京都を拠点に活動する、
劇団ヨーロッパ企画主宰の上田誠さん。
映画化もされた『サマータイムマシン・ブルース』、
脚本に携わったアニメ『四畳半神話大系』、
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の
日本語版台本の制作に参加するなど、
舞台を軸にアニメやドラマ、映画、テレビなど
多岐にわたるジャンルで活躍されています。
過去作をすべて“先輩”としてとらえて、
新しいものを0から生み出す。
その創作のルーツを、
長年上田誠さんを追い続けてきた
ほぼ日乗組員の玉木が聞きました。

>上田誠さんプロフィール

上田誠(うえだ・まこと)

劇団ヨーロッパ企画主宰、劇作家。劇団のすべての本公演の脚本・演出を担当。2010年、構成と脚本で参加したテレビアニメ『四畳半神話大系』が第14回文化庁メディア芸術祭、アニメーション部門で大賞を受賞。2017年、『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。2024年、再演が予定されている。

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01 あこがれの先輩、宮本茂さん。

ほぼ日の學校に
劇団ヨーロッパ企画の上田誠さんが来ます、
と社内で共有したら、反応をくれた人たちの、
上田さんを好きになった入り口がバラバラだったんです。
映画だったり、アニメだったり、ドラマだったり。
上田
ああ、なるほど。
以前、お話を聞かせてもらったときに、
「過去作を“先輩”としてとらえている」
とおっしゃっていたことがとても印象的で、
今日はぜひ「先輩」の話を聞きたいのですが、
その前に、どうして多岐にわたって
作品を手がけているのか伺ってもいいですか?
上田
中学生とか高校生くらいの頃ですかね。
ゲームが好きで、
ゲームのプログラムを書いたり
実際にゲームをつくってみたりしていた時期があるんです。
音楽も好きだったのでギターを習って、
自分で曲をつくってみたりPCで打ち込みをしたり。
あと、お笑いも好きで。
ゲーム、音楽、お笑い。
上田
京都に住んでいたんですけど、
よしもとの二丁目劇場によく通っていました。
千原兄弟さんが出られていた時代で、すごい活気で。
そんな学生時代を経て、偶然演劇に出会い、
なぜかそっちにいったんです。
いろいろなものに興味があったけれど、
選んだのは演劇だったんですね。
上田
ただ一つ言えるのは、
理系っていうのが全部に共通していると思います。
だから、SFも好きで。
今やっているのもジャンルはさまざまなんですけど、
つくっているものはSFファンタジーばっかりです。

ゲームが好きなことと理系への関心が
共感し合って今の上田さんの作品があるんですね。
上田
なので、演劇もアニメも映画もドラマも、
それぞれのジャンルや興味が
自分の中で響き合っていると思います。
ゲームの画面構成が演劇に生かされたり、
プログラム的なフローチャートの組み方が
脚本に生きたり、
逆に演劇で培った語りをアニメに持ち込んだり、
そういうことは心がけているところでもあります。
それでも、肩書きは劇作家なんですね。
上田
演劇からはじめたことは一応運命的なことなんで、
「劇作家」と名乗ってます。
けど、高校時代は「任天堂に入りたいなあ」と思ってて、
それがたまたま、自分の人生は演劇に
向いているのかもしれないと気づいた感じでした。
任天堂に入りたかったんですか。
上田
ゲームばっかりやっていましたからね。
大阪・新世界を舞台にしたSF人情劇、
『来てけつかるべき新世界』が
岸田國士戯曲賞を受賞した2016年、
式典でハイバイの岩井秀人さんが、
「子どもの頃からゲームばっかりやってて、
それが戯曲を構造的に捉える目線につながっている」と
涙を交えながら語られていましたよね。
上田
泣いてくださいましたね。
どこで泣いているんだろう、と思いましたけど(笑)。
幼少期からゲーム漬けだったんですか?
上田
ゲームというか、
『スーパーマリオブラザーズ』ですね。
1年くらい『スーパーマリオブラザーズ』のことだけ
考えていた時期がありました。
1年も(笑)。
上田
自由帳に新しいステージの構想を
描いたりしてました。

へえ!
上田
僕、記憶力がいいんで、
全部のステージをそらで描けるくらい好きだったんです。
それで、高校の時にビデオデッキ2台使って、
自分でゲーム画面を編集して
「裏ワザ集」みたいなものをつくってました。
誰に見せるわけでもなく。
好きすぎて。
上田
好きすぎて。
自分しかこの世で見つけてない
裏ワザとか見つけてます。
やり込むってレベルを、
ちょっと越えてたんですかね。
上田
でも、なんであんなにハマっていたか考えると、
プログラムが美しかったというのは大きいです。
キャラクターの物理的な動きとか、アクションとか、
すべてがすごく美しくて。
とくに好きな動きはマリオのジャンプ。
現実的なな物理法則にはあてはまらないんですけど、
独創的な計算を加えてジャンプの技術が
開発されているんです。
あの動作っていうのは現実では実現不可でも、
アニメ的な感覚で、プレイすると気持ちがいい。
そういう法則がゲームの中で確立されていて、
すごいなあと思います。
現実ではあり得ないけれど、
プレイしていても違和感がないですもんね。
上田
そうなんですよ。
でも、それだけハマっていた時期を思うと、
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)の
日本語版台本の制作に参加されたのは、
かなりうれしかったですか。
上田
いやあー、うれしかったですね。
ぼくもうれしかったです。
上田さんの脚本なんだって。
上田
ありがとうございます。
どういうきっかけがあったんですか?
上田
2010年くらいに任天堂の宮本茂さんと
カンファレンスでお話しする機会があったんです。
宮本さんが『サマータイムマシン・ブルース』を
観てくださっていて、
しかも、京都でものづくりをしていることも
知ってくださっていたんです。
それで、面識もないのに声をかけてくださって。
そこが、初対面だったんですか。
上田
そうでした。
そのときお題があって、
DSのソフトの『うごくメモ帳』を題材に
作品をつくってきてください、と。
自分たちにとっては公開プレゼンみたいなもんで。
けっこうマジなやつですね(笑)。
上田
4つくらいアイデアを考えて、つくって、実装して、
カンファレンスに持っていったんです。
そのあとにお食事をさせてもらって、
いろいろお話を聞いて、
それは未だに自分の中で忘れられない夜です。

