青年誌で『往生際の意味を知れ!』という
漫画を連載している米代恭さんが、
作品を描くにあたって、原一男監督に
聞きたいことがあるんです‥‥というので、
おつなぎしたんです。
で、おつなぎした行きがかり上、
わたくし「ほぼ日」奥野も、
その場に同席させていただきました。
そしたら米代さん、
なんと3時間半以上質問し続けたんですよ。
対する原監督も、
米代さん以上の熱量で、答え続けたのです。
後日、米代さんに聞いてみました。
原監督から何を受け取って、何を感じ、
どんなヒントをゲットしましたか‥‥と。
全5回の連載として、おとどけします。

>米代恭さんのプロフィール

米代恭(よねしろきょう)

漫画家。 『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『往生際の意味を知れ!』を連載中。他にも『あげくの果てのカノン』(小学館) 『僕は犬』 (秋田書店)『おとこのことおんなのこ』(太田出版)など。『往生際の意味を知れ!』は、制作にあたり原一男監督の初期作『極私的エロス 恋歌1974』からインスピレーション受けている。

>原一男さんのプロフィール

原一男(はらかずお)

1945 年6月、山口県宇部市生まれ。1972 年、小林佐智子と共に疾走プロダクションを設立。同年、『さようならCP』でデビュー。74年には『極私的エロス・恋歌 1974』を発表。87年の『ゆきゆきて、神軍』が大ヒットを記録、世界的に高い評価を得る。94年に『全身小説家』、05 年には初の劇映画となる 『またの日の知華』を監督。2017年に『ニッポン国VS泉南石綿村』を発表。2019年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にて、全作品が特集上映された。同年、風狂映画舎を設立し、『れいわ一揆』を発表。2020年、『水俣曼荼羅』を完成させた。

◎『水俣曼荼羅』
イヤホン音声ガイド・バリアフリー日本語字幕付き上映
日時:12月7日(水)14日(水)21日(水)28日(水)
場所:
CINEMA Chupki TABATA シネマ・チュプキ・タバタ
(東京都北区東田端2-8-4)
https://chupki.jpn.org
※トークショーの予定あり
※1日2回の興行、28日のみ追加でオールナイト上映もあり

◎『ゆきゆきて、神軍』の原一男監督による
最新にして最高傑作
『水俣曼荼羅』初回限定版DVD-BOX 2/3(金)発売決定!

『水俣曼荼羅』商品情報
【発売日】
2023年2月3日(金)
【価格】
初回限定版DVD-BOX 10,780円(税込)
【映像特典】
原一男監督が泣く泣く本編から割愛した
本邦初公開の貴重な
未公開シーンを収録(本編:372分+未公開シーン:90分)
【音声特典】
原一男監督によるオーディオコメンタリーを全編
(本編+未公開シーン)に収録
【封入特典】
『水俣曼荼羅』全国上映の1年 記・原一男、
登場人物紹介、水俣病年譜など作品鑑賞のガイドとなる
特別編集カラー24Pブックレット
※商品の仕様は変更となる可能性がございます
発売元:株式会社キネマ旬報社
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)疾走プロダクション

◎原一男の大忘年会
12月10日(土)18時から、阿佐ヶ谷ロフトAにて

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第2回 コミュニケーションって何だ。

──
そもそもなんですが、今回、
原監督にインタビューしようと思ったのは
ざっくり言って
どういうことを聞きたかったんですか。
米代
コミュニケーションの方法、です。
──
ん、つまり‥‥。
米代
原さんみたいに、
すごいドキュメンタリー監督の人とかって、
コミュニケーションを通じて、
どうやって、
相手の本質的な部分を引き出すのかなあと。
日常のコミュニケーションもそうですけど、
カメラがあると、
そこに「暴力性」が増すような気がしてて。
つまり、
撮った映像がどう使われるかもわからない、
きれいに撮られるか、
きたなく撮られるかもわからない、
撮られたものが公開されたら、
自分が、傷ついてしまうかもしれない‥‥。
──
ええ。
米代
そういう状況で、原さんはどうやって、
目の前の人から、
聞きたいことを聞き出してるのかなと。

