腕だけで「2.4メートル」もある
謎の恐竜・デイノケイルスや
日本最大の全身骨格・むかわ竜など、
次々とすごい発掘をしてきた
恐竜研究者・小林快次さんは、
子どものころから大の恐竜好き‥‥
なんかじゃ、ぜんぜんなかった!
それどころか、
やりたいことが見つからず、
もがき苦しむ青春を送っていました。
おなじ悩みを持つ若人に、
ぜひとも、読んでほしいと思います。
もちろん恐竜のお話も、たっぷりと。
(もともとその取材だったんです)
担当は「ほぼ日」奥野です。
小林快次(こばやし・よしつぐ)
1971年、福井県生まれ。
米国の大学で学部を卒業し、博士号も取得する。
現在、北海道大学総合博物館教授。
恐竜の進化、生活復元、生活地域や移動等、
多岐にわたって研究している。
「恐竜がどうやって鳥に進化したのか」や
「北極圏のような
厳しい環境にどうやって棲めたのか」など、
恐竜について多くのテーマを追求している。
近著に
『恐竜まみれ:発掘現場は今日も命がけ』(新潮社)、
『ぼくは恐竜探険家』(講談社)、
『化石ハンター 恐竜少年じゃなかった僕は
なぜ恐竜学者になったのか?』
(PHP研究者)などがある。
- ──
- 前フリにしてはコッテリとしたお話を
聞かせていただきましたが、
ここからようやく、
恐竜に関するインタビューとなります。
- 小林
- はい(笑)。
- ──
- ぼくも、小林先生と同じように、
ちいさいころは
恐竜に特別な興味はなく、
大人になってから
「こんな生き物が本当にいたのか!」
と今さらビックリしてるクチで。
- 小林
- ええ。
- ──
- なので、ものすごく基本的なことを
聞いてしまうと思うのですが、
まず、恐竜って
なんであんな大きくなったんですか。
- 小林
- なるほど。
- ──
- アルゼンチノサウルスなんか、
じつに「推定全長35メートル」って。
- 小林
- そうですね。
- ──
- 先日、先生がモンゴルで発掘された
デイノケイルスの
全身骨格の前に立ったときにも、
「なんと大きい。なんと、こわい。
大きいだけでこわいし、
大きいだけでコンテンツだなあ」
と思わされました。
- 小林
- ま、恐竜が「大きくなった理由」と、
「大きくなれた理由」と、
ふたつの説明の方向があるんですが。
- ──
- お願いします。
- 小林
- まず、そもそも生物って、基本的に、
だんだん大きくなっていくんですよ。
- ──
- と、おっしゃいますと?
- 小林
- コープの法則‥‥と言うんですけど、
生物は、長い年月を経ていくと、
身体のサイズが大きくなる傾向にあります。 - その生物の起源から、とても長い間、
世代をいくつも重ねていくと‥‥少しずつ。
- ──
- それは「進化」ということですか。
- 小林
- はい、進化です。
- 恐竜の場合も、
「大きくなったら有利なこと」って、
たくさんあったんです。
- ──
- たとえば‥‥。
- 小林
- まず、植物を食べていた恐竜の場合、
大きいほうが、襲われにくいですね。
- ──
- なるほど。
- 小林
- さらに行動半径も広範囲になるので、
餌を見つけやすくなり、
パートナーにも出会いやすくなる。
- ──
- 食料や子孫の問題も、
大きくなることで、有利に。
- 小林
- そういう圧力がかかると、
みんなどんどん大きくなっていって、
それにともなって、
食べる側の肉食恐竜も大きくなっていく。
- ──
- じゃ、その競争で。
- 小林
- いまのが「大きくなった理由」です。
他方で「大きくなれた理由」もある。
- ──
- つまり、
あそこまでの巨大化をゆるした理由。
- 小林
- それは「骨が軽量化された」から。
- ──
- 恐竜の骨は、軽い?
