- 糸井
- カマドウマも、崖も、
みうらの仕事はぜんぶ、
「ここまで拾うのか!」ということが
重要になっているよね。
- みうら
- 糸井さんが、ぼくの仕事に関して
「みうらが拾わなくなったら、ただの風景に戻る」
とおっしゃってるのを聞いて、なるほどと思いました。
それは、ぼくの仕事をあらわす
すべてだなと思います。
- 糸井
- そうなんだよね。
拾うから「何か」になるんであって。
- みうら
- 崖は、いじらないと単に崖であるだけですからね。
- 糸井
- みうらが帰ったら、崖はただの崖だよ。
- みうら
- グッとくるグッドクリフだ、
なんて言ってるあいだは少なくとも
ただの崖じゃなくなります。
‥‥いま思い出したんですが、
ぼくが崖ブームについて話している頃に、
たまたま横尾さんにお会いすることがありまして。
- 糸井
- ええ、横尾忠則さん。
- みうら
- 横尾さんがぼくに、こうおっしゃったんです。
「昨日ね、『はなまるマーケット』っていうテレビを
見てたんだけど、君、出てたね」
「あ、はい、出していただきました」
「君、崖ブームとか言ってるらしいね。
あれってぼくの滝ブームから
水を取っただけじゃない?」
- 糸井
- わはははは。
- みうら
- 「いや、違いますけど‥‥」
「いやいや、君は滝から水を取ったんでしょう?」
「まぁ、そういうことになりますかねぇ」
って(笑)。
- 糸井
- 横尾さんはやっぱり、
ぼくにとってもみうらにとっても、
先祖だよね。
- みうら
- マイブームって言葉を思いついたとき、
浮かんできたのは横尾さんでしたから。
- 糸井
- あの人が、北京原人だとしたら、
ぼくらがそのうしろに控えています。
- みうら
- はい、もちろんそうです。
だから崖ブームも
滝から水を抜いただけです(笑)。
- 糸井
- 横尾さんは、いまも昔も
同じように天才です。
ふつうは、天才であっても、
年をとると角が取れたり、風化していって
違うものになっていきます。
しかし、横尾さんのあの生々しい天才ぶりには、
やっぱり感心します。
予言しますが、
我々や、みなさんや、
「この人はすごい人だ」と言われている人たちが
滅んで忘れ去られても、
横尾忠則は30世紀になっても生きてます。
- みうら
- ええ、絶対そうでしょうね。
このあいだ、川崎の美術館で
横尾忠則展が開かれたときに
トークゲストとして呼んでいただいたんです。
「ああ、ぜひとも行きます」とお応えして
予定どおり美術館に行きました。
そしたら、当日になって突然、
「ぼくは最近、トークショーが苦手なんで
君ひとりでやってくれ」
と言われまして(笑)。
- 糸井
- わはははは。
- みうら
- すでにお客さんが入ってて、
「ぼくはとりあえずいちばん前に座ってるから、
ここに来てることだけは言ってもいいよ」
‥‥って、おっしゃって(笑)。
- 糸井
- 自分の展覧会なのに。
- みうら
- そうなんです。
横尾さんの展覧会で
ぼくが横尾さんを前にトークしました。
- 糸井
- まぁ、来てただけ
ましなぐらいだよね。
- みうら
- いやぁ、異常に緊張しました。
ずいぶん前、横尾さんはUFOの話を
ひんぱんになさっていた時期がありました。
「UFOが来てる」「金星人がいる」
と、いつもおっしゃってたし、
そういう本も書いていらっしゃいます。
絵やデザインの中に円盤がバンバン飛んでました。
で、その金星人の話を
別の機会にたまたまお会いした楽屋で、
ちょっとしたんですよ。
「金星人とはまだお会いになってるんですか」
そう訊ねたら、横尾さんは
「古いね、君は!」
って(笑)。
宇宙人に「古い」「新しい」があるんだ‥‥
と、そのとき思いました。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- 横尾さんの文脈からすれば、
「まだそんなこと」という話だし、
しかも、金星人は別に普通だから
「わざわざ訊くのはおかしいよ」と
思っているに違いない。
- みうら
- つまらないことを聞いて
不覚でした。
- 糸井
- 横尾さんといえば、前に、ある大学で
学生作品の審査会があったんだよ。
横尾さんやぼく、
いろんな人が集まって審査しました。
一次審査が終わって、昼ごはん食べてるときに
ニコニコしながら
「あんまりおもしろくないね」としゃべってて、
そう言ってるうちにどんどん
ほんとうにおもしろくないと
思っちゃったらしくて、
「帰る」って、帰っちゃった(笑)。
横尾さんがメインの審査員だったのに。
みんなは「帰っちゃった」と驚いていたけど、
ぼくは、そういうことはありうると思った。
あれは素敵だったね。
- みうら
- さすがですね。
- 糸井
- そういうことしても、ほんとうに
ぜんぜんいいんです。
だけど、ああいう境地には、
俺もみうらも、なかなか行かないなぁ。
- みうら
- ええ。
ぼくは行けないですね。
- 糸井
- うん、あれは横尾さんだけのものだね。
- みうら
- でも、糸井さんも‥‥そういうとこ、ありますよ。
何十年も前の話ですけど、
「いまから行くぞ」って、
うちの高円寺のアパートに
糸井さんがバイクで来られたときのことです。
ぼくはオカンの焼いたクッキーを出したり、
紅茶を淹れたり、
おもしろいこと言って
接待しなきゃと思ってたけど、
15分も持ちませんでした。
「もうわかった。
わかったから帰る」
って、糸井さんは帰っちゃったんです。
シュッと帰られたあと、
また、何が間違ってたのかを考えました。
- 糸井
- いや、みうらはそのとき
学生だったから、当然、
持ってるネタが少ないんですよ。
つまり、学生同士が喜んでることってやっぱり、
いかにも学生的なものでしかない。
飲み屋のコンパで学生がしゃべってる話とか、
正直、隣で聞いてられないでしょう。
やっぱり、大人になって、
漫画や仕事が売れてからだと、
世知辛いことも経験してるし、エロっちい話もできる。
経験によって「おもしろい」分量が増えるんだよ。
だからまぁ、しかたないと言えます。