ヒップホップユニットDos Monosのラッパーで、
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「奇奇怪怪明解事典」を主宰するタイタンさんが、
『編集とは何か。』をおもしろがってくれまして。
「どんなところが?」と、うかがってきました。
折しも、書籍版の『奇奇怪怪明解事典』も
リリースされたタイミングだったので、
担当編集者の国書刊行会・イシハラさんも交えて、
いろいろ、おしゃべりさせていただきました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。おもしろかったー。
TaiTan(タイタン)
Dos Monosのラッパーとして2018年にアメリカのレーベル・
- ──
- ご自身の音楽つまり
Dos Monos(ドスモノス)でいうと、
「企てる人」の部分って
どういうところにあると思いますか。
- タイタン
- ぼくらの楽曲においてエディトリアル、
プロデューサーのような部分を
担っているのはトラックメーカーです。 - 楽曲の制作に関して、
いちばん大事なコアの部分を
つくってくれているのは彼で、
ぼくは
リリックを書く「ただのラッパー」です。
- ──
- と、いう意識。
- タイタン
- なのでぼくは、どっちかっていうと
楽曲ができたあがったあとの
流通とか広め方に関して
ディレクションすることが多いです。
- ──
- 具体的には、どういう‥‥。
- タイタン
- ひとつの楽曲を届けるのにも、
ただ単にリリースするだけじゃなくて、
いろいろと実験したいんです。 - たとえば、オードリー・タンさんという
台湾のIT大臣と
曲をつくらせていただく機会があったんです。
- ──
- え、すごい。
- タイタン
- 注目されている台湾のIT大臣が、
世界的にはまったく無名のラッパーと
コラボしたら何が起きるのか? - しかも、星野源さんの「うちで踊ろう」で、
前の安倍首相が
動画アップした直後くらいに出したんです。
- ──
- それは、まったく知りませんでした。
- タイタン
- つまり、非公式コラボで
音楽が政治に利用されてる云々って議論が
たたかわされている渦中に、
オードリー・タンさんと、
よくわからんラッパーの公式コラボを出す。 - そういう「実験」のほうが、
おもしろいし、気持ち悪いじゃないですか。
そういうことに愉快さを感じてますね。
- ──
- それ、どういった経緯でコラボすることに。
知らなくて申しわけないのですが。
- タイタン
- 黒鳥社の若林恵さんという編集者が、
オードリー・タンさんの
単独インタビューを取ったんですけど、
そのときの音声を使って、
キミたち何かやらないかって連絡をくれて。 - で、ガッツリのラップ曲を
つくりましょうかとなったんです。
- ──
- へええ‥‥。
- タイタン
- クリエイティブコモンズと言うんですが、
オードリー・タンさんって、
自分がアウトプットしたものの著作権を、
開放することに肯定的な方なんですよ。 - だから、そのインタビューの音源とかも、
比較的シンプルに
ご本人の承諾を得られました。
- ──
- ようするに、
オードリー・タンさんのインタビュー音声を
サンプリングして、
Dos Monosの曲に使用している‥‥と。
- タイタン
- そう。YouTubeにもアップしてますが、
クリエイティブコモンズって
収益化しちゃいけないのがルールなんで、
ミュージックビデオつくっても、
ぼくらには一銭も入んないんですけどね。 - でも、そういうこと全体がおもしろくて。
- ──
- オードリー・タンさんの反応は?
- タイタン
- 人づてに、めちゃくちゃグッドだねって。
- 著作の中にも、
日本のラッパーとコラボした曲があって、
あれは楽しかった、
みたいなことを書いてくれていましたし。
- ──
- おもしろがってもらえた、と。
痛快だなあ。
- タイタン
- ま、再生回数はたいしたことないですよ。
- でも、1000万回再生される曲よりも、
絶対にやってて意味があると思うんで。
- ──
- そんな「届け方」をしたら、
何が起こるだろうってワクワクしますね。
- タイタン
- Dos Monosの曲も当然好きなんですが、
それを
どうやって世の中に伝えていくのか‥‥
まで含めて、
デザインしていくのがおもしろいんです。
- ──
- 音楽の届け方、伝え方にも、
いまはいろんなチャネルがありますよね。 - 昔はCDアルバムを買うだけだったけど、
配信、ライブ、YouTube‥‥とか。
- タイタン
- そういう意味で言えば、あともう一個、
テレビの深夜と早朝の間に10分くらい、
電波の止まる時間があるんです。
業界用語では
フィラーっていうらしいんですが。
- ──
- ええ。
- タイタン
- その枠、余ってんならくださいって、
テレビ東京の上出遼平さんといっしょに、
お願いしに行ったことがあって。 - その10分間に、Dos Monosの新曲が
ずーっと流れてる‥‥
みたいなことができたらおもしろいねと
上出さんとしゃべってたんです。
結局、それが「蓋」という番組になって、
1ヵ月ぐらい放映されてたんですよ。
- ──
- あ、Twitterで話題になってた?
