アニメーション監督の堤大介さんと、
画家のjunaidaさんに、
聞いてみたかったことがありました。
ものをつくるときに避けて通れない、
お金のこと。
一人でやること、チームを組むこと。
必要なのは、
相手へのリスペクトと少しの嫉妬心。
つくる人、つなぐ人、応援する人。
いろんな人に読んでほしい内容です。
全4回、担当は「ほぼ日」奥野です。
堤大介(つつみ・だいすけ)
トンコハウス共同代表。
東京都出身。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。
ルーカス・ラーニング、ブルー・スカイ・スタジオなどで
『アイス・エイジ』『ロボッツ』などの
コンセプトアートを担当。
2007年ピクサー入社。
アートディレクターとして『トイ・ストーリー3』や
『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がける。
ピクサー在籍中にサイドプロジェクトとして制作した
オリジナル短編アニメーション映画『ダム・キーパー』が
2015年米国アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネート。
2014年7月ピクサーを退職し、トンコハウスを設立。
junaida(ジュナイダ)
画家。1978年生まれ。京都在住。
Hedgehog Books and Gallery代表。
ボローニャ国際絵本原画展2015入選。
第53回造本装幀コンクール・
日本書籍出版協会理事長賞(児童書・絵本部門)受賞。
主な著書に、
画集「THE ENDLESS WITH THE BEGINNINGLESS」
(Hedgehog Books)、
宮澤賢治の世界を描いた「IHATOVO」シリーズ(サンリード)、
作品集「I’M ME」(玄光社)、
絵本「Michi」(福音館書店)などがある。
- 堤
- 本も映画も同じだと思うんですけど、
出版社や配給会社など
お金を出してくれる人たちが、
いいですよと言ってくれなかったら、
現状、なかなか、
クリエイターは「創造」どころか、
何かをつくるのさえ、難しいんです。
- ──
- ですよね。
- 堤
- 昔みたいにパトロンがついていて
「アーティストとしての
キミを信じてるから、
とにかく、作品をつくってくれ」
じゃなく‥‥。
- ──
- はい。
- 堤
- 「こういう感じが流行ってるから、
こういう映画なら
お金を出してやってもいいよ!」
という構造では、
どうしても、自由度は狭まります。
- ──
- そうなんでしょうね。
- 堤
- 最初にビジネスの枠組があって、
そこにハマるのなら、
資金を出してあげてもいい‥‥
という力関係があると、
つくりたいものをつくるのって、
ちょっとむずかしい。 - クリエイターとしての持ち味は、
そうした環境下では、
十分に発揮できないんですよね。
- ──
- 以前、取材でうかがったんですが、
焼酎の「いいちこ」の広告を
ずっと手掛けてきた河北秀也さんは、
経営陣に向かって
「あなたがたクライアントと
われわれデザイナーとの関係は、
まったく対等であると、
そのことをまず約束してほしい」
とおっしゃったそうです。
- junaida
- それで、あの駅貼りポスターが。
- ──
- そう、瓶があんなにもちっちゃい。
- でもそれって、一般的には
なかなか通用しない話でしょうね。
- 堤
- だから‥‥ぼくらトンコハウスは、
自分たちから直接、
お客さんに届けたいと思っていて。
- ──
- 映画を?
- 堤
- そう。
- junaida
- すごーい。
- 堤
- でも、junaidaさんは
もう、そのことを個人でやってる。 - ほぼ日なんか、最たる例ですよね。
冗談抜きで、
ぼくらほぼ日を目指してますから。
- junaida
- そうなんですね。
- 堤
- 自分たちが、1ミリの妥協もなく、
「これだ」とつくったものを、
直接、お客さんに届けたいんです。 - そしてお客さんが楽しんでくれて、
その対価として、
きちんとお金を支払ってくれたら、
そのお金で、
次の作品をつくることができます。
- ──
- お金の工面で走りまわることなく、
新たな創作に集中できる。
- 堤
- ダイレクトなやりとりができたら、
クリエイティブの可能性って、
もっともっと広がっていくと思う。
- ──
- うまくいってもいかなくても‥‥
そのほうが「納得」もいきそう。
- junaida
- ですね。自分の責任、ですから。
- ──
- でも、アニメーションスタジオが、
自分たちの映画を、
自ら配給することはあるんですか。
- 堤
- いやあ、ないでしょう。
アニメーションに関しては、まだ。 - アニメーションの制作そのものに、
すごく労力がかかるので。
- ──
- 労力とはつまり、お金と時間。
- 堤
- そこは、大きなジレンマなんです。
- ピクサーみたいに
お金と時間をたっぷりつぎ込んでも
きちんと回収できる会社は
もちろん別ですけど、
ぼくらは、いろいろ工夫して
コストを抑えたうえで、
どれだけ「いいもの」をつくれるか。
- ──
- ええ。
- 堤
- 現状、ぼくらの課題は、
そのあたりにあるかなと思ってます。