- 小林
- そう、軽い。
- 一般的に、図体が大きくなった場合、
身体を支えるために、
骨を頑丈にしなきゃならないんです。
- ──
- ええ。
- 小林
- 骨が頑丈になっていけばいくほど、
その骨自体の重みによって、
身体全体が重くなり、
「これ以上、体重を支えきれない!」
という限界がくるんです。
- ──
- ある程度のところでブレーキがかかる。
- 小林
- でも、恐竜の場合‥‥
厳密に言うと「恐竜と鳥」の場合は、
骨の中が「中空」なんです。 - 詳しい説明は省きますが、
呼吸の方法が他の生物と違うせいで。
- ──
- 骨が「スカスカ」になってる、と。
- 小林
- ケンタッキー・フライド・チキンで、
鳥の骨、食べたことあります? - あれ、簡単に食べらるんです。
スカスカだから、バリバリバリって。
- ──
- へえ‥‥こんど食べてみます。
- 小林
- とにかく、恐竜と鳥は、骨が軽い。
- そこで、骨自体が軽いから、
俺、まだまだ大きくなれるぞーって、
巨大化していったのが恐竜で。
- ──
- ははあ。
- 小林
- 俺、骨、軽いから、
空を飛んじゃえってのが鳥なんです。 - 骨の軽さという特徴が、
大型化する方向と、空を飛ぶ方向と、
2方向にわかれていったんです。
- ──
- それが、恐竜と鳥の進化なんですか。
- 先生の本で知りましたけど、
鳥って恐竜の生き残りなんですよね。
- 小林
- 鳥は恐竜ですね。学術上。
- ──
- そこらへんのハトに、太古の恐竜から、
脈々と受け継がれてきたものがある。 - そのこと自体「うわー」と思います。
- 小林
- だから、人によっては、
恐竜たちは絶滅していないどころか、
現代は
恐竜の大繁栄期だと言う人もいます。
- ──
- でも、最初に空を飛ぼうとしたとき、
いきなり飛べないですよね。 - 飛ぼうとして堕ちて死んだり、
たくさんしたと思うんですけど、
そこまでして、
なぜ鳥は、
空に活路を見出したと思われますか。
- 小林
- 「身体能力の高い優秀な恐竜」が
空を飛んだのか、
「弱々しい恐竜」が、しかたなく
空を飛んだのか。 - どっちだと思います?
- ──
- ああ‥‥そうか。弱いひとたちか。
- 小林
- そうです。
- 本当は地上で暮らしたいんだけど、
ティラノサウルスやら
怖いやつらがいっぱいいるために、
弱くてちっちゃい恐竜は、
しかたなく木の上に逃げたんです。
- ──
- なるほど。
- 小林
- で、木から木へ飛び移ってる間に、
いつしか空を飛んだんでしょう。
- ──
- 生きるために、死を賭して飛んだ‥‥。
- 小林
- そこが、おもしろいところですね。
- 強いもの、優れたものが、
空飛ぶ生物に進化したんじゃなく、
弱いものが、
追い詰められて空を飛んだんです。
- ──
- 飛べないのに飛ぼうとするって、
ヤケクソっていうか、
明らかに危険な行為ですもんね。
- 小林
- 弱々しいもの、劣等生が、
なんとか生き延びて、
結果的に、
現代ではこれほど成功して、
繁栄してるんです。 - つまり、優秀性と劣等性って‥‥。
- ──
- ああ、どっちがどっちなのかと。
- 小林
- そう。
- 今の時代に、他の人よりも優れていたり、
他の人よりも劣っていたりしても、
それが、
1万年後、10万年後‥‥の世界では、
どうなっているだろう。
- ──
- そのレンジで見れば。
- 小林
- 優秀だった生物たちが、
知らないうちに、
絶滅への道をたどっている一方で、
劣勢だった生物こそが、
次の世代をつくっているかもしれません。
- ──
- つまり、とても長い目で見れば、
学校の勉強できるできないの「優劣」も、
絶対的じゃない‥‥のかも。
- 小林
- そう。
- ──
- 恐竜のことを考えていても、
現代や未来のことに、つながるんですね。
- 小林
- そうなんです、つながるんです。
- だから、おもしろいなあと思うんです。
恐竜の研究って。
(つづきます)
2019-07-28-SUN
-
デイノケイルスが!むかわ竜が!
恐竜博2019、開催中。小林快次先生が中心となって発掘調査した
「ナゾの恐竜・デイノケイルス」と、
日本の古生物学史上、
最も完全な形で発掘された「むかわ竜」の
全身骨格が、
現在開催中「恐竜博」で公開されています。
とくに、
ギリシャ語で「恐ろしい手」という意味の
デイノケイルスの大きさは、
全長約11メートル、高さ約4.5メートル!
「こんな生き物が本当にいたのか‥‥」と、
ある意味ボンヤリしてしまいました。
会場は、東京・上野にある国立科学博物館。
夏休みの子どもたちで一杯だと思いますが、
あの大きさ‥‥直に体感してほしいです。
開館時間や休館日、チケット情報など、
詳しいことは、公式サイトでご確認を。また、小林先生の新著もぞくぞく刊行中。
アラスカでグリズリーと出くわすという
ハラハラドキドキな場面からはじまる
新潮社の『恐竜まみれ』と、
この連載にも通じる内容の
PHP研究所の『化石ハンター』です。
どっちもおもしろいですので、ぜひとも!