- あんまり理解していなかったんですけど、
あれは、上出さんと、
Dos Monosのしわざだったんですか。
つまりそれも、
ひとつの「届け方」ということですね。
- タイタン
- 地上波の停波帯っていう空白の時間帯を、
メディアにして遊んでみたんです。 - その「蓋」って実験も、
そんなに有名になったわけじゃないけど、
そんなことしてること自体を、
おもしろがってくれる人がいるんです。
で、次はこういうことしませんか、
みたいな誘いが来るようになったりとか。
- ──
- 別の可能性や広がりを呼び込んでくる。
- タイタン
- 言わずもがなだと思いますけど、
たとえ100万ビュー達成したとしても、
明日には、
もう誰ひとり覚えてないじゃないですか。
- ──
- ウォーホルの
「誰でも15分だけ有名になれる」って
まさしく現代に対する予言ですもんね。
- タイタン
- 音楽でいえば1億回再生されたところで
400人キャパの
ライブハウスすら埋まらないみたいな。
それはなぜかといえば、
同じフェーズにいるアーティストが
無限にいるからですよね。
- ──
- 再生回数は積算だけど、
ライブに足を運ぶのは一人ひとりの人間、
ってことですもんね。
- タイタン
- 100万再生という数字だけ見たら、
めちゃくちゃ成功してるように見えるが、
その実、唯一性は獲得できていない。 - そういう意味で言えば、
大して再生回数がいかなくたって
「あいつら、何か変なことやってんなあ」
みたいなほうが、
本人たちも愉快だし、
まわりもおもしろがってくれるんですよ。
- ──
- コンテンツと同じくらい、
その「流通のさせ方」が重要なんですね。
- タイタン
- コンテンツとその流通は、
ぼくは、つねに不可分だと思っています。 - 何かをつくってハイ終わり、
ということはあり得ないと思うんですよ。
それを伝えるための何か‥‥が、
コンテンツを、くるんでいる必要がある。
- ──
- くるむもの‥‥デザインとか?
- タイタン
- たとえば。それを載っけるメディアとか。
で、そういうものがなかったら、
コンテンツって、伝わっていかないです。
- ──
- そんなようなことについては
ぼくは、「リアリティ」っていう言葉で、
ピンときたことがあって。 - たとえば『編集とは何か。』のなかでは
赤々舎の姫野希美さんが、
リアリティとは何かという話をしていて。
- タイタン
- あ、おもしろかったです。
- ──
- 現実に干渉してくるような力が
その作品なり表現なりに備わっている、
そういうとき「リアリティがある」と、
つまり「伝わるものになっている」と、
言えるんじゃないか‥‥って。
- タイタン
- ええ。
- ──
- ぼくは、まさにその姫野さんの赤々舎で
大橋仁さんの
『そこにすわろうとおもう』
という、もう、ものすごい写真集を見て、
あたまの中がぐるぐるしちゃって、
何駅だか忘れましたが、
歩いて帰らざるを得なくなったんですね。 - ふだんはそんなこと絶対にしないんです。
つまりあの写真集は、自分にとって、
何か強烈なものを突きつけてきたんだな、
と思いました。
撃ち抜かれるように伝わった、というか。
- タイタン
- そういうこと、ありますよね。
- ──
- 同様に、『奇奇怪怪明解事典』を読んで、
登山家の栗城史多さんのことを書いた
ドキュメンタリーの本を買ったんですよ。
- タイタン
- あ、ほんとですか? 『デス・ゾーン』?
- ──
- はい。正直言ってベストセラーだし、
存在は知ってましたが、読んでなかった。 - でも、この本について、
タイタンさんたちのしゃべってることが、
「自分にも関係がある」と思えた。
だから、これは読まなきゃならないなと。
「リアリティがあった」んです、つまり。
- タイタン
- あの番組の現時点における価値の源泉は、
ひとつには、そこだと思います。 - 嘘ついてないんです。
いろんな本や映画を好きで見ていますし、
最近では、
献本をいただけることも増えましたけど、
自分との接点を見つけられなかったら、
やっぱり、番組では話せませんからね。
- ──
- そのリアリティ、なんでしょうね。
リスナーに「伝わっている」のは。
- タイタン
- スポンサーから
お金もらってやってるわけじゃないんで。
- ──
- ぼくたち「ほぼ日」にも、
基本的には
お金をもらって書く記事はないんですが、
その「お金的な要素」って、
「伝わり方」に相当関係してきますよね。
- タイタン
- そうだと思います。
(続きます)
撮影:中村圭介
2022-06-28-TUE
-
Spotifyのチャートで最高順位第1位を記録、
タイタンさん(Dos Monos)と
玉置周啓さん(MONO NO AWARE)による
大人気ポッドキャスト
「奇奇怪怪明解事典」が待望の書籍化。
立派なつくりの箱から厳かに本体を取り出し、
厚紙の表紙をめくれば、
中身は三段組・544ページもの壮大な宇宙。
本、映画、Mー1から往年のテレビ番組、
Tik Tokからネオリベ論まで。
読み応え抜群の濃厚な内容ながら、
話し言葉の書籍化なので、
ポッドキャストのリズムでスラスラ読めます。
刺激と興奮に満ちた一冊。ぜひご一読を。
Amazonでのおもとめは、こちらから。
また星海社新書『編集と何か。』も発売中。
こちらも書店とAmazonで売ってます。
どっちも「話し言葉」の「分厚い本」なので、
勝手に親近感を感じてます。
せっかくなので、タイタンさんに
並べて持って写真を撮らせていただきました。
タイタンさん、ありがとうございました。