ヒップホップユニットDos Monosのラッパーで、
大人気ポッドキャスト
「奇奇怪怪明解事典」を主宰するタイタンさんが、
『編集とは何か。』をおもしろがってくれまして。
「どんなところが?」と、うかがってきました。
折しも、書籍版の『奇奇怪怪明解事典』も
リリースされたタイミングだったので、
担当編集者の国書刊行会・イシハラさんも交えて、
いろいろ、おしゃべりさせていただきました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。おもしろかったー。

>タイタンさんのプロフィール

TaiTan(タイタン)

Dos Monosのラッパーとして2018年にアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約。これまでに『Dos City』『Dos Siki』『LARDERELLO』の3枚のアルバムをリリース。ポッドキャスターとしては、Spotify独占配信中のPodcast番組『奇奇怪怪明解事典』にて、JAPAN PODCAST AWARDSのSpotify NEXT クリエイター賞を授賞。また、クリエイティブディレクターとしても、¥0のマガジン『magazine ii』や、テレ東停波帯ジャック作品『蓋』などを手がけた。

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第2回 オードリー・タンと わけのわからんラッパーが。

──
ご自身の音楽つまり
Dos Monos(ドスモノス)でいうと、
「企てる人」の部分って
どういうところにあると思いますか。
タイタン
ぼくらの楽曲においてエディトリアル、
プロデューサーのような部分を
担っているのはトラックメーカーです。
楽曲の制作に関して、
いちばん大事なコアの部分を
つくってくれているのは彼で、
ぼくは
リリックを書く「ただのラッパー」です。
──
と、いう意識。
タイタン
なのでぼくは、どっちかっていうと
楽曲ができたあがったあとの
流通とか広め方に関して
ディレクションすることが多いです。
──
具体的には、どういう‥‥。
タイタン
ひとつの楽曲を届けるのにも、
ただ単にリリースするだけじゃなくて、
いろいろと実験したいんです。
たとえば、オードリー・タンさんという
台湾のIT大臣と
曲をつくらせていただく機会があったんです。
──
え、すごい。
タイタン
注目されている台湾のIT大臣が、
世界的にはまったく無名のラッパーと
コラボしたら何が起きるのか?
しかも、星野源さんの「うちで踊ろう」で、
前の安倍首相が
動画アップした直後くらいに出したんです。
──
それは、まったく知りませんでした。
タイタン
つまり、非公式コラボで
音楽が政治に利用されてる云々って議論が
たたかわされている渦中に、
オードリー・タンさんと、
よくわからんラッパーの公式コラボを出す。
そういう「実験」のほうが、
おもしろいし、気持ち悪いじゃないですか。
そういうことに愉快さを感じてますね。
──
それ、どういった経緯でコラボすることに。
知らなくて申しわけないのですが。
タイタン
黒鳥社の若林恵さんという編集者が、
オードリー・タンさんの
単独インタビューを取ったんですけど、
そのときの音声を使って、
キミたち何かやらないかって連絡をくれて。
で、ガッツリのラップ曲を
つくりましょうかとなったんです。
──
へええ‥‥。
タイタン
クリエイティブコモンズと言うんですが、
オードリー・タンさんって、
自分がアウトプットしたものの著作権を、
開放することに肯定的な方なんですよ。
だから、そのインタビューの音源とかも、
比較的シンプルに
ご本人の承諾を得られました。
──
ようするに、
オードリー・タンさんのインタビュー音声を
サンプリングして、
Dos Monosの曲に使用している‥‥と。
タイタン
そう。YouTubeにもアップしてますが、
クリエイティブコモンズって
収益化しちゃいけないのがルールなんで、
ミュージックビデオつくっても、
ぼくらには一銭も入んないんですけどね。
でも、そういうこと全体がおもしろくて。
──
オードリー・タンさんの反応は?
タイタン
人づてに、めちゃくちゃグッドだねって。
著作の中にも、
日本のラッパーとコラボした曲があって、
あれは楽しかった、
みたいなことを書いてくれていましたし。
──
おもしろがってもらえた、と。
痛快だなあ。
タイタン
ま、再生回数はたいしたことないですよ。
でも、1000万回再生される曲よりも、
絶対にやってて意味があると思うんで。
──
そんな「届け方」をしたら、
何が起こるだろうってワクワクしますね。
タイタン
Dos Monosの曲も当然好きなんですが、
それを
どうやって世の中に伝えていくのか‥‥
まで含めて、
デザインしていくのがおもしろいんです。
──
音楽の届け方、伝え方にも、
いまはいろんなチャネルがありますよね。
昔はCDアルバムを買うだけだったけど、
配信、ライブ、YouTube‥‥とか。
タイタン
そういう意味で言えば、あともう一個、
テレビの深夜と早朝の間に10分くらい、
電波の止まる時間があるんです。
業界用語では
フィラーっていうらしいんですが。
──
ええ。
タイタン
その枠、余ってんならくださいって、
テレビ東京の上出遼平さんといっしょに、
お願いしに行ったことがあって。
その10分間に、Dos Monosの新曲が
ずーっと流れてる‥‥
みたいなことができたらおもしろいねと
上出さんとしゃべってたんです。
結局、それが「蓋」という番組になって、
1ヵ月ぐらい放映されてたんですよ。
──
あ、Twitterで話題になってた?
あんまり理解していなかったんですけど、
あれは、上出さんと、
Dos Monosのしわざだったんですか。
つまりそれも、
ひとつの「届け方」ということですね。
タイタン
地上波の停波帯っていう空白の時間帯を、
メディアにして遊んでみたんです。
その「蓋」って実験も、
そんなに有名になったわけじゃないけど、
そんなことしてること自体を、
おもしろがってくれる人がいるんです。
で、次はこういうことしませんか、
みたいな誘いが来るようになったりとか。
──
別の可能性や広がりを呼び込んでくる。
タイタン
言わずもがなだと思いますけど、
たとえ100万ビュー達成したとしても、
明日には、
もう誰ひとり覚えてないじゃないですか。
──
ウォーホルの
「誰でも15分だけ有名になれる」って
まさしく現代に対する予言ですもんね。
タイタン
音楽でいえば1億回再生されたところで
400人キャパの
ライブハウスすら埋まらないみたいな。
それはなぜかといえば、
同じフェーズにいるアーティストが
無限にいるからですよね。
──
再生回数は積算だけど、
ライブに足を運ぶのは一人ひとりの人間、
ってことですもんね。
タイタン
100万再生という数字だけ見たら、
めちゃくちゃ成功してるように見えるが、
その実、唯一性は獲得できていない。
そういう意味で言えば、
大して再生回数がいかなくたって
「あいつら、何か変なことやってんなあ」
みたいなほうが、
本人たちも愉快だし、
まわりもおもしろがってくれるんですよ。
──
コンテンツと同じくらい、
その「流通のさせ方」が重要なんですね。
タイタン
コンテンツとその流通は、
ぼくは、つねに不可分だと思っています。
何かをつくってハイ終わり、
ということはあり得ないと思うんですよ。
それを伝えるための何か‥‥が、
コンテンツを、くるんでいる必要がある。
──
くるむもの‥‥デザインとか?
タイタン
たとえば。それを載っけるメディアとか。
で、そういうものがなかったら、
コンテンツって、伝わっていかないです。
──
そんなようなことについては
ぼくは、「リアリティ」っていう言葉で、
ピンときたことがあって。
たとえば『編集とは何か。』のなかでは
赤々舎の姫野希美さんが、
リアリティとは何かという話をしていて。
タイタン
あ、おもしろかったです。
──
現実に干渉してくるような力が
その作品なり表現なりに備わっている、
そういうとき「リアリティがある」と、
つまり「伝わるものになっている」と、
言えるんじゃないか‥‥って。
タイタン
ええ。
──
ぼくは、まさにその姫野さんの赤々舎で
大橋仁さんの
『そこにすわろうとおもう』
という、もう、ものすごい写真集を見て、
あたまの中がぐるぐるしちゃって、
何駅だか忘れましたが、
歩いて帰らざるを得なくなったんですね。
ふだんはそんなこと絶対にしないんです。
つまりあの写真集は、自分にとって、
何か強烈なものを突きつけてきたんだな、
と思いました。
撃ち抜かれるように伝わった、というか。
タイタン
そういうこと、ありますよね。
──
同様に、『奇奇怪怪明解事典』を読んで、
登山家の栗城史多さんのことを書いた
ドキュメンタリーの本を買ったんですよ。
タイタン
あ、ほんとですか? 『デス・ゾーン』?
──
はい。正直言ってベストセラーだし、
存在は知ってましたが、読んでなかった。
でも、この本について、
タイタンさんたちのしゃべってることが、
「自分にも関係がある」と思えた。
だから、これは読まなきゃならないなと。
「リアリティがあった」んです、つまり。
タイタン
あの番組の現時点における価値の源泉は、
ひとつには、そこだと思います。
嘘ついてないんです。
いろんな本や映画を好きで見ていますし、
最近では、
献本をいただけることも増えましたけど、
自分との接点を見つけられなかったら、
やっぱり、番組では話せませんからね。
──
そのリアリティ、なんでしょうね。
リスナーに「伝わっている」のは。
タイタン
スポンサーから
お金もらってやってるわけじゃないんで。
──
ぼくたち「ほぼ日」にも、
基本的には
お金をもらって書く記事はないんですが、
その「お金的な要素」って、
「伝わり方」に相当関係してきますよね。
タイタン
そうだと思います。

(続きます)

撮影:中村圭介

2022-06-28-TUE

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  • Spotifyのチャートで最高順位第1位を記録、
    タイタンさん(Dos Monos)と
    玉置周啓さん(MONO NO AWARE)による
    大人気ポッドキャスト
    「奇奇怪怪明解事典」が待望の書籍化。
    立派なつくりの箱から厳かに本体を取り出し、
    厚紙の表紙をめくれば、
    中身は三段組・544ページもの壮大な宇宙。
    本、映画、Mー1から往年のテレビ番組、
    Tik Tokからネオリベ論まで。
    読み応え抜群の濃厚な内容ながら、
    話し言葉の書籍化なので、
    ポッドキャストのリズムでスラスラ読めます。
    刺激と興奮に満ちた一冊。ぜひご一読を。
    Amazonでのおもとめは、こちらから。
    また星海社新書『編集と何か。』も発売中。
    こちらも書店とAmazonで売ってます
    どっちも「話し言葉」の「分厚い本」なので、
    勝手に親近感を感じてます。
    せっかくなので、タイタンさんに
    並べて持って写真を撮らせていただきました。
    タイタンさん、ありがとうございました。