ヒップホップユニットDos Monosのラッパーで、
大人気ポッドキャスト
「奇奇怪怪明解事典」を主宰するタイタンさんが、
『編集とは何か。』をおもしろがってくれまして。
「どんなところが?」と、うかがってきました。
折しも、書籍版の『奇奇怪怪明解事典』も
リリースされたタイミングだったので、
担当編集者の国書刊行会・イシハラさんも交えて、
いろいろ、おしゃべりさせていただきました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。おもしろかったー。

>タイタンさんのプロフィール

TaiTan(タイタン)

Dos Monosのラッパーとして2018年にアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約。これまでに『Dos City』『Dos Siki』『LARDERELLO』の3枚のアルバムをリリース。ポッドキャスターとしては、Spotify独占配信中のPodcast番組『奇奇怪怪明解事典』にて、JAPAN PODCAST AWARDSのSpotify NEXT クリエイター賞を授賞。また、クリエイティブディレクターとしても、¥0のマガジン『magazine ii』や、テレ東停波帯ジャック作品『蓋』などを手がけた。

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第4回 身体ごと伝わっていくものの 強さと、おもしろさ。

──
ポッドキャストを聞いててもそうだし、
今日お話してみても感じましたが、
タイタンさんって、
本当に
いろいろなことに興味があるんですね。
タイタン
まあ、そうですかね。
──
いまは、とくにこれがとかありますか。
タイタン
いまというわけじゃなくて
昔からなんですけど、
ドキュメンタリーを見るのは好きです。
──
番組でもけっこう話題に出てきますね。
ちなみに、たとえばで言うと‥‥。
タイタン
少し前だと、大島新監督の
『なぜ君は総理大臣になれないのか』
とかめちゃくちゃよかったです。
最近のやつだとあれかな、
ラーメン二郎の人のドキュメンタリー。
──
ああ、ありましたね。
これまで、ずーっと取材を断ってきた
「総帥」山田拓巳さんが、
こうやって出るのは最初で最後という。
タイタン
そんな奇跡的な番組を、
深夜枠の30分でしか放送しないって、
何てもったいないことを、と。
──
原一男監督作品とかは、いかがですか。
ぼく、昔から好きなんですけど。
タイタン
はい、『ゆきゆきて、神軍』なんかは、
学生時代に当然、見てますね。
でも、そこまでは追ってませんでした。
──
ちょっと前に、
原監督の最新作が公開されたんですが、
水俣病がテーマなんです。
で、撮影に15年くらいかけてまして。
タイタン
15年。
──
15年分の素材を5年間編集し続けて、
できた映画が6時間という、
もうエベレストみたいな映画なんです。
途中で2回の休憩が挟まるんですけど、
見る前には、
さすがに気分が少し重かったんですよ。
タイタン
ええ。
──
でも、見だしたらあっという間でした。
原監督ってああいう作風ですから、
水俣病がテーマでも
シリアス一辺倒では撮らないんですね。
水俣病の旦那さんと奥さんを、
新婚旅行で泊まった旅館に連れてって、
お酒を飲みながら
「初夜」のことを聞いたりとかしてて。
タイタン
なるほど。
──
生前の石牟礼道子さんが登場して
「悶え神」についてお話されていたり、
重厚で、
歴史に残るようなシーンもありながら、
でも、どこか、原監督らしい
ユーモアの漂う「6時間」なんですよ。
こんなに「おもしろく」見れるんだと。
水俣病を描いた映画が。
タイタン
いや、わかります。見せる力の重要さ。
大島新監督って、
あの大島渚監督の息子さんなんですけど、
そこの力が、やっぱりすごい。
最新作は、さっきの
『なぜ君は総理大臣になれないのか』と
『香川1区』って、
政治を扱ったドキュメンタリーなんだが、
そこばかりフィーチャーされるのは
おもしろくない、不服だと言ってました。
──
なるほど。
タイタン
単純に「おもしろいでしょ」って感じで、
見てほしいんだ‥‥って。
実際、そんなふうにして見れる映画だし。
ぼく自身は、政治云々というより
「この映画、めちゃくちゃおもしろいな」
という感想を持っていたので、
監督の言いたいことはよくわかりました。
──
そう、見てて「おもしろい」んですよね。
すぐれたドキュメンタリーって、いつでも。
原監督も「エンタメじゃなきゃだめだ」と、
常々おっしゃってますし。
タイタン
ですね。テーマはどうあれ‥‥っていうか
どんなテーマでも
「おもしろいじゃん」で見せ切ってしまう。
一流のドキュメンタリー作家って、
そこの能力が突出していて好きです。
──
登場してくる実在の人間の魅力にやられる、
みたいなところもありますね。
おもしろいドキュメンタリーを見ていると。
名もなき人たちなんだけど、
ひとりひとりがすごく魅力的に描かれてる。
単純に言うと、好きになっちゃう。
タイタン
それ、描く側の力でもありますよね。
──
はい、そう思います。
今回の『編集とは何か。』では、
医学書院の白石正明さんのやってることが、
ちょっと近い匂いがありますね。
タイタン
ああ、そうですね。
──
思うに、白石さんのすごさって、
「20年で40冊」も
それぞれにおもしろい本をつくったことは
もちろんなんですけど、
もしかしたら、それ以上におもしろいのが、
白石さんご自身が、
出版社に入社してから10年以上、
校正の仕事をやっていた‥‥ということで。
タイタン
そこ、ぼくも付箋を貼りました。
