- 糸井
- 「おまえは、かまぼこ板に
『みうらじゅん』と書いて商売しろ」
とぼくが言ったのは、
みうらを語るうえではものすごく大事なんです。
つまり、自分の表札で仕事をする人と、
誰かのチームで仕事をする人って
種類が違うんですよ。
自分の表札で仕事をする人は、
売れていようが売れていまいが、
その人が「リーダー」なんです。
くだらないことをやったり、失敗しても、
ぜんぶ自分のせいです。
チームで仕事をする場合は、
その人がリーダーとは限らない。
リーダーの役をやってもいいんだけど、
誰かの引き立てで何かやることだってあるし、
いろんなことがある。
それは、種類がぜんぜん違うんです。
みうらは、失敗するのも成功するのも
自分がリーダーの仕事しか向いてないと
当時の俺は思ったわけ。
- みうら
- はじめからそれは
見抜かれていたんですよね?

- 糸井
- うん。
たぶんみうらは冗談じゃなく、
ある意味スーパースターになりたい人だから、
それしかないんだよね。
だからといって、みうらが
絵じゃなく字を書くと、
「そのくらいの文章を書いてるやつ」は
当時、いっぱいいたんです。
- みうら
- はい。
- 糸井
- みうらは絵が描けて字が書ける。
それがすごく大事だった。
漫画をやめちゃったら、
人の都合のいいとこで役に立つような
ライターになっちゃうから、
それはおもしろくないと思ってた。
- みうら
- いまだに雑誌『映画秘宝』には
漫画を描かせてもらってるんです。
もとは文章で頼まれた連載で、
絵は要らなかったのですが、
「いや、ここに漫画を描かせてもらわないと困るんだ」
と自ら言って、描かせてもらってます。
あいわらず同じタッチでね。
- 糸井
- みうらは、いまはもう
文だけで成り立つけど、
あの頃あのままやってたら、ダメでしたね。
だから、急にみうらが
「すみませんでした!」てかんじでやった
漫画の仕事が
俺はものすごくうれしかった。
『アイデン&ティティ』ね。
ホントに、泣いたぐらい喜んだよ。

▲『アイデン&ティティ』1992年12月(青林堂)
角川文庫版もあり。
- みうら
- ありがとうございます。
本が出たとき、糸井さんから
電話いただきました。
- 糸井
- 俺、電話した?
- みうら
- ええ。
- 糸井
- そうか。
- みうら
- 電話取ったら、
「あのぅ〜、『アイデン&ティティ』の
いち読者なんですけど〜」
って、もうこっちは糸井さんだと
わかってるんですけど(笑)、
怒られたら嫌だなと思っていちおう
「はい、あ、そうなんだ」
と応対しました。
「いや、もう、泣きました。いい作品ですね」
糸井さんは、電話でそう言ってくれました。
- 糸井
- あの漫画がなかったら、
いまのみうらはないんじゃないかな?
- みうら
- そのとおりですね。
ぼく、あれを描いたときにまわりから
「これ以上、漫画描かないほうがいいんじゃない?」
と言われました。
「あれで終わっとけば、
『いい漫画描いたみうらじゅん』で
終われるじゃない」
と(笑)。

- 糸井
- いや、やめる必要はないよ。
だけど、『アイデン&ティティ』って、
作者が本気にならないとできない類の
仕事だよね。
あの漫画は映画になったけど、
誰もが持ってる本気さみたいなものが
表現できてるから、
映画もよかったよ。
あと、みうらはバンドもやってよかったね。
「人がドドドドっと動くのは、
こちらが考え抜いたものではない」
ということが、
バンドのようなものをやると
よくわかります。
- みうら
- ええ、ええ。
- 糸井
- そういう経験は、すごくでかいよ。
- みうら
- 「大島渚」というバンドで
「イカ天(いかすバンド天国)」に出たときも、
例の「いちファン」の方から電話をいただきました。
- 糸井
- ああ、‥‥いちファン(笑)。
- みうら
- 「このあいだテレビで見だんですげど、
大好きなんでずぅ」
って、そのときは、ちょっと訛った人だった。
- 糸井
- 「(訛って)あのぅ、みうらざんですか」

- みうら
- そうそう。
そういえば、こんなこともありました。
漫画でデビューしてちょっと経った頃に、
「(訛って)あのう、
群馬県の上毛新聞の者なんですけど」
という電話がかかってきたんですよ。
「上毛新聞の朝刊に『上毛くん』という
4コマ連載をね、お願いしたいんですけど」
と、その人は言うんです。
‥‥新聞の4コマ連載ということは、
描けば毎日お金が入る。
やったーと思いました。
「とりあえず上毛くんのキャラクターを
まず描いてもらって」
っていうんで、その方にFAXで送りました。
送った先の番号を、よーく見たら、
糸井さんとこでしたね(笑)。
- 糸井
- わははは。
- みうら
- ぼく、上毛くんの絵を
いまも残してますよ(笑)。
- 糸井
- ああ、きっと暇だったんだね(笑)。
- みうら
- (笑)。
でも、こうやって糸井さんには
いつも背中を押してもらってるんです。
糸井さんが文春で連載されてた『萬流コピー塾』の
本が出るときも、電話がかかってきました。
「みうら。こんど『萬流コピー塾』の
単行本が出るんだけど、イラストをさ」
糸井さん、そこで止めるんですよ。
だからぼくは
「あ、ありがとうございます!」
って言うじゃないですか。そしたら
「湯村さんに頼もうと思って」
って(笑)。
- 糸井
- わははは、ごめん。
- みうら
- 「あ、最高じゃないですか」って(笑)、
応えました。
- 糸井
- 俺、よく人には
「みうらとは仕事なんか何もしてないんだよ」
って言ってるけど、実は、わりとしたね。
- みうら
- よくつきあっていただいたなと思ってます。
