梅津恭子(うめづ きょうこ)さんは
ぬいぐるみ作家です。
11月1日からのTOBICHIでの作品展
「ぬいぐるみたちの里帰り」には
20年以上つくりつづけてきた
いろいろな動物たちが集まります。
その開幕を前にして、
かねてよりファンを公言してきた糸井重里が
こつこつと集めてきたぬいぐるみたちをならべて
梅津さんをお迎えしました。
ふたりが話したのは
テディベアからの出発、
さまざまな人との出会い、
変わらない思いと
好きをつづけるということ。
そして、梅津さんが表現するのは
動物の「マジ」‥‥?
全5回でお届けします。
どうぞお読みください。
梅津恭子(うめづ きょうこ)
ぬいぐるみ作家。屋号は「Plum’s(プラムズ)」。
1996年に代官山のカドリーラボにて
テディベア作りを学んだのをきっかけに
ぬいぐるみの制作をはじめる。
2010年、青山のビリケンギャラリーにて初個展。
その後もぬいぐるみをつくりつづけ
個展やグループ展への参加をかさねている。
2019年11月、TOBICHIで「ぬいぐるみたちの里帰り」を開催。
http://plumskumakuma.seesaa.net/
twitter:@umeumezoozoo
instagram:@umeumezoozoo
- 糸井
- 今でこそファンも多い梅津さんですが、
数年前の展示会では
なかなか衝撃的なこともあったと。
- 梅津
- はい。
2012年ですから、
糸井さんが来てくれた個展から
4年ほど前のことです。
ぬいぐるみ作家さんの
グループ展に参加したんです。
- 糸井
- ええ。
- 梅津
- お客さんでギュウギュウの盛況でした。
人気作家さんが集まっていたので
抽選販売ということになって、
それぞれにひとつずつ抽選箱を用意したんです。
欲しい作品があったら、
その箱に名前を書いて用紙を入れる。
さあ、時間が来ました。抽選を始めましょう。
私の箱を覗いたら‥‥。
- 糸井
- うん。
- 梅津
- ゼロだったんですよ。
- 糸井
- おお! ドキーっとするね。
- 梅津
- 0票だったんです。
もう、ショックを受けるとかを通り越して、
感心しちゃって。
「こんなに人で埋まっているのに、
私の作品を欲しい人、ひとりもいないんだ!」
もう、すっごいもう、笑っちゃうくらい。
- 糸井
- 俺だったら笑うな。
- 梅津
- 笑うしかなかった。
もう率先して「次、○番の方~!」みたいな感じで
スタッフに徹するしかなくて。
呆然としながら。
- 糸井
- はあー。
- 梅津
- 会期中に売れたのは1体。
たまたま「もし決まってなかったら欲しいです」
という方がいらして。
- 糸井
- よかった。
- 梅津
- でも初日は、
「1票も入らなかった‥‥」
といういう気持ちがずっとあって。
オープニングパーティーも
その衝撃を持ったまま出てました。
- 糸井
- キツイですよね。
- 梅津
- ひっくり返りました。
「もうわたし、好きにさせてもらおう」
と思いました。
そこから、いろいろ変わっていった気がします。
それが7年前。
- 糸井
- 昔じゃないよね。
はー、それは転換点になるわ。
- 梅津
- そこで目が覚めたのかもしれないです。
カッコつけてる場合じゃない、
「いったんナシにしよう」と思ったんですよ。
でも、そうしたらその直後から、
いろんなことがつながって‥‥。
ナシにできずに今に至っている感じです(笑)。
- 糸井
- 票はゼロでも、風は吹いていたんだね。
- 梅津
- そうかなあ、そうだとうれしいんですけど。
いまとなっては、
あの0票は良かったなと思います。
- 糸井
- 「もうつくるのやめよう」じゃなかったし。
- 梅津
- それは、ぜんぜんなかったです。
周りのことを気にしなくなりました。
自分の「好き」を突き詰めるしかない、みたいな。
- 糸井
- 「好きにやります!」になった。
- 梅津
- 「もう、やらせてもらいますんで!」って(笑)。
- 糸井
- その後、最初につくったもの、覚えてる?
- 梅津
- なんだったかなあ。覚えてないです。
- 糸井
- 同じようなものじゃないんだろうね、きっと。
そういうときって。
- 梅津
- そもそも、私のこのぬいぐるみ熱は
テディベアの教室から始まっているんですが、
その初日の興奮がすごかった。
先生に「教室に入って良かったです!」って。
30歳ぐらいのわたしが(笑)。
- 糸井
- ありますよ、そういうこと。
- 梅津
- 2、3時間の教室が10分ぐらいに感じて。
帰りの電車に乗った途端に腰砕けになって、
一気に腰痛がきました。
後にも先にも
あんなに夢中になった1日はないです。
- 糸井
- そうやって梅津さんがぬいぐるみを始めたときって
他の仕事はしてたんですか?
- 梅津
- 経理の事務をしていました。
書店の本部の事務だったので
そのころからなんとなく
ぬいぐるみの洋書を見たり、
テディベアのカレンダーを買ったり。
- 糸井
- ああ、働きながら。
- 梅津
- 初の海外旅行でイギリスに行って、
おもちゃ博物館みたいなところで
古いテディベアを見たんです。
そのときに
「わたし、こんなことしてる場合じゃない!」
と思いまして。
- 糸井
- おお。
- 梅津
- そこから決心して、会社を辞めて
テディベア教室に通いはじめました。
アルバイトしながらですね。
税理士事務所とか、スポーツクラブの本部とか、
いろいろ渡り歩きました。
- 糸井
- そうなんだ。
- 梅津
- 今も求人広告は毎週見ていますし、
いまだに朝ちゃんと早く起きているのは
派遣社員でもアルバイトでも
いつでも復帰できるように、です。
- 糸井
- こういうことで一本立ちするっていうのは、
やっぱり大変なことですよね。
でも、なんなんでしょう、
そこまでの「つくりたい情熱」というかね。
- 梅津
- ほんとですね。
でもテディベア教室での
あの日があって今に続く感じなので、
その「好き」はずっと変わっていないと思います。
0票でも、変わらない。
‥‥まあ、最近はだんだん年をとって
集中力が続かなくなってきましたが。
- 糸井
- なに言ってるの、ぜんぜん早いでしょう!
それはちょっとね、生意気だよ?(笑)
- 梅津
- ははは!
- 糸井
- ぼくは身をもって知ってますからね。
この先、もっと続かなくなるんだから。
いまそんなこと言っちゃあ、だめ(笑)。
- 梅津
- はい(笑)。
(つづきます)
2019-11-02-SAT