京都を拠点に活動する、
劇団ヨーロッパ企画主宰の上田誠さん。
映画化もされた『サマータイムマシン・ブルース』、
脚本に携わったアニメ『四畳半神話大系』、
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の
日本語版台本の制作に参加するなど、
舞台を軸にアニメやドラマ、映画、テレビなど
多岐にわたるジャンルで活躍されています。
過去作をすべて“先輩”としてとらえて、
新しいものを0から生み出す。
その創作のルーツを、
長年上田誠さんを追い続けてきた
ほぼ日乗組員の玉木が聞きました。
上田誠(うえだ・まこと)
劇団ヨーロッパ企画主宰、劇作家。劇団のすべての本公演の脚本・演出を担当。2010年、構成と脚本で参加したテレビアニメ『四畳半神話大系』が第14回文化庁メディア芸術祭、アニメーション部門で大賞を受賞。2017年、『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。2024年、再演が予定されている。
- ─
- 以前、お話を聞かせてもらったときに、
「過去作を“先輩”としてとらえている」
とおっしゃっていたことが印象的で、
もう少しくわしく伺ってもいいですか?
- 上田
- あの、どうしてもキャリアが長くなると、
過去作を踏まえてさらに上の作品を目指そうと
考えはじめてしまうんです。
そうすると、立ち眩みがしてくる。
ヨーロッパ企画だと次は43回公演なので、
過去作が42作品もあるので。
- ─
- 42作品と比べるのはたしかに大変‥‥。
- 上田
- なので、過去の42作品は、
自分じゃない別の人がつくったことにするんです。
「先輩、こんなものつくられたんですね、すごいっす」
と勝手に他人事にして、
自分は0から劇団を立ち上げる
くらいの気持ちでつくったほうが気が楽なんです。
- ─
- 過去作を先輩がつくったことにするんですね。
- 上田
- そう思っていると、
過去作を越えようという縛りから解き放たれて、
むしろ、そうした先輩たちの作品を前に後輩として、
どんな新たな一手を打とうか、と考えられる。
それに、過去作でいいなと思うことがあれば、
「すみません先輩、この技使っていいですか?」って
真似しやすいんです。だって、結局自分なんで。
- ─
- 他人だと躊躇しちゃいますけど、自分が先輩だから。
- 上田
- ややこしいですけど(笑)。
- ─
- 今回、『来てけつかるべき新世界』は再演ですが、
そういう時も同じ気持ちですか?
- 上田
- 再演も、初演を越えなきゃいけない、
みたいな呪いがあるんですよ。
でも、「先輩はすごかった」と距離をおいて
新しく取り組むほうがいいものになる気がします。
言ってしまえば劇団の初期作品は、
自分たちや観客の青春と密に関わっているので
なかなか越えられるものではないんですよね。
- ─
- 思い出補正があるでしょうしね。
- 上田
- 『サマータイムマシン・ブルース』を
同世代で観てくださった人なんかは、
自分の青春と重ねてるところもあるんで、
その思い出と戦うのはきびしいなと思います。 - 自分と他人の青春が重なりながら、
“青春のモニュメント”みたいなものがつくれる時期が
あるんだろうなって思いますし、
劇団としてひとつできていればそれでいいですよね。
だから、それはそれでいいから、どうすんだって
ところが大事な気がしていて。
- ─
- 今年なにを自分は書くんや、という。
- 上田
- まさにそんな気持ちです。
- ─
- 出し先がいろいろあると、
やりやすいところもありますか?
- 上田
- 広がるような気がします。
演劇だけを掘り下げていくことも
性格的にできると思うんですけど、
ちょっと斜め飛びをするところが自分にはあって。
演劇をやって、映像をやって、あるときアニメをやって、
そうやって違うジャンルをやってみることで、
まっすぐ歩いたらぶつかる壁をひょいっと
かわせている感じがあります。
- ─
- ゲームじゃないけれど、別のフィールドに行って、
演劇の世界に戻ったらちょっと成長してるみたいな。
- 上田
- そうそう、そんな感じですね。
コロナ禍はまさにそれを感じました。
うちの劇団には映像チームがあるんですけど、
劇ができなかったんで、
その期間は映像のことを深堀りして過ごしたら、
チームとしてまた違った感じになってきました。
- ─
- 物語の設定はどうやって決めているんですか?