『極私的エロス・恋歌1974』より ©疾走プロダクション 『極私的エロス・恋歌1974』より ©疾走プロダクション

──
被写体との間の信頼関係が、
きちんと構築されているっていうのは、
たしかでしょうけど‥‥。
そこまでの信頼関係を、
どう構築しているかってことですかね。
米代
単純に、時間をかければいいものでも
ないような気がするんです。
内輪の飲み会なんかともちがうわけで、
だって、いずれは公開されるわけで、
どんなふうに解釈されるか
まったくわからないのに、
話してもいいって思える状態って‥‥。
──
たしかに。
米代
そのことを原さんに聞いたら、
みんな話したいと思ってるんですって、
一貫した答えだったんですよ。
──
以前、ぼくがインタビューしたときも
人によって強弱はあれど、
人は自分の人生をわかってもらいたい、
そういう本能を持ってるものです、と。
そう、おっしゃってました。
経験からくる確信かなと思うんですが。
米代
原さんが聞きたいと思っていることと
取材対象者が言いたくないことが
ぶつかった場合とか、どうしてるのか。
なので、そのあたりのことを聞いても、
原さんの答えは
みんな、話してくれるんですよ‥‥で。
──
そうですね(笑)。
米代
インタビューの天才の話だった(笑)。
──
まあ、原さんでも
初対面では、難しいんでしょうけどね。
米代
そうなんですかね。
──
その質問、ぼくもしたことがあります。
信頼関係を築き上げるには、
やっぱり時間がかかるものなんだけど、
でも、
取材のときの一度しか会ってないのに
本質的なことを話してくれた人も、
過去に、
何人かいたっておっしゃっていたなあ。
米代
へぇ!
──
ひとりは石綿の映画に出てくる女性で、
たしか韓国籍の‥‥。
米代
あ‥‥あの、字が書けなかった人。
──
そう、ずっと苦労してはたらいてきて、
大人になって、
お子さんを育て上げたあとから
夜間中学で文字を覚えて、
自分の名前を書けるようになって‥‥。
原監督のカメラの前で、
「勉強って、いいね」って、言った人。
米代
あの人「一度きり」なんですか。
──
そうおっしゃってました。
それも、ほんの数分のインタビューで。
つまり、そんな短い間にも、
大切なことを話してくれる人はいると。
米代
すごいな‥‥。
──
なかには、そういう人もいるけれども、
でもやっぱり、基本的には
「どうしても時間がかかります」って。
その積み重ねがあって、
「みんな話したいんです」って場所に
たどり着けるんだろうな‥‥と。
米代
地雷を踏んだこととか、ないのかなあ。
相手を怒らせちゃって、
インタビューどころじゃなくなるとか。
──
ある意味、ぶつかりあうような場面も
あるお仕事でしょうから、
あるいは関係が途絶してしまったとか、
あるかもしれませんよね。
以前、おっしゃってたんですが、
ドキュメンタリーの映像で、
よく、取材対象者が車を運転していて、
斜め下から
カメラで撮ってたりするけど、
あれはダメですって言っていたんです。
米代
へええ。
──
ようするに、インタビューというのは、
「真正面からしかありえない」
というふうに
原監督はお考えになっているので、
その場合、カメラ自体も
相手の真正面に置かないとダメだ、と。
米代
なるほど。
──
で、そのカメラの後ろに原さんが立つ。
そして、その相手を見つめて質問する。
すると相手もこっちを見て、答える。
それがインタビューというものだって。
米代
ああ、人間としてしゃべる。ふつうに。
映画の「素材」じゃなくて。
そうか‥‥でも、そうですよね。うん。
心の柔らかいところを捉えるなんて、
そうじゃなきゃ、絶対に無理ですよね。

『水俣曼荼羅』より ©疾走プロダクション 『水俣曼荼羅』より ©疾走プロダクション

──
原監督が「話しやすい人」であることは、
確実にあると思うんです。
ただ、この人には
何を言っても拒絶されないだろうという
信頼感とか安心感って、
初対面では「ゼロ」なわけですから、
きっと「話しやすい場」を、
つくってらっしゃるんじゃないかなあ。
米代
場?
──
空気‥‥雰囲気というか。
自分の場合もまさしくそうなんですが、
初対面で、
こちらに対する信頼や安心がゼロでも、
「話しやすい場」をつくるのは、
それなりにできると思っているんです。
米代
へえ‥‥。
──
相手に対するリスペクトは必須ですが、
単純に
相手の目を見て話を聞くことだったり。
米代
なるほど。
──
あっちがひとりなのに、
こっちが大人数で取材に行かないとか。
米代
ああー。知らない人に囲まれたら、
そりゃ、おしゃべりしずらいですよね。
──
そこへ、原監督の「お人柄」も加わる。
ニコニコしながら、
お茶飲み話みたいなところから入って、
いつの間にか相手も話しやすくなって、
結局、告白話をしちゃったみたいな。
そういう人なんじゃないのかなあ‥‥。
占い師みたいな? わかんないですが。
米代
うまく「引き出す」というより、
聞かれている人が
しゃべっちゃう、みたいなことなのか。
──
インタビューの仕事をやっていると、
「引き出す」って言葉を、
よく言ったり言われたりするんです。
米代
言いますよね。引き出しがうまいとか。
──
原監督のお仕事の話をしている文脈で
おこがましいんですが、
自分はその点が、ピンとこないんです。
つまり、「引き出してる」感覚なんて、
自分では持ったことがないので。
米代
えっ、そうなんですか。
──
はい。それよりもやっぱり、
いかに自由な気持ちで、
目の前の相手にしゃべってもらえるか。
そういう意味で、「話しやすい場」や
「自由な空気」を、
限られた時間の中でつくれるかどうか。
個人的には、
そのことが大きいような気はしてます。
米代
インタビューする上では。へえ‥‥。
──
そもそも自分には、
引き出すテクニックとかもないですし、
そんな自分が、
誰かの本音を「引き出す」って、
ちょっと、乱暴で傲慢な気もしますし。
米代
なるほど。
──
でも、米代さんが
原監督にインタビューしていた様子を
ずっと横で聞いてたんですが、
なんか、すごく感心してしまいました。
米代
え、どうしてですか。
──
いや‥‥自分には思いつかないような、
物語の創り手ならではの質問とかも
あったと思うんですけど、
それより何より、
単純に、興味のあるところについては、
しつこく何度も聞いていたりして。
米代
あはは、はい(笑)。
──
あれ‥‥なかなかできないんですよね。
しつこく食らいついていくっていうか。
それも、ただしつこいだけじゃダメで、
相手に嫌な思いをさせないようにして。
米代
大丈夫でしたかね?
──
ぜんぜん大丈夫だと思いますよ。
原監督、嬉々として答えていましたし。
米代
まあ‥‥コミュニケーションについて、
知りたすぎたんです、わたしが(笑)。
あのときは、わたしが
担当編集さんに当たってしまって‥‥
ずっと、険悪だったんです。
──
えっ、そうだったんですか?
米代
はい、死ぬほど(笑)。
──
あの日、担当編集さんもいたけど‥‥。
てか今日もここにいるけど‥‥(笑)。
米代
はい(笑)、あの日からさかのぼって
2~3カ月くらい、ずっと険悪でした。
今日ここへ来るとき、
久々に、落ち着いて話したくらいです。
──
ついさっきじゃないですか(笑)。
米代
だからもう大丈夫なんですけど(笑)、
とにかく、そんな感じで、
仕事もなかなか思うように進まなくて、
わたしの精神状態もよくなくて。
で、人とコミュニケーションするって、
ホントわかんないや‥‥
みたいな感じになっていて、ずーっと。
──
はあーっ‥‥‥!
米代
もう、このまま年をとったら、
孤立して死ぬくらいな感じだったんで。
「孤独」なら、いいんですよ。
ひとりで好きなことをして楽しいけど、
「孤立はヤバい」と思って(笑)。
──
えーっと、じゃあ、
原監督にコミュニケーションについて
インタビューしたのも、
「漫画のため」「お仕事のため」では、
もちろんあるにしても‥‥。
米代
いや、もう「人生のため」です。
──
そうだったんだ‥‥!

(つづきます)

2022-10-29-SAT

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  • 主人公は、7年前に別れた元カノから
    「出産記録の映画を撮ってほしい」
    と、お願いされる公務員・市松海路。
    それって、どういう状況‥‥?
    というところからはじまる物語です。
    この作品を立ち上げるにあたって
    米代さんがインスパイアされたのが、
    原一男監督の初期作
    『極私的エロス 恋歌1974』だとか。
    10月28に発売される最新の第6巻は
    「帯に重大発表が」と予告されていて、
    何だろうと思ってたら、
    「2023年、TVドラマ化決定!」と
    でっかい文字で書かれてる。おおー!
    待望の第6巻のAmazonでのお求めは、
    こちらからどうぞ。