読を。
    Amazonでのおもとめは、こちらから。
    また星海社新書『編集と何か。』も発売中。
    こちらも書店とAmazonで売ってます
    どっちも「話し言葉」の「分厚い本」なので、
    勝手に親近感を感じてます。
    せっかくなので、タイタンさんに
    並べて持って写真を撮らせていただきました。
    タイタンさん、ありがとうございました。