- 上田
- 僕たち、最初は劇場が大きくなかったんです。
でも、小さな箱だとふだんの延長みたいな距離感なんで、
飾るほど嘘がバレてしまうところがあって。
だから、等身大な設定でやることが多かったです。
でも、あるとき、
「中サイズの劇場でやれる劇団に転身しよう」と
決めたときがあって。
- ─
- 劇場のサイズを決めたんですか。
- 上田
- 「ごっこがしたい」みたいな気持ちって、
演劇をやっている人は
プリミティブにあると思うんです。
そこをやりたくても、
あんまり小さい劇場だと物語のケレン味と合わない。
たとえばシェイクスピア的な時代を演じようとすると
小劇場では化けきるのが難しいところがあって、
でも劇場が大きいと嘘が恥ずかしくないんだと
わかったんです。
- ─
- 劇場が大きくなるほど、
日常と切り離されて観られるんですかね。
- 上田
- そうだと思います。
僕たちは演劇やSFが好きでやり始めたから、
化けられるほうが楽しいんです。
だから、中サイズの劇場でやれるようになろう、と。
できるようになってきたら歯止めが効かず、
映像化なんてそっちのけで、
ヤクザものやって、貴族やって、次は宇宙人。
- ─
- 好き勝手に化けてますね(笑)。
- 上田
- 「次はロンドンが舞台です」とか、
厚かましく言ったりして。
- ─
- ヨーロッパ企画さんの舞台を観ていると、
「文体」がおもしろいなと感じることが多くて、
物語の設定と言葉遣いの掛け算が巧みだなあと思って。
- 上田
- それぞれの世界にそれぞれの言葉遣いがあって、
言葉で人は行動まで決まっちゃうところがありますよね。
おばちゃんっぽい言葉遣いだと、
おばちゃんっぽい生き方になったり。
- ─
- 上田さんはひとつの集団の特徴を、
笑っちゃうぐらい突き詰めていますよね。
- 上田
- そういうのが好きなんです。
それで、集団性の下敷きがあった上で
異化効果を見つけるというか、
たとえばチンピラなのに時間要素が急に加わると、
「バカヤロー、これパラドックスどうなってるんだ、
コノヤロー」とか、ちょっと変じゃないですか。
- ─
- チンピラなのにSFにくわしい。
- 上田
- 意外とその素養があったんや、っていう。
- ─
- たしかにそうですね(笑)。
- 上田
- 『来てけつかるべき新世界』も、
大阪のおっちゃんたちがテクノロジーに出会う話で、
「あのドローンは、自分のこと、
ただの座標上の点やと思っとるわ」みたいな、
テクノロジー用語と関西弁のぶつかり合いがあるんです。
それはまさに異化効果で、
その摩擦で生まれる笑いが好きですね。
- ─
- 初演で、めちゃくちゃ笑いました。
- 上田
- 簡単に類型化してはいけないと思うんですけど、
ジャンルを決めて、そこからちょっとずらしていくと、
おもしろいものが見つかるなと思います。
- ─
- 脚本で、なんでこんな制約を書いてしまったんだろう、
みたいなことはありますか?
- 上田
- でも、自分がそもそも
「世の中にないものをつくりたい」
「世の中にあるものをつくってもしょうがない」
という思いでやっているので、
骨格から違うことをしたいんです。
『ロベルトの操縦』というお芝居で、
舞台上にある巨大な乗り物に乗ると背景が動いて、
ずっと移動しているような劇をつくりました。
でも、「移動」を表現するのって大きな制約なんです。
大きな乗り物も邪魔だし、
演劇はある場所に物語や感情が溜まっていく表現なんで
移動が必ずしも見ごたえにつながらない。
でも、演劇にあった制約から抜けた物語をつくりたくて、
移動劇というシステムを開発したら、
今までになかったストーリーが書けた気がします。
- ─
- 新しいことをやる、が優先的にあるんですね。
- 上田
- それが第一優先ですね。
でも、それとエンターテイメントが
必ずしも一致しないのが難しいところです。
- ─
- 新しいことが求められていないってことですか?
- 上田
- 新しいことって受け入れるのが大変じゃないですか。
自分が知ってる設定や仕組みのほうが笑いやすいですし。
幸い、ヨーロッパ企画が好きなお客さんは
知的体力があるというか、
新しいことを一緒に楽しんでくれる。
だから、お客さんに支えられないと続けられないって、
ほんまに思います。
(つづきます。)
2024-08-09-FRI
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ヨーロッパ企画 第43回公演
『来てけつかるべき新世界』2016年に初演、
第61回岸田國士戯曲賞を受賞した
劇団を代表する作品のひとつが再演します。
舞台は大阪・新世界。
ドローンが出前をするなど
続々やってくる最新ガジェットに
戸惑う大阪のおっさんたちに、
腹をかかえて大笑いした初演から8年。
テクノロジーがうんと進化した現在、
「ハイテクvs浪花のおっさん」という構図が
どんな風に見えてくるのでしょうか。
ぶつかりながら融合していく様に、
ふしぎとあたたかい気持ちになる舞台です。
2024年8月31日に滋賀・粟東芸術文化会館
さきら中ホールで行われる
プレビューを皮切りに、
11月まで13都市で上演。
くわしい情報はこちらをご確認ください。作・演出:上田誠
音楽:キセル
出演:石田剛太 / 酒井善史 / 角田貴志 / 諏訪雅 / 土佐和成 / 中川晴樹 / 永野宗典 / 藤谷理子 / 金丸慎太郎 / 町田マリー / 岡田義徳 / 板尾創路