──

純粋に作品のためとばかり思ってましたが、
そういう理由だったんですか。

米代さん、ご自身の「人生のため」に、
原監督にインタビューをお願いした‥‥と。

米代

そうなんです。どうしたら、そんなふうに、
たくさんの人と話しても、
人にのまれずに済むんですか‥‥みたいな。

他人と交わりながら、どうしたら、
自分を保っていられるのかを、知りたくて。

──

えーっと、人とコミュニケーションすると、
人に「のまれちゃう」んですか？

米代

はい、そういう感覚があって、
だからわたし、孤立しちゃいがちなんです。

──

それって、昔から‥‥ですか？
学生時代からとか、わかりませんけれども。

米代

学生時代から、一人が好きでした。

クラスでは、
ほとんどの人と、しゃべれるんですよ。
でも、基本的に移動とか一人だったし、
お弁当も一人で食べていました。
で、食べ終えたら絵を描いて‥‥
みたいなことを、
ずっと自分のペースでやってる毎日で。

──

そのときは、それで、よかったけど。

米代

はい、それでよかったんです。

でも‥‥大人になって、漫画家になったら、
基本「家に一人きり」なんです。
ずっと仲良くしていた人とも、
最近、ちょっと疎遠になりつつあって‥‥。
気づいたら、ある瞬間に、
会う友だちが「ゼロ」とかになったんです。

──

お、おお。

米代

まあ、いま、海外留学している友だちとは、
連絡をとっているので
完全に友だちゼロじゃないんですけど、
その人とは、会えないじゃないですか。
１ヶ月か２ヶ月に１回、
ちょっと長めに電話で話すくらいなんです。

なので、そういう状況に陥ったとき、
「えーと、どうしよう？」みたいになって。

──

なるほど‥‥。

米代

自分の何が問題で疎遠になったのかなとか、
でも、このままじゃ孤独死だーっとかって
焦って人と交わりすぎても、
自分をちゃんと保てる気もしないなあとか。

コミュニケーション、みたいなことついて、
ぐるぐる考えちゃって、
そこの「バランス」っていうのか‥‥。

──

バランス？

米代

いや、何なんでしょうね。うーん。

──

それ、どれくらい悩んでるんですか？

米代

もう２カ月くらいとかですね（笑）。

ほぼ同時期に、
担当編集さんともガチンコの状態になって。
わたしの勤務態度が悪すぎたんです。
ぜんぜん漫画が描けなくなったというか、
ネームがあげられなくなって、
それで焦ってしまったこともありました。
「何で描けなんだろう‥‥！？」みたいな。

──

連載中の作品（『往生際の意味を知れ！』）が
「描けなくなる」っておおごとだし、
実際、少し休載されてもいましたけど‥‥。

いろんなことが重なった２ヶ月だった。

米代

どっちが原因で、どっちが結果なのか。

人としゃべらなくなって刺激が減って、
漫画が描けなくなったのか。
その直前まで、
めちゃくちゃ人と会ってたんですけど、
そうすることで
他人に自分を合わせ過ぎちゃって、
漫画が描けなくなっちゃったのかとか、
もう、よくわからなくなったんです。

──

直前までは、人と会ってたんですか？

米代

孤立が怖かったし、漫画を描く上でも、
人と会わなきゃダメだと思い込んでいて。
意識的に、
ものすごく人に会うようにしていました。

でも、そうしていたら、
今度は
自分自身の意見がブレちゃった気がして、
結局、人とまったく会わなくなって‥‥。

──

なんたる両極端‥‥。

米代

孤島にポツンと一人でいるみたいでした。

でも、これは相手が悪いわけじゃなくて
自分の性格のせいなんです。
たくさん人に会うと、
すぐキャパオーバーになっちゃうんです。

──

人あたり、みたいな感じ？

米代

人にのみ込まれるような気がしちゃって、
自分自身が保てなくなるというか、
自分に集中できなくなってしまうんです。

あのときあんなこと言っちゃったなとか、
無限ループで考えちゃう。
そうなると漫画に手がつかなくなって、
こりゃあしばらく、
一人になったほうがいいみたいになって。

──

うん、うん‥‥わからなくないですが。

米代

そうなると、人間、不安になるんですね。

このまま一生、誰とも関係を築けなくて
一人ぽっちだったらどうしよう‥‥
いまはまだ30代で
体力もあるし大丈夫だとは思うけど、
60歳、70歳になったとき、
マジで足腰とか弱って動けなくなったら、
みたいな。

