京都を拠点に活動する、
劇団ヨーロッパ企画主宰の上田誠さん。
映画化もされた『サマータイムマシン・ブルース』、
脚本に携わったアニメ『四畳半神話大系』、
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の
日本語版台本の制作に参加するなど、
舞台を軸にアニメやドラマ、映画、テレビなど
多岐にわたるジャンルで活躍されています。
過去作をすべて“先輩”としてとらえて、
新しいものを0から生み出す。
その創作のルーツを、
長年上田誠さんを追い続けてきた
ほぼ日乗組員の玉木が聞きました。

>上田誠さんプロフィール

上田誠(うえだ・まこと)

劇団ヨーロッパ企画主宰、劇作家。劇団のすべての本公演の脚本・演出を担当。2010年、構成と脚本で参加したテレビアニメ『四畳半神話大系』が第14回文化庁メディア芸術祭、アニメーション部門で大賞を受賞。2017年、『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。2024年、再演が予定されている。

前へ目次ページへ次へ

05 後輩の姿勢でありたい。

25年以上続けてこられるなかで、
危機的状況はありましたか?
上田
それは……常々ピンチですよ。

常々(笑)。
上田
僕たちくらいの規模の劇団だと
1つの公演の影響が大きいので、
諸事情で幕が開かないってなったら、
劇団がなくなっちゃうくらいのインパクトなんで。
そうなんですか。
上田
たとえば僕は脚本を書くのが遅いんで
「書けない」ってなったら、かなりまずい。
必死に別のやり方を考えて、
どうにか上演にこぎつけたこともありました。
トラブルとかもありましたか?
上田
トラブルもありますけど、
それより常に気がかりなのは動員ですね。
お客さんが今年は来てくれたけど
次の年は急に減って、再来年はさらに半分で、
とかって全然あり得るので、
同じメンバーでやっているかぎり、
どこかで緊張の糸が切れたらだめだと思います。
よく、有名な人を劇に入れて話題をつくる、
みたいなことをやる劇団もありますよね。
でも、ヨーロッパ企画ではあまりやっていない?
上田
劇団員と演劇をやりたくてやっているので、
本末転倒になりそうなんで、そこは忘れないように。
あたり前ですけど、有名な方って、
そもそも演技が上手で魅力的なんですよ。
はい。
上田
そういう方々に入ってもらおうとすると、
王道に寄っていくことにもなる。
でも、僕らは自分も含めて、
決して王道じゃないかもしれない人たちと
劇団をはじめちゃっているので、
そっちの道を進むのは危ういし、僕もあるんでね、
邪道癖みたいなのが。
(笑)。
上田
まあでも、正攻法で突破する経験を
してないだけかもしれないです。
僕が個人的に思っていることで、変な言い方ですが、
長年劇団をされてきてもヨーロッパ企画さんは
成長しきっちゃわない魅力がある気がします。
それぞれが、大人になっちゃわないというか。
上田
ああ、はい。
ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが、
岸田國士戯曲賞の『来てけつかるべき新世界』選評で
「新世界にAIとかいろんな技術が入ってくるんだけど、
おっちゃんたちの人間性がなんら変わらない。
そこが素晴らしい」と。
上田
書いてくれてましたね。
技術や環境、必然的に年齢を重ねても、
変わらない、成長しないっていうのが
上田さんの脚本自体にあるような気がしています。
上田
なるほど。でもなんか、未知なるものには
ちゃんと開放的であろうとはしていて……
さっき「過去の作品はすべて先輩だ」と話しましたけど、
すごい/すごくないという基準で
先輩を決めてるわけじゃなくて、
できるだけいろんなものを
「先輩」とみなすと凄さが汲み出されて、
自分のインプットの量が増えると思うんですよ。