上田さんにとって、宮本茂さんは
欠かせない先輩ですか?
上田
そんな風に言うのもおこがましいですけど、そうですね。
初めてお会いした夜に薫陶を受けたんです。
京都でものづくりをすることについて、
京都という場所が重要というよりも、
メインストリームの流れから
すこし離れた場所につくる拠点を構えて、
発信していくことが大事なんじゃないかという話で。
はい。
上田
宮本さんがおっしゃったんです。
「つくったものが、もしうまくいったとき、
上昇気流にワッと乗るんだけれども、
上昇気流に乗った後はうまく降りて、
またゼロからつくることを繰り返さなきゃいけない。
その、降りる場所として京都はすごくいい」と。
めっちゃそうやな、と思ったんです。
上昇気流に乗って、一回降りて、
ゼロからつくる場所としての京都。
上田
やっぱり、1回いいものをつくると、
またつくってください、
っていう声をどんどんかけてもらえるんです。
そういう流れを、一旦断ち切るというか、
誰かに任すなり自分は当事者から降りて、
新たな「1」をつくることに集中しよう
っていうことだと僕は解釈しています。
集中できる場所として、
京都と東京の距離はちょうどいいんじゃないかと。
上田
それからは腹をくくるというか、
ものをつくる人間として、
そのやり方を真似させてもらおうと思いました。
ずっと京都で暮らして、ものをつくって、
東京をはじめ各地に持っていくわけですけど、
それが自分の中で強化されましたね。
迷われていたところがあったんですか?
上田
とくに、東京という部分ですね。
ドラマも映画も輝かしいものは東京から生まれていて、
そこに人も集まるし注目もあるので、
東京に対するコンプレックスみたいなものがありました。
ものづくりをするからには、
東京に住まなきゃいけないのかなって。
拠点を移す選択を。
上田
でも、京都でやっていても過不足なく、
自分のなかでは、つくることに関して
一番いい環境のような気もしていたんです。
アンビバレントな感じがあったんですけど、
宮本さんの言葉でわかった気がしました。
あと、アーティストってお祭りというか、
ちょっと世間から逸脱したような騒ぎのなかで
活動するイメージがありましたけど、そうじゃなくて、
「きわめて日常的な営みの繰り返しのなかで
ものをつくることが大事だ」
ということも宮本さんから教えてもらいました。

日常的な営みの繰り返しですか。
上田
月~金で働いて、夜は誰かと食事をして、
休みになったら仕事を休んで満喫するような。
サラリーマン的な働き方って、
一瞬クリエイティブな仕事には
向いていないんじゃないかと思っていました。
上田
僕もそう思っていました。
常軌を逸したほうがいいんじゃないかと(笑)。
そういう部分もあると思うんですけど、
それだけじゃないというか、
僕の働き方はそっちじゃないなって気づいて、
日常も大事にしようと思いました。
それまでの上田さんは、
日常を大事にするタイプではなかったんですか?
ルーティンを守ったりですとか。
上田
僕はわりと、劇的なんです。
劇的なんですか。
上田
徹夜してみたりとか(笑)。
(笑)。
上田
ちょっとたとえがあれでしたけど、
「どうやったら自分の限界が越えられるか」
みたいなことは、若いころからずっと考えていました。
たとえば、お酒を飲んで書いたら、
自分じゃないものが書けるのかとか。
でも、そうではなくて、
ふつうの意識のなかで自分がやれることを
積み上げていくんだと思いました。
意外な意見でしたか?
上田
でも、宮本さんという圧倒的なものを
つくられている方の言葉だったので、
それはもう説得力がありますよね。

(つづきます。)

2024-08-06-TUE

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  • ヨーロッパ企画 第43回公演
    来てけつかるべき新世界

    2016年に初演、
    第61回岸田國士戯曲賞を受賞した
    劇団を代表する作品のひとつが再演します。
    舞台は大阪・新世界。
    ドローンが出前をするなど
    続々やってくる最新ガジェットに
    戸惑う大阪のおっさんたちに、
    腹をかかえて大笑いした初演から8年。
    テクノロジーがうんと進化した現在、
    「ハイテクvs浪花のおっさん」という構図が
    どんな風に見えてくるのでしょうか。
    ぶつかりながら融合していく様に、
    ふしぎとあたたかい気持ちになる舞台です。
    2024年8月31日に滋賀・粟東芸術文化会館
    さきら中ホールで行われる
    プレビューを皮切りに、
    11月まで13都市で上演。
    くわしい情報はこちらをご確認ください。

    作・演出:上田誠

    音楽:キセル

    出演:石田剛太 / 酒井善史 / 角田貴志 / 諏訪雅 / 土佐和成 / 中川晴樹 / 永野宗典 / 藤谷理子金丸慎太郎 / 町田マリー / 岡田義徳 / 板尾創路