ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- お話に出た『おおきなかぶ』も、
ロングセラー中のロングセラーですよね。
- 関根
- そうですね。
1962年に刊行され、今は179刷です。
- ──
- 絵を描かれたのは、
高名な彫刻家の佐藤忠良さん、ですよね。
知ったときに驚いたのですが、
時代を超えて読み継がれていく絵本って、
お話と絵の両方が、
すばらしい出来栄えなんでしょうね。
- 関根
- そうですね、そう思います。
絵本って、
お話と絵ががっちりと噛み合ったときに、
すごい力を発揮するんです。
- ──
- 自分は、『おおきなかぶ』という物語は、
佐藤さんの絵で覚えていました。
- 関根
- あ、そうですか。それは、よかった。
小学校のときの教科書にも載っていたし、
別の版元さんからも
絵柄ちがいで出てはいるんですけど、
やっぱり、この絵が力強いんでしょうか。
- ──
- そうなんだと思います。
でもなぜ、彫刻家の佐藤さんに絵を?
- 関根
- 佐藤忠良さんは、いうまでもなく
彫刻家の第一人者でいらっしゃいますけど、
デッサンが、もう、本当にすばらしくって。
- ──
- なるほど、それで。
- 関根
- 当時は、すこし甘い感じの童画が
流行していたのですが、
編集に携わっていた、現相談役の松居直が、
子どもたちに
もっとしっかりした本物の絵を見せたいと、
仕事を依頼したのです。
- ──
- そんな経緯が。
- 関根
- あのお話はロシアの昔話なんですけど、
佐藤さんは、
シベリアに抑留された経験をお持ちで、
絵本に出てくる登場人物は、
そのときに出会った人たちだそうです。
当時は、とても悲惨な状況だったけれど、
市井のロシアの人たちは、
とても優しくて、温かったそうなんです。
- ──
- その感じ、絵にも出ていますよね。
- 関根
- そうそう、そうなんです。
存在感があります。
親しみというか、佐藤さんのお気持ちが
込められているのを感じます。
- ──
- シベリアで実際、
こんなおじさんに出会ったんですね。
- 関根
- そうですね、きっと(笑)。
佐藤さんは、ほんとうに誠実な芸術家で、
かぶをひっぱる場面も、
「どうも押しているように見えちゃうな」
とおっしゃって、
ご自分が「かぶをひっぱっている姿」を
大きな姿見に映して、
よく観察して、
納得いくまで何回も描き直したそうです。
- ──
- 今の話、佐藤さんから聞かれたんですか。
- 関根
- そうですね、直接。
佐藤さんは、彫刻の合間に
何十年と樹木や葉をデッサンされていて、
そちらもすばらしかったので、
ぜひとも本をつくらせていただきたいと
ラブレターのようなお手紙を
たくさん書いて‥‥。
- ──
- ええ。
- 関根
- 最終的に『木』という本になったんです。
で、そのやりとりのとき、雑談のなかで。
- ──
- 佐藤さんは、当時、おいくつですか。
- 関根
- 90歳になられる、すこし前でしょうか。
- ──
- で、めでたく出版となったのは?
- 関根
- 2年後くらいですね。
- ──
- 絵本つくりって、時間がかかるんですね。
そりゃあそうですよね、
お話を考えて、絵を描くわけですもんね。
- 関根
- 毎月、刊行している「こどものとも」も、
企画から出版までは、
平均で「2年」くらいかかっています。
最近出たイランの画家さんの絵本なんか、
10年以上も‥‥最初の企画段階からは、
13年も経ってしまって。
- ──
- 13年? なんたる粘り腰。
- 関根
- ちょっと時間の感覚がへんですね(笑)。
- ──
- いったいどんなお話なんですか。
- 関根
- ナルゲス・モハマンディさんという
若い女性画家が描いたイランの昔話で、
『ノホディとかいぶつ』と言います。
豆のように、ちいさくて勇敢な少女が、
こわーいかいぶつを
機転をきかせて退治するお話です。
今年(2018年)の9月号で、
ようやく出版することができたんです。
- ──
- うわあ‥‥絵がとっても魅力的です。
- 関根
- ほんとうですか。うれしい。
- ──
- この人と、13年つきあったんですか。
- 関根
- いえ、ちがうんです。
そもそもはイランの絵本をつくりたいと
思っていたんですが、
イランの画家の展覧会を主催し、
この話の再話者でもある愛甲恵子さんと、
13年くらい前に出会ったんです。
- ──
- 再話、というのは、
昔話を語り直すみたいなことですよね。
- 関根
- そうです。口で伝えられてきた昔話を、
いいかたちに語り直すこと。
その世界も、奥が深いんですけど‥‥。
- ──
- ええ。
- 関根
- 展覧会で、あるイランの画家さんの絵を
すてきだなあと思って、
絵本つくりを進めていたんですが、
イランと日本では、
絵本に対する感覚がまったくちがうんです。
- ──
- といいますと。
- 関根
- まず、「物語るように絵を描く」という
習慣がなかったんです。
その方は、「下絵」を描かなかったり、
途中から、
絵の感じが大幅に変わっちゃったりで、
結局、最後までたどりつかなくて。
- ──
- そうなんですか。完成しなかった。
- 関根
- ええ、そんな紆余曲折あったあとに、
ナルゲスさんの絵を知って‥‥。
- ──
- 気づいたら、13年?
- 関根
- そうなんですよ、びっくりですよね。
ナルゲスさんの絵は遊び心があって、
おおらかなのが魅力なんです。
このかいぶつ、おもしろいですよね。
日本人にはなかなか描けない(笑)。
- ──
- ほんと、惹き込まれちゃいます。
- 関根
- ナルゲスさんは今、注目の人ですよ。
昨年には、
ブラティスラヴァ世界絵本原画展で
「金のりんご賞」という
すばらしい栄誉に輝いていましたし。
- ──
- ボローニャなんかも有名ですけど、
絵本の原画の展覧会って、
海外では注目度が高いんですよね。
- 関根
- そうですね。ナルゲスさんとは
2年半ほど前に仕事をお願いしまして、
ようやく、
かたちにすることができました。
- ──
- さらにこの先、
単行本になる可能性もあるわけですか?
- 関根
- そうですね、評判がよかったら。
いちおう3年間くらいは、
バックナンバーも販売していますので、
ハードカバーになるのは、
もうちょっと、先の話になりますけど。
- ──
- おお‥‥また、さらなる時間が(笑)。
- 関根
- 気の長い話です。
何でしょう、すべてにおいて(笑)。
- ──
- アニメーション映画を撮っている知人が、
似たような時間感覚で仕事をしています。
完成までに何年もかかるので、
自分の一生のうちにつくれる映画の数は、
自ずから限界があるんだって。
- 関根
- ああー、わかります、わかります。
- ──
- 「自分は今、40歳だから、
あと3、4本かなあ」とか言って。
- 関根
- そういう感覚、わたしにもあります。
定年するまでは何年だから、
あとどれくらい、
絵本をつくることができるかなあと。
<つづきます>
2018-11-16-FRI
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。
ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)
会場:TOBICHI すてきな四畳間
住所:東京都港区南青山4丁目25-14
[MAP]
junaida 最新絵本
2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
数量限定・3会場限定
画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN