ヒップホップユニットDos Monosのラッパーで、
大人気ポッドキャスト
「奇奇怪怪明解事典」を主宰するタイタンさんが、
『編集とは何か。』をおもしろがってくれまして。
「どんなところが?」と、うかがってきました。
折しも、書籍版の『奇奇怪怪明解事典』も
リリースされたタイミングだったので、
担当編集者の国書刊行会・イシハラさんも交えて、
いろいろ、おしゃべりさせていただきました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。おもしろかったー。

>タイタンさんのプロフィール

TaiTan(タイタン)

Dos Monosのラッパーとして2018年にアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約。これまでに『Dos City』『Dos Siki』『LARDERELLO』の3枚のアルバムをリリース。ポッドキャスターとしては、Spotify独占配信中のPodcast番組『奇奇怪怪明解事典』にて、JAPAN PODCAST AWARDSのSpotify NEXT クリエイター賞を授賞。また、クリエイティブディレクターとしても、¥0のマガジン『magazine ii』や、テレ東停波帯ジャック作品『蓋』などを手がけた。

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第3回 第三の男、 国書刊行会のイシハラさん。

──
しかし書籍版の『奇奇怪怪明解事典』、
これでも配信の一部ですが、
ものすごい読みごたえがありますね。
っていうかタイタンさん、
よくしゃべりましたね、こんなにも。
タイタン
たしかに。ははは(笑)。
──
次は何を話そうか困ったりとか‥‥。
タイタン
しないんですよ、それが。
こんなことやってるのは
ぼくらくらいかなと思うんですけど、
週に3回配信してるんです。
──
すごい頻度ですよね。
タイタン
高カロリーなことをやってるよねって
人からよく言われるんだけど、
本人たちにしてみたら
べつに、それほどでもないんですよね。
少なくとも脳への負担はそうでもない。
──
毎回のテーマはどう決めてるんですか。
タイタン
基本は、ぼくが3つくらいのテーマを挙げて、
打ち合わせとかも最小限にして
一気にしゃべってます。
昨日録ったやつが今日配信されますけど、
それは「倍速という病」というテーマでした。
──
おお、気になる。
タイタン
具体的に何を話そうとかって、
ぜんぜん決めないで録りはじめちゃってますね。
で、話し出して‥‥
YouTubeで見れるような情報系のコンテンツは
ぼく、めっちゃ倍速で見るんですが、
そもそも倍速でコンテンツを見ることの是非とか、
そういう時代の流れと
ぼくらはどう向き合っているのか‥‥という話は、
当然、出てきますよね。
あるいは、
そういう時代に最適化された「コンテンツ」って
果たしてどういうものなんだろう‥‥とかも。
──
まず走り出しちゃって、探っていく感じ。
タイタン
ですね。
──
ふたりともおしゃべりが好きなんですか。
タイタン
そんなでもないです。
たぶん、ぼくと周啓くんの相性が、
めちゃくちゃいいんだと思います。
自分の感じている疑問とか問題意識を
こいつなら受け止めてくれるし、
同じ解像度かつ同じトーンで
リアクションしてくれるだろうなあと。
──
そこの部分の感覚がそろってるという
信頼感があるから、
「よーい、どん」でやれちゃうんだ。
タイタン
そこまで深刻でもないんだけどなあ、
みたいな話を
シリアスに返されても困るし、
反対に適当すぎてもおもしろくない。
会話の「解像度」が、
丁度いいところでそろってるんです。
──
ポッドキャストを聞いている印象では、
タイタンさんのほうが
口数が多いような感じがするんですが、
実際はどうなんでしょうね。
タイタン
それがですね、本にしてみたら、
意外に同じくらいの文量だったんです。
周啓くんに、君は記憶には残らないが
記録に残るタイプだねって、
だいぶ失礼なことを言ってるんですが。
──
ははは、なるほど(笑)。
もともと音声コンテンツだったものを
書籍化するときって、
けっこう手間がかかると思うんですが、
じゃ、赤字とかも、けっこう‥‥。
タイタン
いや、ほぼ入れてないです。
少なくとも、ぼくのパートに関しては。
そこについてはもう100パーセント、
担当編集者の
国書刊行会のイシハラさんの力ですね。
石原
いえいえ。
──
本日は、書籍版『奇奇怪怪明解事典』を
ご担当なさった
国書刊行会の編集者・イシハラさんにも
ご同席いただいております。
石原
はい、よろしくお願いいたします。
──
あらためてですが石原さん、
なんとも、ぶあつい本をつくりましたね。
石原
はい。しかも、ページを開くと、
ちっちゃい文字で三段組になっています。
──
そう、だからさきほどの話に戻りますと、
校正とか大変だったんじゃないかと。
タイタン
この文量にぼくが赤字を入れた箇所は、
10か所もないはずです。
──
そうなんですね。こんな文字量なのに。
タイタン
何の違和感もなく、
最初からゲラをすーっと読めたんです。
それはなぜかというと、
ぼくら生の声を書き起こしたデータを、
この石原さんが、
うまいことまとめてくれたからですね。
──
なるほど。
タイタン
はじめのテープ起こしの段階では、
テキストとしては
そりゃあ読めたもんじゃないんですが、
それこそ「編集の手腕」で、
文字情報をうまくデザインしてくれた。
──
読者に「よりよく伝える」ために。
タイタン
音声を文字として読ませるときには
こう言い換えたほうが、
話者の言いたいことが
より正確に伝わるだろう‥‥という、
そこのところの
情報のコントロールが極めてうまい。
──
敏腕だ。
タイタン
天才ですよ。
石原
いえいえ。でも、不思議なことに
あの対話のやり取りが、
そのままテキストになったものを読むと、
聴いていたときのグルーヴ感というか、
リズムが
まったく別物になってしまっていて。
──
多々ありますよね、そういうこと。
石原
ですので、テープ起こしを整理しながら、
テキストを読んでいて
自分の中にうまれるリズムと、
音声を聴きながら感じるリズムの差異を
少しずつ埋めていく作業を、
えんえんと繰り返していたんです。
──
そのことじたいはぼくもやっていますが、
何せ、この分量じゃないですか。
石原さん、とんでもない精神力だな、と。
タイタン
かなり信頼できますよ、この人は。
──
第三の男だ。この本の。
タイタン
いやマジで。
何て言ったらいいのかな、
ぼくらの対話のおもしろがりかたとか、
どこに着地させてたくて
しゃべっているかっていう勘所を、
完全に理解してる人の仕事なんですよ。
石原
この本に収められたエピソードに関しては、
誰よりも聴いているのはたしかです。
──
まさに「担当編集者」ですね。
著者以上に、その本について知っている人。
その作業には、どれくらいの時間が?
石原
ほぼ「これしかやってない数か月」でした。
──
おおお‥‥でも本当に大事な部分ですよね。
インタビューをまとめるときの手法次第で、
かなり大きく
「伝わりかた」って、変わってきますから。
石原
絶対におろそかにはできません。
──
今回の『編集とは何か。』のなかでは、
そのあたりのことは
ほとんど触れられていないんですが、
明らかに「編集」における、
ひとつの大きなトピックだと思います。
対談とかインタビューを、
テキストで表現するときの成否って、
ほぼ、そこに集約されると思いますし。
自分も、やればやるほど
奥深い世界だなあと日々実感してます。
石原
この、『編集とは何か。』の発売日と
前後して、津野海太郎さんの
『編集の提案』(宮田文久編、黒鳥社)
という本が出たんです。
──
あ、気になってました。
石原
冒頭に「テープおこしの宇宙」っていう、
おもしろいエッセイがあるんです。
対話や音声をそのまま文字起こししても
その場の雰囲気とか、
やり取りのテンポとか温度感とか、
発された言葉に乗っていたはずの
「意味以外のもの」は、
ほとんど漂白されてしまう。
──
ですよね、多くの場合。不思議なことに。
石原
そこでものを言うのが、
まとめる人間、
編集者やライターの「演出」だと。
つまりインタビューや対談、
座談会の原稿というものは、
書き言葉による「話し言葉の演技」であって、
編集者やライターは、
「その演技に演出をつけている人」なんだと。
──
おお‥‥「編集者=演出家」観。
石原
テープ起こしをまとめていく過程では、
現場で話している人でもない、
かつ自分の声でもない声が聞こえてくる、
ともおっしゃっていて‥‥。
──
テキストという「場」に響く声、ですね。
わかります。聞こえます、その声。
石原
それが聞こえてくるようなテキストが
立ち上がったとき、
音声から文字情報へ変換される過程で
こぼれ落ちていったものが、
少しすくい取れたような気がしてくる。
自分が『奇奇怪怪明解事典』の編集で
えんえんやってた作業って、
こういうことだったんじゃないかなと。
──
やっぱり身体的なんですよね、編集って。
みなさん身体を使って編集している感じ。
石原
その通りだと思います。
──
頭の中でチャチャッと‥‥とかでは、
絶対にできないことをやっていますよね。
石原さんだって、
自分の身体が感じるリズムにしたがって、
このすごい本をまとめたわけだし。
石原
正直、肉体的にしんどかったです(笑)。
──
「身体」が疲れ果てた(笑)。
石原
はい(笑)。

(続きます)

撮影:中村圭介

2022-06-29-WED

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  • Spotifyのチャートで最高順位第1位を記録、
    タイタンさん(Dos Monos)と
    玉置周啓さん(MONO NO AWARE)による
    大人気ポッドキャスト
    「奇奇怪怪明解事典」が待望の書籍化。
    立派なつくりの箱から厳かに本体を取り出し、
    厚紙の表紙をめくれば、
    中身は三段組・544ページもの壮大な宇宙。
    本、映画、Mー1から往年のテレビ番組、
    Tik Tokからネオリベ論まで。
    読み応え抜群の濃厚な内容ながら、
    話し言葉の書籍化なので、
    ポッドキャストのリズムでスラスラ読めます。
    刺激と興奮に満ちた一冊。ぜひご一読を。
    Amazonでのおもとめは、こちらから。
    また星海社新書『編集と何か。』も発売中。
    こちらも書店とAmazonで売ってます
    どっちも「話し言葉」の「分厚い本」なので、
    勝手に親近感を感じてます。
    せっかくなので、タイタンさんに
    並べて持って写真を撮らせていただきました。
    タイタンさん、ありがとうございました。