日々のできごとを記してみたり、
これからのことに思いをめぐらせてみたり。
手帳をひらくだけで、
じぶんとじっくり向き合う時間がうまれます。
そこに、おいしいお菓子と心地いい空間があれば、
さらに「いうことなし」だと思いませんか?
気まぐれに更新する「東京甘味手帳」は、
手帳タイムを過ごすのにぴったりな
東京のおいしいもの&お店案内です。
写真:川原崎 宣喜
- 秋が深まってきたから、食欲がわいてしまうのか。
食欲がわくから、秋だなあと感じるのか。
- とにかくいまは、
甘くておいしいものを、
わたしのお腹が欲している。
- ふらりと訪れた麹町エリア。
通りの角にあるショーウィンドーに
目がとまり、そのまま中へと
吸い込まれた。
- 民芸の家具や装飾品が並ぶ、
すてきな和の空間。
うん、ここでなら
ゆっくり手帳も書けそうだ。
- メニューをじっくり読む。
どれもおいしそうで迷うけれど、
ここの店の名物を頼んでみた。 - 目の前に出てきてびっくり。
思わずにやけてしまうぐらい、
大きなおはぎ。
- なんと、
ふつうのおはぎの、
2倍ぐらいあるんだって。
- さっそく、いただきます。
- 餡のなめらかさとつぶつぶ感、
もち米の弾力と柔らかさ、
疲れを癒やしてくれる、
適度でやさしい甘さ。
なんて、ちょうどいいバランスの
おはぎなんだろう。
- ボリュームたっぷりに見えるけど、
軽やかに、するっと喉をとおりながら、
おはぎがうれしそうに
お腹に移動していくのがわかる。
- うん、今日はまだまだ食べられそう。
メニューをひらいたときから気になっていた
蔵王あんみつも、いっちゃおう。
小豆ではなく、大正金時豆を
使ったあんみつなんだとか。
- 自家製の黒蜜をかけて。
- 手帳を広げて、
至福の時間を記すのも忘れずに。
- 最後はコーヒー。
陶磁器のカップとソーサーが
この空間に、テーブルに、手帳に、
そしていまのわたしの気持ちにも、
ぴったりと合っている気がする。
ピスタチオがついているのも、
うれしいな。
- すっかり満腹になって、
パワーがフルチャージできた。
また、充電が切れたらここへこよう。 - ごちそうさまでした。
甘味 おかめ
1946年に有楽町で本店が開店し、
長きにわたり愛され続けている甘味処。
現在は麹町店、有楽町店、
交通会館店、渋谷PARCO店で、
看板メニューのおはぎや蔵王あんみつ、
おでんや豚うどんなどの食事メニューを
いただくことができます。
半蔵門の駅からほど近い麹町店は
1990年にオープンしました。
インテリアに使われているのは、
木のぬくもりを感じる松本民芸家具。
また、お椀やお皿、カップなどの食器は
会津の陶芸家・五十嵐元次さんによる作品です。
おいしい甘味をいただきながら、
民芸の世界にもたっぷりと浸れる空間と
なっています。
店主の阿部さんが
こんなお話をしてくださいました。
「有楽町に『おかめ』ができたころは
明け方まで勤務する新聞社の人たちや
スーツとハイヒール姿で働く
キャリアウーマンの人たち、
日劇のダンサーさんなどもいらっしゃったので、
朝から深夜まで、営業していました。
まだ、戦後間もない時代。
ものがなく、みんなが
お腹を空かせているような状態でした。
先々代である祖母は
気風がいい江戸っ子気質の人で、
『おかめへ来たときだけは、
お腹いっぱいになってほしい』
という思いを持っていたので、
うちのおはぎは、
ふつうの2倍ぐらいの大きさがあるんです。
最近は、小さいサイズのものをちょっとずつ、
というものも流行っているようだけれど、
そんな祖母の思いがあって、変えられませんね。
何十年と通い続けてくださる常連さんもいますし、
昔、有楽町のお店に来てくださっていた方が
80、90歳ぐらいになって、麹町店近くの
国立劇場に観劇にいらっしゃることもあります。
行き帰りに『おかめ』を見つけて
『え、ここにお店があったの? 懐かしいわ』
っておっしゃってくださるのがうれしいですね。
いい材料を仕入れて、
手間ひまをかけて小豆を煮て‥‥と
昔のものをそのまま継続することは
新しいことをやるよりも難しい部分もありますが
先々代から続いてきた『おかめ』の味は
これからも変えずに守っていきたいです」
◎おはぎ つぶ餡、おはぎ きなこ 各300円
通常の2倍ほどのサイズがある、
「おかめ」名物のおはぎ。
北海道・富良野産の上質な小豆を
ひと晩水につけ、弱火で灰汁をとりながら
丁寧に炊いたつぶ餡を使用。
また炊き上げたもち米は
つぶさずに作られるので、
米粒の食感が楽しめます。
注文を受けてからひとつひとつ
手作りしているので、
ほんのり温かいのもうれしいポイントです。
きなこ、胡麻、春限定のさくらのおはぎにも
同じつぶ餡が入っています。
◎蔵王あんみつ 840円
昭和40年代、ソフトクリームが登場した当時に
いちはやく専用機械を導入して
開発したというメニュー。
ふつうの小豆ではなく、違う豆を使って
おいしいあんみつができないか、と
試行錯誤の末に見つけ出したのが
大正金時豆だったそうです。
「蔵王あんみつ」のネーミングは、
白いソフトクリームが
蔵王の雪山を連想させること、また
集団就職の時代、住み込みで働きに来ていた
山形・上山(かみのやま)出身の女性たちが、
注文が入るのを聞くたびに
故郷を懐かしく思えるように、という思いも
あったのだそうです。
柔らかくなるまでじっくりと炊き上げた
甘さ控えめの金時豆に、
少し固めに仕上がった寒天と、
さっぱりとした口溶けのソフトクリームが
絶妙にマッチする一品です。
「お腹いっぱい食べてってね」と言っていただいたのがうれしくて、ほんとうにその通りにしてしまいました。お腹がいっぱいなのに、食べた後の気持ちは軽やか。おいしいものって、ふしぎだなあ。
(次回は、ちょっぴり豪華なお菓子が登場予定。おたのしみに!)
2020-11-21-SAT