- ──
- 変わっていくとしたら‥‥。
- 堤
- インターネットがキーだと思います、
やっぱり。 - まだ日本では
ネット配信って遅れてる印象ですが、
アメリカでは、
すでにネット配信のほうが
テレビ局より力を持ってたりします。
- ──
- Netflixとかのオリジナルドラマとか、
聞いていると、
スタッフの集めかたにしても、
かけるお金にしても、
すごい規模でやってるみたいですね。
- 堤
- クリエイターが「つくりたい」と
思うものを、
きちんと、つくっていますよね。 - これまでの‥‥古い時代の
意識や方法を変えていかなければ、
これからは、
ハリウッドさえ危ないと思います。
- ──
- そう思われますか。
- 堤
- みんな、インターネットの世界に
流れていっちゃうと思う。
- ──
- 表現者、クリエイターにとって
「やりたいことができる環境」って、
ある意味では、
お金以上に魅力的でしょうしね。
- junaida
- そう、そうなんです。
- 堤
- キャラクターがいて、
世界観とストーリーがあれば‥‥
絵だけじゃなく、出版、
プロダクト、
空間スペースのデザインにも、
可能性が広がっていく。 - それって、
絵の特権だと思うんですよね。
- ──
- ええ、ええ。
- 堤
- だから、トンコハウスでも、
自分たちの力で、
いろんなかたちの発信ができるように
なれたらいいなと思ってます。
- junaida
- そのためには、パトロンが
「こういう作品なら、お金を出すよ」
というのじゃなく、
「これ、つくったんですけど」
って、
こっちが先に出すことが大事ですよね。
- ──
- なるほど。
- junaida
- ぼくの場合は
映画ほどの規模ではもちろんないので、
グッズを買ってくれる
「ひとりひとりのサポーターのかたに
向き合う」みたいな感覚で、
ものをつくることができていますけど。
- ──
- ちなみに、トンコハウスには、
今、何人ほどいらっしゃるんですか。 - はじめは、
ロバートさんと堤さんのふたりだけ、
だったわけですが。
- 堤
- アメリカに21人、
日本にフルタイムの人が4人ですね。 - パートタイムではたらいている人も、
7〜8人くらい。
- ──
- どういう職種の人がいるんですか。
- 堤
- アニメーションのアーティストが
人数としてはいちばん多くて、
プロデューサー的な人もいますね。 - あとは、やっぱり、
発信する人がいるといいんですが、
いま、そこは、
みんなでやりくりしてやってます。
- ──
- つまり、編集者とか、ライターさん。
- たしかに、仲間内に
そういう人がいるといいかもですね。
- 堤
- いまはいまで、
DIYでやって楽しいんですけどね。
- junaida
- アーティスト自身が、
自分の言葉で作品を語る‥‥のって、
けっこう難しいから。
- ──
- そうですか。
- 堤
- 宮崎駿さんには、鈴木敏夫さんが。
ウォルト・ディズニーには、
ロイ・ディズニーがいましたよね。
- junaida
- うん、うん。
- 堤
- そういう存在がいてくれたから、
ウォルトも宮崎さんも、
目の前の作品に専心できたって。
- ──
- でも、自分のつくったもののことを、
つくり手自身が語る文章って、
書くこと専門の人が聞いて書くより、
ずっとおもしろい場合ありますけど。 - junaidaさんの書く、
作品に対するステートメントとかも、
いつも感心して読んでます。
- junaida
- あ、ほんとですか。うれしいです。
- ──
- そのあたりの役割の話もふくめて、
「はたらく」に関しては、
今「個人」と「チーム」の両方が、
大事じゃないかなと思ってまして。
- 堤
- うん、うん。
- ──
- 次は、そのあたりについて、
少しおうかがいしてもいいですか。
(つづきます)
2019-09-04-WED
-
2020年版の
ほぼ日ホワイトボードカレンダーには、
junaidaさんのアートワークが。書いては消せるべんりさで、
全国ロフトで14年連続売上第1位の
ほぼ日ホワイトボードカレンダー、
2020年版には、
junaidaさんのアートワークが。
壁掛けタイプの「毎月の数字」と、
卓上版のメッセージボード部分に、
水彩画を描いてくださいました。
お部屋やデスクをぱあっと華やかに、
気分を明るく彩ってくれる、
そんなカレンダーになりました。
くわしいことは、
こちらのページでご確認ください。2020年には、映画祭も開催?
トンコハウス・ジャパンが金沢市に移転!昨年の暮れから、トンコハウスは、
投資家・孫泰蔵さんの会社
Mistletoeによって
サポートされているのですが、
このたび、
Mistletoeが金沢へ移転するにともない、
東京のトンコハウス・ジャパンも
金沢の地へ移転したそうです。
なんか、いいな!
いま金沢で制作スタジオの拠点を
つくっている最中で、
トンコハウスカフェや
展示スペースなども併設されるみたい。
今年、開催されて大盛況だった
「トンコハウス映画祭」の第2回が、
来年2020年、金沢市で開催されるかも!
文化豊かな金沢の土地と
トンコハウスのコラボレーション、
なんだか楽しいことが起こりそう‥‥!
ワクワクしつつ、続報を待ちましょう。