ほぼ日 | 沼澤さんには 雲の上のような存在だった ジェームズ・ギャドソンさんと、 いったいどういう経緯で いっしょに練習をするようになったんですか? |
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沼澤 | まず、ギャドソンのことは ドラムをまだ触っていない、 音楽を聴くだけのころから知っていて、 彼のドラムが、もう大好きでした。 当時、買うレコードの基準は、 クレジットに彼の名前があるかどうかでしたね。 |
ほぼ日 | おぉー、ジャケ買いならぬ、 クレジット買い。 |
沼澤 | そうそう。 ぼくは日本の大学を卒業してから、 ミュージシャンズ・インスティチュートという ロサンゼルスにある音楽学校の P.I.T(Percussion Institute of Techology)、 いわゆる「ドラム科」に留学したんですね。 それから何年かたって、 アメリカでドラムをプレイすることが 仕事になってきたときに、 ボビー・ウーマックっていう ソウル系のシンガーのツアーに雇われたんですよ。 そのときのプロデューサーが、 ギャドソンだったんです。 当時売れていたウーマックのアルバムの プロデューサーも、ギャドソンなんですよ。 |
ほぼ日 | ギャドソンさんって、 プロデューサーとしても活躍されてたんですね。 |
沼澤 | ギャドソンはもともとシンガーだから。 10代のころにはシングルもだしてるし。 だから、歌手としても一流だし、 楽器もできるから、 プロデュースもできちゃうんですよ。 |
ほぼ日 | はーー。 多才な人なんですねぇ。 |
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沼澤 | なので、一番はじめに会ったのは、 ウーマックのツアーをやっていたときです。 ぼくにとっては長年の憧れだった人が、 目の前にいるわけじゃない? もう、すっごく緊張しましたよ。 (ピッと背筋を正しながら) 「は、は、はじめまして‥‥」みたいな(笑)。 |
ほぼ日 | 雲の上だった人が、目の前にいる。 それはもう、 めちゃくちゃ緊張するでしょうね。 |
沼澤 | そしたら、ギャドソンが 「あ、お前ウーマックのところでやってる 日本人ドラマーだろ?」って。 ぼくのこと、知っててくれてたんです。 そしてすぐに、 「いっしょに練習しよう」って。 |
ほぼ日 | えぇ!? 会って、いきなりですか!? 雲の上の人から!? |
沼澤 | すぐすぐ、会ってすぐにいわれた! 「ウーマックのバックで演奏してるってことは、 聴かなくたって、 お前のドラムはいいに決まってる」って。 舞い上がってたからか、 電話番号を交換した記憶が全くないんだけど、 そのあとすぐに ギャドソンから電話がかかってきて、 「今、何してんの?」っていうの。 |
ほぼ日 | 何してんのもなにも、 雲の上の人から、会ってすぐに電話‥‥。 |
沼澤 | そう、雲の上の人から、 電話きちゃったよ、ってなるじゃん!? 「あ、とくに何も‥‥」みたいなことをいったら、 「じゃ、うち来いよ」って。 |
ほぼ日 | えーーーーっ! で、行ったんですよね? |
沼澤 | 行きますとも、もちろん。 すぐにギャドソンの家に行ったら、 ドラムが2台置いてあって 「それじゃぁ、行くぞっ!」(笑)。 |
ほぼ日 | いきなり「行くぞっ!」(笑)。 |
沼澤 | そうそう、もう内心ずっと、 「うわーーーーー」と思いながら、 いっしょに練習させてもらって。 それから、けっこう長い期間、 ギャドソンの家で練習しましたね。 で、いっしょにプレイしていると、 当たり前だけど訊いてみたいことが 出てくるわけですよ。 あの右手は、 どういう動きをしてるんだ?とかって。 ふつう、まずは質問しますよね。 「あのー、すみません、その右手は、 どうやってるんですかね?」って。 そしたらギャドソンは、こういったんですよ。 「フィールズ グゥーード(Feels Good)」。 |
ほぼ日 | え‥‥? 気持ちいいだろってことですか? |
沼澤 | そう、あの人、 ぼくがどうやってるんですかって 訊いてるのに、 「これか? きーもちいいだろぉー」って 返してくるんですよ(笑)。 |
一同 | (笑) |
沼澤 | だから、ギャドソン本人は 自分がやっていることのすごさが まるでわかってないというか、 全く意識なく、すごいことをふつうにやってるわけで。 だから、どうやってるのって訊かれても、 説明できないんです。 たとえば、ギャドソンから まず何よりも先に手振り付きで 「One is this big」といわれたんですけど、 どういうことか、わかります? |
ほぼ日 | 「1はでかい」‥‥。 うーん、わかるようでわかりません‥‥。 |
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沼澤 | 簡単にいうと、 4/4拍子でも、6/8拍子でも、 1打目にくる音の「位置」っていうのは、 大きな幅として存在するってことを わかってプレイしろよってことだと、 ぼくは理解しています。 こんなふうに、ギャドソンが話す言葉は、 彼が感じている生のままの言葉なので、 単にそのまま翻訳をしても、 その意味がとてもわかりづらいんですよ。 |
ほぼ日 | さきの「Feels Good」も、 単に訳したら「気持ちいいだろ」ですもんね。 |
沼澤 | 「彼は気持ちいいだろといっているけど、 その意味はこういうことです」 という補足がぼくにはできるんです。 というか、日本語では ぼくにしかできないかもしれない(笑)。 |
ほぼ日 | ギャドソンさんの「Feels Good」を 日本でただ一人翻訳できるのが、 沼澤さんなんですね。 |
沼澤 | そうですね。 唯一でしょうね、きっと。 (次回は、あまり知られていない 沼澤さんのP.I.T時代のお話を。) |