敬うから、凄さが見えてくるような。
上田
「この先輩から得るものはなにもない」と思うよりも、
「先輩だからきっと自分にはないものがあるはずだ」
と思いながら付き合っている方が凄さが見えてくるし、
シンプルに得だと思います。
僕も常にそうあろうと思っていて。
経験年数的にいえば、後輩も増えていますよね?
上田
気づけば、後輩ばっかりですね。
なので今後は後輩を先輩として教えてもらう時期に
そろそろ差し掛かっています。
単純に、年齢や経験だけでいったら
上田さんのほうが先輩になってしまうけれど。
上田
はい。ただ、事実僕らは先輩で、
先輩的な立ち振舞いをしなきゃいけないので、
そこはしっかりやろうと思っています。
岸田國士戯曲賞の選考委員を依頼されまして、
今までなら「自分なんて」と避けてたんですけど、
そろそろ僕の番だろうと。
ただ、根っこは常に後輩のポジションである方が
つくり手としてはいいに決まっているんで、
姿勢は「後輩」でありたいです。
劇に登場するキャラクターも、
後輩としてかわいい感じの方が多いですよね。
上田
たしかにそうですね。
劇中で大きなことが起きると、
「えええっ!!」ってリアクションが大きい人ばかり。
後輩といえばリアクションが大事なんで。
斜に構えてる人や偉ぶっている人が
出てこないところも、好感が持てます。
上田
それは芸人さんから学んだことですけど、
やっぱり「乗っかる」っていうのは大事ですよね。
乗っかる。
上田
芸人さんは振られたら乗っかることを徹底されてるから、
そこから何か生まれやすいと思うんですよ。
それって、後輩的な謙虚さともつながることで。
僕たちも役に乗っかりきることは、
芸人さんの姿勢から学んだ部分です。
役の設定に、思いっきり乗っかるみたいなことですか。
上田
役の設定にも、物語にも乗っかってもらう。
ツッコミ役の人でも、変な状況に対して
最初は「無理でしょ」って言いながら
終盤ではすっかりそれに乗っかってるみたいな。

あははは。
上田
なので、乗っかることが、
役者としての好ましい姿勢な気がしますね。
この「先輩」の話で終わったら絶対綺麗なんですけど、
もうひとつだけ聞いてもいいですか?
上田
どうぞ、どうぞ。
たしかに僕も今、締めようという意識が(笑)。
上田さんは、照れや恥ずかしさと、
どう付き合っていらっしゃるんですか?
乗っかるって、結構恥ずかしいことだと思っていて。
上田
それはまさに、糸井さんが『今日のダーリン』で
書かれていましたけど、
「恥ずかしがるのは大事だけれど、
恥ずかしがり続けるのは
ずっとおごられ続けている後輩のようで
あんまりよくない」というようなことをおっしゃってて。
それ以上の言葉はないなと思っています。
ああ、なるほど。
上田
あの、先輩の話でいうと、
芸人のバッファロー吾郎Aさんが
僕の大切な先輩なんですけど、
かつては斜に構えたような立ち振舞を
されていたそうなんですよ。
でも、後輩ができてから「後輩が弾けるためには、
自分がフタになっちゃいけないと気づいて、
わざとぐらい一番おどけるようにした」と。
先輩だけど一番おどける。
上田
それはそうだなと思いました。
ほんとうは後輩のほうが得ですからね。
ごちそうしてもらえるし、大目に見てもらえるんで。
でも、順番が来たと思って、
先輩の役割をやりながら
後輩の姿勢を持ち続けていたいですね。

(おわります。)

2024-08-10-SAT

前へ目次ページへ次へ
  • ヨーロッパ企画 第43回公演
    来てけつかるべき新世界

    2016年に初演、
    第61回岸田國士戯曲賞を受賞した
    劇団を代表する作品のひとつが再演します。
    舞台は大阪・新世界。
    ドローンが出前をするなど
    続々やってくる最新ガジェットに
    戸惑う大阪のおっさんたちに、
    腹をかかえて大笑いした初演から8年。
    テクノロジーがうんと進化した現在、
    「ハイテクvs浪花のおっさん」という構図が
    どんな風に見えてくるのでしょうか。
    ぶつかりながら融合していく様に、
    ふしぎとあたたかい気持ちになる舞台です。
    2024年8月31日に滋賀・粟東芸術文化会館
    さきら中ホールで行われる
    プレビューを皮切りに、
    11月まで13都市で上演。
    くわしい情報はこちらをご確認ください。

    作・演出:上田誠

    音楽:キセル

    出演:石田剛太 / 酒井善史 / 角田貴志 / 諏訪雅 / 土佐和成 / 中川晴樹 / 永野宗典 / 藤谷理子金丸慎太郎 / 町田マリー / 岡田義徳 / 板尾創路