──
ああ、そうですか。
ようするに「校正」という仕事を
編集部門から「下」に見られると腹が立つ、
そうおっしゃってますよね。
そういう経験をなさってきた編集者が、
いまどういう人たちを見つめているのかを、
ぼくらは思うわけじゃないですか。
タイタン
ですね。
──
さっき編集と身体の話が出ましたが、
校正の仕事が向いてなくて辛かったのって、
ほとんど身体的な記憶だし、
白石さんって常に「現場」にいるし、
その「編集作業」って、
もう完全に身体的な仕事の集積なんだなと。
タイタン
伊藤亜紗さんが、吃音って言葉じゃなくて
身体が伝わってしまう現象であって、
だから恥ずかしいんだって言ってますよね。
至言だなと思うんですけど、すごくわかる。
自分がやっていることでも、
身体ごと伝わってるなと思えるときが、
いちばんおもしろいし、手応えもあるので。
──
あ、そういう実感ありますか。
タイタン
ありますね。
──
音楽でも。
タイタン
ええ、ラップの話で言っても、
上手い人って、ま、いくらでもいるんですよ。
でも、上手けりゃいいのか‥‥って言ったら、
そういうことじゃない。
やっぱり、
身体ごと伝わるもののほうが魅力的ですよね。
──
最終的にラッパーって職業を選んだことにも、
そのあたりのことと関係していますか?
タイタン
もともと、自分はドラムを叩いてたんですね。
ぼく、中学高校の5年くらい。
そのあと大学に入って、
演劇やコントの領域に足を踏み入れたんです。
──
へええ‥‥。ドラム、演劇、コント。
タイタン
そうするなかで「板の上」で発生する事態の
おもしろさに目覚めたんです。
もともと「リズム」の魅力を
ドラムをやっていたときに感じていたので、
両者が合流したところに
ラッパーという在り方があったっていうか。
──
ああ、なるほど。すごい説得力。
その自分の身体性みたいなものについては、
いつごろから気づいていたんですか。
タイタン
ラップというものをはじめてやったときに、
身体が馴染んでいたんです。
──
おお。すでに身体が知っていた、みたいな。
タイタン
んー、どう言ったらいいのかな‥‥
「あ、逆上がりできそう」と思った瞬間に、
できてるじゃないですか。あの感じ。
身体が受け入れ態勢をすでに整えてたんで、
だったらやったらいいんじゃないかと。
──
それはもう「天職」ですね。
他方、ポッドキャストでやっていることは、
どんなふうに捉えてるんですか。
タイタン
モチベーションになってるもののひとつは、
音楽に持ち込みたくないものを、
ポッドキャストでやってるってことですね。
政治に対して何がどうだか、
単純にあのドキュメンタリーがいいねとか、
大げさに言ったら
自分の社会的な立脚点みたいなものは、
音楽の中には必要ないものだと思うんです。
──
なるほど。
タイタン
それより、普遍的なことを言ってるのに、
なぜだか個人に届いちゃうみたいな話とか、
ナンセンスな言葉が、
誰かにとっては大きな意味を持つみたいな、
音楽とか歌には、
そういう力が宿っていると思っていまして。
──
わかります。何となくですが。
タイタン
だから、自分たちの音楽には
「奇奇怪怪明解事典」みたいなトーンは
必要ないなと思ってるんです。
でも‥‥
他方で「しゃべりたい」んですよ(笑)。
──
タイタンさんの、それこそ「身体」が、
おしゃべりを欲している(笑)。
タイタン
周啓くんと「奇奇怪怪明解事典」で
言ってるようなことを、
ああだこうだしゃべっていたいんですよね。
ぼくのなかに、
そういう欲望がたしかに、あるんです。
──
そもそも、コロナがきっかけで、
やむにやまれず、はじめたことですもんね。
タイタン
コロナがなければ、絶対やってないですね。
ラップがどんどん楽しくなってきたときに、
Dos Monosの活動が、
コロナでぜんぶ足止め食らって。
──
ええ。
タイタン
音楽では禁じられてしまったが、
でも、別の方法で、
自分の言葉と声を「逃がして」やらないと
「死ぬな」
と思ってはじめた活動なんです。
──
身体的だ。
タイタン
急にやめちゃう可能性もあるかもですけど。
──
それもナマものの、身体だからですね。
タイタン
まあ、当面はやりますよ。おもしろいんで。
──
これからも楽しみにしてます。
タイタン
はい、ありがとうございます。

(終わります)

撮影:中村圭介

2022-06-30-THU

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  • Spotifyのチャートで最高順位第1位を記録、
    タイタンさん(Dos Monos)と
    玉置周啓さん(MONO NO AWARE)による
    大人気ポッドキャスト
    「奇奇怪怪明解事典」が待望の書籍化。
    立派なつくりの箱から厳かに本体を取り出し、
    厚紙の表紙をめくれば、
    中身は三段組・544ページもの壮大な宇宙。
    本、映画、Mー1から往年のテレビ番組、
    Tik Tokからネオリベ論まで。
    読み応え抜群の濃厚な内容ながら、
    話し言葉の書籍化なので、
    ポッドキャストのリズムでスラスラ読めます。
    刺激と興奮に満ちた一冊。ぜひご一読を。
    Amazonでのおもとめは、こちらから。
    また星海社新書『編集と何か。』も発売中。
    こちらも書店とAmazonで売ってます
    どっちも「話し言葉」の「分厚い本」なので、
    勝手に親近感を感じてます。
    せっかくなので、タイタンさんに
    並べて持って写真を撮らせていただきました。
    タイタンさん、ありがとうございました。