- シジュ
-
<それでは、おふたりのトークイベントです、
どうぞ!> - みうら
-
‥‥‥‥今日は進行が、
鳥なんですね。 - 糸井
- 宇宙鳥です、宇宙鳥。

- みうら
-
宇宙鳥って言われても‥‥。
ちょうどいま、浜松で
「ゆるキャラグランプリ」をやってるんですよ。 - 糸井
-
へぇ。
ということは‥‥ - みうら
-
あの方、
ここに出てていいんでしょうかね(笑)。 - 糸井
-
ここにいるってことは、
つまり「出てない」ってことですね。
今日は、みうらの本の 販売促進の会議だから、
彼もここに来たんでしょうね。
- みうら
-
いや、本はもう出ちゃってるので、
会議しても遅いんです。 - 糸井
- あ、そうか。
- みうら
-
あの本に書いてある内容は、
いまから35年ぐらい前に、
糸井さんに教えてもらったことなんですよ。
‥‥といっても、たぶん、
糸井さんとぼくのつながりを
知らない人が多いと思うんで。 - 糸井
-
ああ。
つまり、みうらは
ぼくが生んだんですよ。 - 会場
- (笑)

- みうら
-
はい、ぼくは糸井さんの子どもです。
DNA鑑定してみてください。
むかしむかし、「ガロ」という雑誌のある号の巻頭に
『ペンギンごはん』という漫画が載っていました。
作者の欄を見ると
「湯村輝彦」さんと「糸井重里」さんって
書いてありました。
この『ペンギンごはん』という漫画に、
ぼくらはものすごい影響を受けました。
根本敬さんとか久住昌之さん、
そのあたりの人たちもみんなそうです。
「俺もできるんじゃないか」って、
はじめに勇気を持ったというか。 - 糸井
- はいはい。

▲『情熱のペンギンごはん』1980年
(情報センター出版局)
- みうら
-
あ、いや、
最終的にいい話に落としますけどもね、
あの、そんな顔しないでくださいね、糸井さん。 - 会場
- (笑)

- みうら
-
めちゃくちゃおもしろい漫画で、尚且つ
これだったら俺も描けるんじゃないかと思って
描こうと思ったら、描けなかった。
『ペンギンごはん』はそういう漫画でした。
いいですよね、この説明で。 - 糸井
- いや、ありがとうございます。
- 会場
- (笑)
- みうら
-
描けそうで実は描けない漫画ってあるんだな、と
そのときぼくは痛切に思いました。
劇画みたいな、線がいっぱいの漫画も描けないし、
「こっち側」も描けないんだ――それが
はっきりとわかったのです。
ずいぶん真似しようと思ってやったんですけど、
まったくダメでした。
それはセンスという魔物でした。
- 糸井
-
それは、みうらさんを
ぼくに結びつけた最初の出来事ですか? - みうら
-
そうなんです。
ぼくは、当然、
コピーライターという職業を知りませんでしたし、
まぁ、世の中的にもあまり
コピーライターが知られていない時代でした。
でも当時、同じ美大で、同郷の石井という友達が、
「糸井さんとこに入った!」
「明日から糸井さんの事務所のアシスタントになる!」
と言って、うれしそうにぼくの部屋を
訪ねてきたことがありました。 - 糸井
- 一緒のアパートだったんだよね。
- みうら
-
上の部屋が空いたと石井に誘われ入居して、
ぼくが上で、石井が下の部屋でした。
ある夜、ものすごい勢いで階段をかけあがってきて、
「明日から行くんだ!」
「へぇ、そんなすごい人なんだ」
ひとしきりぼくは石井から糸井さんの話を聞いて、
「じゃ、おやすみ」と言って別れたら、次の瞬間、
ドーンって階段から石井の落ちる音がして‥‥
初日から松葉杖だったでしょ、石井は。 - 糸井
-
そうでした、
石井くんは初日から遅刻でしたね。
「今日からバイトが来るんだっけな」
と思ってたら、ぜんぜん来ない。 - みうら
-
来れないはずです。
前の夜に階段から落ちたんですから。 - 糸井
- それは、ただ落ちたの?
- みうら
-
ただ落ちたんでしょうね。
うれしさあまって。
ぐしゃぐしゃになってましたから、下で。 - 会場
- (笑)
- 糸井
-
それ、みうらさんは何歳のころ?
大学生?

