キャンプのプロジェクトをはじめるまえに、
きちんと考えておきたいこと。
手間もかかって、準備も後片付けもたいへんで、
危険な目にあう可能性もあるのに、
「どうしてキャンプをするんだろう？」
今回、問いかけてみたのは、
株式会社ゼインアーツ代表取締役社長、
キャンプギアクリエイターの小杉敬さんです。
小杉さんは、30年ちかくにわたって
大手アウトドアメーカーで開発に携わったのち独立。
現在は長野県松本市を拠点に
テントやタープなどのギアをつくっています。
ご自身も登山やキャンプを趣味にしている小杉さんは、
人が自然のなかへ向かう理由を、
「人間の本能」に関係があるのではないかと
語ってくださいました。
やっぱり「Why Camp?」っておもしろいテーマです。
小杉敬（こすぎ・けい）
1972年新潟県生まれ。
1993年、大手アウトドア用品メーカーに就職、
数々のキャンプ道具の開発を手がける。
2018年に独立、長野県松本市を拠点に
株式会社ゼインアーツを設立した。
機能と藝術の融合をコンセプトに掲げ、
手がけたアウトドア用品は予約時点で完売、
グッドデザイン賞ベスト100にも選出されるなど
人気を博している。
- ──
- サンダルで山に登ったときも、
八ヶ岳で神々しい風景を見たときも、
小杉さんは自然のなかで
心を動かされることによって、
自分が進む道が決まっていて、
なんだかふたつの経験が
地続きになっているように思いました。
- 小杉
- ああ、たしかにそうですね。
サンダル登山の原体験は、
今日までつながっていると思います。
- ──
- キャンプメーカーに入社してからは
ずっと自然と向き合って
仕事をされてきたと思うのですが、
長く続けるなかで気持ちが
離れることはなかったですか？
- 小杉
- 仕事としてキャンプや釣りに関わるのは
ただただ、たのしかったですし、
アウトドア製品を開発するうえで
学ばなきゃいけないことがたくさんあったので、
あっという間の20数年間でした。
- ──
- 充実した日々を過ごしていたのですね。
そんななかで、独立しようと思ったのは
なぜでしょうか？
- 小杉
- 大きい会社にいると、
どうしてもビジネスを優先させて
物事が進むことが多いじゃないですか。
それがちょっと性に合わない部分はありました。
ぼくは、大好きなアウトドアの世界に奉仕して、
その報酬としてお金がもらえたらいいな、
というくらいに思っていて。
そのスタンスで仕事をするために、
自分で会社をつくる必要があったんです。
もちろん、経営者として数字も大切にしますが、
それが一番の目的ではない。
自分たちの仕事を低く見るわけではないですが、
アウトドアにおいて、私たちがつくるギアは
あくまでサポートだと思うんです。
自然のなかで生き抜くスキルが
高くなればなるほど、極端にいえば、
物なんて持たなくてよくなっていく。
この事業をするうえで、
そこは忘れちゃいけないと思っています。
- ──
- 小杉さんたちがとても思いをこめて
ものづくりをしていることは、
たくさんの人が知っていると思いますが、
それでも「なくてもいい」というくらいの
気持ちを大事にしてらっしゃるんですね。
- 小杉
- どんな人にとっても最高な
アウトドアギアなんてないですからね。
その人が高いスキルを持っていれば、
ゼインアーツのテントを買わなくたって、
簡易でシンプルなものでも十分なわけです。
そういう人には、
「いや、うちの製品を使わなくても
大丈夫なんじゃないですか？」と、
ちゃんと言えるようにしたいと思っていて。
逆に、コロナ禍のときに自然を求めて
キャンプをはじめたような人に対しては、
私たちの道具でサポートしてあげることが
ゼインアーツの使命のひとつだと思っています。
- ──
- 先ほども「自然の入り口にお誘いしたい」
とおっしゃっていましたけど、
初心者の人が使いやすいギアをつくるというのは
今後も小杉さんのテーマとしてあるのでしょうか。
- 小杉
- そうですね。
ただ、「初心者専用」みたいなものは
つくりたくなくて。
せっかく買ってくださったのに、
短い期間しか使えないのは
もったいないじゃないですか。
スキルが上がっても、長いあいだ
使っていただけるものにしたいんです。
そういう意味でも、幅広い層に
長くつかっていただきたいとは思うんですが、
ぜんぶを取りにはいかない。
そのあたりのバランス感覚はなくさず、
ギアとの付き合い方をしっかりと
提示できたらいいと思っています。
- ──
- ありがとうございます。
最後に、小杉さんとゼインアーツの
これからについて、
新しいビジョンがあればお聞きしたいです。
- 小杉
- 最近は、松本市や長野県の役所のかたと
「この町をどうしていくか」みたいな話を
話し合ったりする機会が増えてきてるんです。
この上高地エリアの自然を求めて
訪れてくださる人たちをいかに増やしていくか。
それも広い意味でのアウトドア事業だと思っていて。
ぼくは、松本の自然って
世界に誇れるものだと思っているんですよ。
だから、もっとたくさんの人に知ってほしいし、
足を運んでほしい。
そのために、キャンプ場や登山道の整備をして、
自然を保全しながら利便性を高めていくことを
いま考えている最中なんです。
（「Why Camp?」を次の人に問いかけてみます）
2023-07-09-SUN
