おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

>燃え殻さん プロフィール

燃え殻(もえがら)

小説家・エッセイスト。小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で鮮烈デビュー。最新のエッセイ集『明けないで夜』(マガジンハウス)も最高です。

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第3回 VOWにかえろう。

燃え殻
いま、ヘンな看板の写真をつぶやく
BOTアカウントとかありますけど、
ああいうのだって、
源流をたどればVOWなわけですよね。
──
ネットでたまに引用される、
こちらの「おちんこでる」の作品なども
「初出」は『VOW11』のはずです。

『ベスト オブ VOW』より 『ベスト オブ VOW』より

燃え殻
ただ、あまたあるネタのアカウントでは、
コメントはあまり付いてないんですよね。
看板の写真だけがアップされていく感じで。
──
その点、VOWの場合は、
投稿人のコメントに
総本部長がコメントで返すという様式が
初期から確立されていました。
まず投稿人がコメントでボケるケースも
けっこう多いじゃないですか。
それに対して、歴代の総本部長が
ツッコんだりボケ返したりするんですが、
そのやりとりもまた、美しくて。
燃え殻
美しいって(笑)。
この「セコム」っていうのも好きだなあ。

『VOW 30周年スペシャル』より 『VOW 30周年スペシャル』より

──
ネタのおもしろさもさることながら、
大きく「頼りになります」と書いてある。
この気の利いた見出しも、
2代目総本部長・古矢徹さんの仕事です。
燃え殻
いいですよね。
──
あるいは、こちら『VOW7』所収の
「ウルトラの父ずせ」
に対する総本部のコメントが天才でして。
燃え殻
ずせ?

『VOW 30周年スペシャル』より 『VOW 30周年スペシャル』より

──
まあ、何だかよくわからない、
どう見たって「ウルトラマン」じゃない、
海外製の何かなんでしょうけど、
日本語もお約束のようにまちがっていて、
ウルトラマンタロウが
ウルトラマンタボロウになってたり。
燃え殻
ははは。
──
ウルトラセブンが、
ウルトラヤブンになっちゃってるんです。
で、それに対する総本部長のコメントが
「ウルトラヤブン恐れ入ります」なんです。
燃え殻
キレとコクがある。天才です。
──
一生勝てないんですよ。
燃え殻
コール&レスポンスが成立してますよね。
読者と総本部長が交流してる。
そういう意味で、VOWには
深夜ラジオみたいな雰囲気を感じますね。
──
あー、たしかに。
燃え殻
リスナーからのおたよりを前に、
ゲラゲラクスクス、
「ステッカーあげます」みたいな、あの空気。
ここでのやりとりが
何の役にも立たなくたっていいっていう、
心の余裕を感じます。
──
ある意味で「放りっぱなし」ですものね。
VOWも、深夜ラジオも。
何かの役に立たなきゃダメだって気概が、
まずない。
燃え殻
ないない、まったくない。
あと、いまってタイパとか言われるけど、
VOWには、
じっくり読まないとわかんないネタって
けっこうあるでしょ。
VOWを倍速で視聴しても、
ぜんぜんおもしろくないと思うんですよ。
──
おっしゃるとおりです。
燃え殻
いい意味で紙のスピード感なんですよね。
このSNS全盛の時代に。
いまはとにかく、
何かができたらすぐアップしなきゃって
社会全体が思いすぎてる気がします。
そういう強迫観念に囚われてる。
VOWもネットでやってるとは思うけど、
それでも「紙っぽい」というか、
ザラザラした手触りが残ってますもん。
──
ああ、なるほど。「ネットなのに紙」感。
燃え殻
ほぼ日にもありますよね、その感じ。
インターネットの黎明期に
新しいメディアとしてスタートしたけど、
社会がどんどんスピードアップしいく中、
いまも「当時の速度」ですもんね。
──
はい。いまだに「ホームページ」ですし、
毎日午前11時にならないと、
その日のコンテンツが更新されません。
ネットって
いつでもボンボンとアップできますけど、
ぼくらは1日1回、
11時に更新したら「次は明日」です。
燃え殻
1日1回って、はじまったころは
すごいスピード感だったんでしょうけど。
でも、いまは「紙の手ざわり」のあるほうが
いいと思います。
だって、もう、みんなホトホト疲れましたよ。
──
VOW的視点からする文明批評、
ぜひ聞かせてください。
燃え殻
いまって無理やりジェットコースターに
乗っけられてるようなもんですからね。
だから、X見てても売り言葉に買い言葉、
不毛すぎるケンカがすぐ勃発する。
頭で考えてないから
口が反射的に動いて、
すぐに「死ね」とかって言っちゃって。
──
たしかに
「えっちなきゅうりが生えてきそうです」
は、反射的には出てきませんよね。
燃え殻
そうでしょ。投稿する方も載っける方も
1回ちゃんと考えてるんですよ。
置いてるんです。
だから「VOWにかえろう」ですよ。
──
うまれた! 時代のキャッチコピー!
燃え殻
いま、みんなすぐ「緊急で動画回してます」
っていうじゃないですか。
──
言いますね。
燃え殻
とにかく言うでしょ。何かあったら言う。
「緊急で動画回してます!」って。
──
そんな世の中にPOISON。いや、VOW。
燃え殻
です。「VOWにかえろう」です。
VOWは絶対に緊急で回さないでしょ。
たぶん、ほぼ日も。
──
緊急で回したことはないです。
燃え殻
この間も、とあるサイトの
自分の過去のインタビューを読もうと思ったら、
もう削除されてたんです。
でも、VOWは、あの剣道部の部室に、
まだあると思うんですよ。
あのときの、俺たちのVOWは。
──
歴代の剣道部員の間で読みつがれて、
古文書みたいになって。
燃え殻
時代をうかつに超える名作、VOW。
ああ‥‥これもいいなあ。
──
「介護スタッフ募集! 長渕ファン求む!!」
燃え殻
時代を超えると思います。たぶん。

『VOW 30周年スペシャル』より 『VOW 30周年スペシャル』より

(つづきます)

2025-01-12-SUN

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