- みうら
-
ええ、21歳ぐらいですね。
石井とぼくは同い年で、
ぼくは二浪、石井は一浪でした。
糸井さんがパルコで講演会をされて、それを
タダで見にいってたのが石井です。 - 糸井
-
うん、石井くんは、なぜか講演会に
タダで入ってたんだよね。 - みうら
-
裏口から入ったって
言ってました。
講演会の最後に、「何か質問ありますか」ってとき、
石井はタダで入ったくせに手を挙げて、
プロレスの話をしたと言ってた。
「糸井さんにも大ウケやった~」
と、ぼくに話してくれました。 - 糸井
-
うん。コピーライターの会だったのに、
石井くんは急にプロレスの話をした。 - みうら
-
たぶん、そのトンチンカンぶりに
糸井さんはピーンと来て、
あいつをアシスタントに
したんじゃないかと思うんですが。 - 糸井
- そうそう(笑)。
- みうら
-
でも、あの人、タダで会場に入ってたから‥‥
身元不明、誰だったのか
みんながサッパリわからずで。 - 糸井
- うん。
- みうら
-
そのアパートでは、
うちに唯一電話があったんですが、
どなたかがずーっと探して、まわりまわって、
最後にうちに電話がかかってきたんです。
「そちらに糸井重里さんの講演会で
プロレスの話をした人がいますか?」
って。 - 糸井
-
そうやって石井くんは
うちの事務所に入ったんだけど、
友達におもろい奴がいるということを、
入ったばかりのときから
ぼくにしょっちゅう話していました。
何かというと「みうらがね」と言う。
「そうか、そうか」とは思ってたけど、
べつに、学生のバイトの、その友達がおもしろくても、
そんなには興味ないんだ。 - みうら
- そりゃ当然です。
- 会場
- (笑)
- 糸井
-
でも、みうらの話は出つづけて、
ある日、みうらがその本人として
事務所に来ました。 - みうら
- 行きました。
- 糸井
- 来たんだよ。
- みうら
-
(笑)。ぼくは『ペンギンごはん』の、
つまり‥‥「変な」漫画の原作を書く人としてしか
糸井さんを認識していませんでした。
でもその後、糸井さんは、沢田研二さんの
『TOKIO』の作詞をした人だと知って、
「あ、やった!」と思い、
自分が高校時代にせっせと作詞作曲した歌を吹き込んだ
カセットを持って、訪ねました。

- 糸井
- うん、そうだよね。
- みうら
-
糸井さんは、ぼくを無下にはしませんでした。
「カセット、かけていいですか」と訊ねたら、
「ああ」と糸井さんは応えてくれました。
やった! と思って
90分ギッシリ、オリジナル・ソングが入った
カセットを再生しました。 - 糸井
- (笑)
- みうら
-
「この曲を作ったときは、失恋したんですよ」
などと、ライナーノーツ的に
ぼくは一所懸命しゃべりました。
すると、糸井さんは
「もうちょっと、ボリューム絞れば?」
とおっしゃいました。
でも、切れとは言わなかったんです。
だからちょっとボリュームを下げました。
そして「この曲はね‥‥」と解説しつづけました。
そうしたら、事務所に
打ち合わせの人たちがやってきて‥‥ - 糸井
- そりゃ来るよ。
- みうら
-
事務所ですからね(笑)。
でも、打ち合わせがはじまっても
ぼくの歌が会議のBGMとして
うっすら流れていました。
しかし、糸井さんはまだ「切れ」って言わない。
ま、心地いいサウンドと思われてんのかな、
と思って、また「この曲は」と説明しはじめたら、
ついに
「おまえはなんか大きいことを間違ってるぞ」
って糸井さんが。 - 糸井
- (笑)
- みうら
- そのとき、大きい間違いって何だろうと思いました。
- 糸井
- 小さいのじゃなくてね(笑)。
- みうら
-
ええ(笑)。それはきっと
「カセット持っていくとこ間違ってんじゃないか?」
ということだったのかもしれません。
思い起こせば、それが糸井さんとぼくとの出会いです。
のちに、ぼくがバンドを組んでテレビに出たとき、
「聞いてください」といって
うちの事務所にカセットを持ちこむ人も居て、
ぼくは「なんか大きいこと間違ってないか?」と
思いつつも‥‥無下にできなくて。
やっぱり気持ち、わかりますから。
