日々のできごとを記してみたり、
これからのことに思いをめぐらせてみたり。
手帳をひらくだけで、
じぶんとじっくり向き合う時間がうまれます。
そこに、おいしいお菓子と心地いい空間があれば、
さらに「いうことなし」だと思いませんか?
気まぐれに更新する「東京甘味手帳」は、
手帳タイムを過ごすのにぴったりな
東京のおいしいもの&お店案内です。

写真:川原崎 宣喜

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page_18 梅雨の晴れ間のバタークリームケーキ SAVEUR

 
ぐずついた天気が数日続いた、
梅雨の晴れ間。
おおきな歩幅で
ゆるやかな坂をくだるときの
すがすがしさ。

 
駅からまっすぐ坂をくだった先に、
まっしろな建物があらわれる。

 
ドアも、窓枠も、ひさしも、まっしろ。
看板も見当たらない。
合ってるよね? とそっと覗いて安心する。
お目当てのケーキはここにある。

 
白いドアを開けると、
白い店内に、木製のカウンター。
余分なものがひとつもない
まっさらな空間に、
整然とならぶケーキたち。
白いユニフォームを着た店員さんに
ケーキを注文する。

 
今日はこれをめざしてやってきた。
ガトー・ア・ラ・クレーム、
バタークリームのケーキだ。
美しい長方形。

 
ガトー・オ・ブール、
こちらは卵をつかった、
どっしりとしたバターケーキ。
これもお願いしちゃおう。

 
小学校の算数で出てきた
図形の問題を思い浮かべる。
三角形と、長方形と。

 
あ、マカロンもお願いします!
長方形と三角形に、
さらに円も追加。

 
紙袋にプリントされた絵は、
秩序のある世界に突然現れた混沌、みたいだ。
かっこよくて、にぎやか。
画家の牧野伊三夫さんが
描かれたものだそう。

 
さて、持ち帰ってきたケーキを食べよう。
この素敵な紙袋の中には、
同じ柄の箱がぴったりとおさめられている。

 
あの場所から連れ帰ってきたケーキたちは、
箱の中でやっぱり整然と並んでいる。

 
しかくいお皿にしかくいケーキをのせて。

 
フォークをまっすぐ差し入れる。

 
こっくりとしたバタークリームが
口の中で溶けていく。
スポンジもやわらかな舌触り。
バターの味わいと香りが
口いっぱいに広がる。
やさしいおいしさだ。

 
その美しくておいしい長方形の記憶を
残しておきたくて、
一旦フォークを置いて
スケッチしちゃう。

 
一見、背筋をのばしたくなるようなケーキ。
でも一口食べると、
そのやさしさに心がほぐれていく。

 
マカロンとサブレも
買ってきたんだった。
もう少し、じぶんを甘やかす時間は続く‥‥。

 

SAVEUR(サヴール)

2020年10月に田園調布にオープンしたばかりのお店。
「この建物にひとめぼれしたのが
はじまりなんです」と話すのは、
パティシエの細谷さん。
余分なもののない真っ白な空間で、
無駄なものが削ぎ落とされた
シンプルなおいしさのお菓子が提供されています。
YAECAのお菓子部門・プレーンベーカリーで
焼き菓子中心に腕を奮っていた彼女が、
SAVEURで日々フレッシュなケーキを作っています。

めざしているのは、
「フランスに憧れた日本人がつくる、
懐かしのフランス菓子」。
バタークリームケーキ、バターケーキ、
マカロン、サブレ‥‥。
憧れのフランス菓子を、伝統の作り方で、
けれども味わいはいまの日本人の舌に合うよう
アップデートしながら生み出しています。
素材の味を活かして、丁寧に作るのが信条。
毎日の温度や湿度に合わせて粉の調整を行い、
その日のベストな状態で焼き上げます。

開店から1年足らず、早くも街の人々に愛されるお店に。
「午前中に自分用にとケーキを買ってくださった
おじいさまが、『孫が来るから』と
午後にも来てくださったりして」(細谷さん)
ご近所の人々はもちろん、
遠方からこの味を求めてやってくるお客さんも。

印象的なパッケージを手掛けたのは、
画家の牧野伊三夫さん。
いくつもの案の中から、モノクロの抽象的な、
水墨画のようにも見えるデザインが
紙袋と紙箱に選ばれました。
その紙箱を包む包装紙は、
一転、子どもの落書きのようにカラフル。
いずれも、SAVEURのお菓子そのもののを表すように
飽きの来ないパッケージです。

◎ガトー・ア・ラ・クレーム(バニラ) 572円

なめらかなバタークリームたっぷりのケーキ。
口どけのよい軽い食感のスポンジに
シロップを染み込ませ、
クリームといっしょに口の中で
自然にとろけるように仕上げられています。
定番はバニラ、モカ、ラム。
夏はフルーツを使ったもの、
冬はラムにチョコレートをかけたものと、
季節によって限定の味が出ることも。
バターのコクが口の中で広がりつつも、
くどさやしつこさはまるでありません。
シンプルだからこそ、
何度も食べたくなるケーキです。

1ピースごとの販売のほか、ホール販売も。
ホールの場合は冷凍で地方発送も可能なので、
お電話で問い合わせてみてくださいね。

◎マカロン  248円

マカロンというとクリームがサンドされた
カラフルなものを思い浮かべますが、
こちらで作られているマカロンは
「懐かしの」のコンセプトに合わせた
フランス菓子の元祖マカロン。
材料は卵白、アーモンドプードル、砂糖と
風味づけのバニラビーンズだけ。
究極のシンプルな焼き菓子ですが、
さくっとふんわり、絶妙な歯ごたえと
品のいい甘さの一品です。

一緒に写っているサブレ(5枚324円)も
バターの香りが鼻に抜けていく
丁寧に作られた名品。

SAVEUR

東京都大田区田園調布2-51-1
営業:10:00〜19:00(L.O.19:00)
休み:水曜
電話:03-5483-0071

 

お店の佇まいも、お菓子も、とにかく徹底してシンプルで潔い。洗練されつつもどこか懐かしい味がするのがうれしくて、誰かへの手土産にしたくなりました。店員さんの真っ白な制服も、美しかったなあ。

(次回は夏を感じる甘味です。どうぞお楽しみに。)

2021-06-26-SAT

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