──

おー‥‥。

米代

そのまま誰にも連絡できずに、
たった一人で死んでいくのかな‥‥とか、
そこまで想像しちゃって（笑）、
なんだかもう、自分の行く末が怖すぎて。

──

人とコミュニケーションしたい‥‥とか、
もっと単純に、
友だちと遊びたい気持ちはあるんですか。

米代

あります。あるんですけど、
なんかもう、仕事が終わらないんですよ。
ぜんぜん先に進まなくて。

なので、物理的に無理な状態です（笑）。

──

ちょっと、八方塞がりだ。

米代

先日、ロンドンに留学している友だちと
電話で１～２時間しゃべったんですが、
それが、その２カ月間の雑談ぜんぶです。

で、先日の原さんのインタビューの日に、
「２ヶ月ぶりに人に会った」んです。

──

えっ、そうだったんですか？　あの日？

米代

２カ月ぶりに対面で人としゃべりました。
だから、しゃべり方が変なんです。
あのときのわたし、録音を聞き返したら。

──

えーっと、そうですかね？
別にそんな感じはしなかったですけどね。

米代

ほんとですか？

──

うん。とくに。もしかして、今日も、
人と会うの、あの日ぶりってことですか。

米代

そうです。あの日ぶりです。
リモート取材みたいなのはありましたが。

──

そうなんですか‥‥でも、
こうやって米代さんとしゃべっていても、
べつに、
コミュニケーションが苦手そうな感じは、
とくにしないんですけど。ホントに。

米代

一人になるとヤバいのかもしれないです。
家で。

もう孤立ヤバいよみたいな感じになって、
むやみにファンレターを見返したり。
これがない人、どうしてるのかな、とか。

──

ない人のほうが人類の９割５分ですよ。

米代

そうですよね（笑）。

だから、こんなに恵まれているんだから、
マジでがんばろうって奮起したり。

──

はあ、そういうことだったのかあ。

で‥‥話をいちばん最初にもどしますと、
そんな米代さんが、原一男監督に、
コミュニケーションについて
３時間半くらいの取材をしたわけですが。

米代

はい。

──

こ～んなにしゃべりましたよね、原監督。

米代

そうですね（笑）。ありがたいです。

──

どういうヒントをゲットしたんですか。
あるいは単純に、何を感じましたか。

米代

えーと、コミュニケーションに関しては、
やっぱり、
原さんの「受け止める力」を感じました。

わたしが変な質問をしていても、
何ていうか、すごい安心感があったので。
ああいう人だから、
人でいっぱいいっぱいにならないんだと。

──

あ、それは、わかります。

あと、原監督って、
こう言ったら失礼かもしれないんですが
よろこばせたい感じのお顔なんですよね。

米代

あ、いや、わかります（笑）。

──

射的の的みたいなお顔っていうか、
笑顔が見たくなるお顔っていうか。

つまり、なんかあんなニコニコした顔で
正面にいられると、
取材相手も、
ちょっとリップサービスをしちゃったり、
そういう部分もあるんじゃないかなあ。

米代

あと、原さん自身の
こっちを楽しませようっていう気持ちも、
すっごく感じたんです。
お話してたら、本当に、おもしろくって。

──

漫画についてのヒントも？

米代

はい。もちろんたくさんいただきました。
それについては、
もっと早くにお話を聞けばよかったって。

──

たとえば、それは‥‥。

米代

ドキュメンタリーの組み立て方とかです。

目の前の生身の人間を撮っていって、
ひとつの映画をつくりあげるわけですが、
それ、どんなふうにやっているのか。
どう転ぶか、わからないじゃないですか。

──

はい。登場人物たちが、
望むような行動をしない可能性もあるし。

米代

でも、お話をうかがっていたら、
原さんも、インタビューをし続けながら、
カメラを回し続けながら、
映画のラスト、
落としどころを考えているんだなあって。

そこについては、すごく参考になりました。
今後の、わたしの漫画にとっても。

『さようならCP』より　©疾走プロダクション

──

なるほど。

米代

ここのところずっと、
人生のコミュニケーションのこともあって、
仕事の調子も、ずっと悪くて。

漫画って、どうやって描くんだっけ‥‥
みたいな状態だったんですが、
原さんと、お話をさせてもらえたことで、
とにかく、いろいろスッキリしました。

──

おお、それはよかった。

米代

人間って「多面的」であって当たり前だし、
そこがおもしろいんだ‥‥って思えた。

その事実を、原さんはただ受け止めてるし、
わたしもそうすればいいのか‥‥とか、
そういうことを、すごく教わったというか。

──

少し前に、ある人から、
インタビューって
カウンセリングみたいなところありますね、
と言われて、
「へええ、そうなのか」と思ったんですが。

米代

カウンセリング。なるほど。

──

聞いていると、
原さんの場合は、ただ雑談しているだけで、
そういう「効能」もありそうな。

米代

ああー。そんな気がするかも。うん。