ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- 関根さんが編集長をつとめる部署では、
1年に24冊の物語を
出版しているということですが、
そのどれもが、
完成までに、何年もかかっていて‥‥。
- 関根
- そうですね。
- ──
- なかには、イランのお話のように、
「13年」もの歳月を費やしていたり。
- 関根
- はい(笑)。
- ──
- その仕事の量たるや、
本当にすごいことだと思うんですが、
でも、絵本を出したい人って、
世の中には、
みなさんの仕事を上回るような数で、
いらっしゃると思うんです。
- 関根
- そうでしょうね。
- ──
- つまり、福音館書店さんに、
出版の企画として採用されるのって、
そうとう狭き門、ですよね。
- 関根
- 週に1回、編集企画会議を
火曜日の午前中にやってるんですが、
そこでは
「こういうお話を、
こういう作家さんで考えています」とか、
「こんな感じで推敲中です」とか、
「絵は、こんな流れで進んでいます」とか、
発表しあってるんですね。
- ──
- ええ。
- 関根
- そういう各人の企画案にたいして、
忌憚のない意見を、
みんなで言いあうんですけど‥‥。
「大人目線すぎて、
ぜんぜんおもしろくない」とか、
「子どもが楽しむのは、
もっとこういうところだ」とか、
たしかに、
なかなか本にはならないです(笑)。
- ──
- 厳しい場所なんですね。
たとえば、作家さんに
原稿をお返ししたりされることも、
あるんでしょうか。
- 関根
- そういうことのほうが、多いです。
ベテランの方から原稿をいただいても
「もう少しかな」という場合、
ほんとうに、胃をキリキリさせながら、
お返しさせていただいたり‥‥。
- ──
- わあ、その仕事は、大変だ。
- 関根
- 持ち込み原稿について言うと、
お返しする場合が、ほとんどですね。
- ──
- そうなんですか。
- 関根
- お付き合いのある作家さんから
「こんど、こんなのを書いたんです」
と頂戴したとしても‥‥なかなか。
そこは、本当に、真剣勝負なんです。
- ──
- ただお付き合いがあるってだけでは、
福音館書店から絵本は出ない。
- 関根
- それは、そうなんです。やっぱり。
でも「おもしろい」と思って、
持ってきてくださった大切な作品を、
どうやってお戻しするか‥‥。
- ──
- 何て言うんですか。
- 関根
- 最終的には敬意と誠意だと思います。
- ──
- なるほど。
- 関根
- わたしたちのところに
お話を持ってきてくださること自体、
ほんとうにありがたいこと。
ですから、お断りするときには、
どうしてそうしなければならないか、
その理由を、
敬意と誠意を持って、
きちんと伝えなければと思ってます。
- ──
- きっと、その方と編集者のあいだで
信頼を積み上げているから、
言えることでもあったりしますよね。
- 関根
- そうですね。ただ、そうは言っても、
わたしたちは、あくまで黒子。
絵本つくりというのは、当然、
作家さんがいてこそ成り立つんです。
- ──
- はい。
- 関根
- ですから、わたしたち編集側の人間は、
作家さんのお気持ちや情熱に、
つねに脱帽して、尊敬しているんです。
- ──
- そうでなければできない仕事ですよね。
- 関根
- はい。だからこそ、
いざ、つくろうということになったら、
「よりよいものを目指しましょう!」
と、少しうるさく言ってしまうことが
あったりするというか‥‥。
やっぱり、絵本に対しては、
責任を感じながらつくっていますので。
- ──
- 責任、ですか。
- 関根
- だって‥‥、おおぜいの子どもたちが、
ほんとうに真剣に読んでくれるんです。
- ──
- ああ、なるほど。
- 関根
- おもしろい物語だったら、
まさに食い入るように読んでくれます。
子どもには、知識とか経験がないぶん、
わからないものはわからないって
正直に言うし、
つまらないものは、ちゃんと
つまらないって態度や顔に出るんです。
- ──
- いちばん厳しい批評家、ですよね。
- 関根
- はい。何の先入観も持たずに、
わたしたちの物語に向き合ってくれる。
このお話、おもしろがってもらえるか、
すぐに飽きられちゃうか‥‥
子どもたちに読み聞かせをするときは
ほんとうにドキドキします。
- ──
- ちゃんとバレると思ったら、
適当には済ませられないお仕事ですね。
- 関根
- そう。だから、作家さんについても、
一緒にやっている人の中には
「子ども向けだから、適当でいいや」
って思う人は一人もいません。
子どものことを認めて、信頼してる。
そういう作家さんと、
お仕事をさせていただいているんです。
- ──
- そこの気持ちがそろっていることって、
いちばんといっていいくらい、
絵本つくりには、大事なんでしょうね。
- 関根
- さっき話に出た『おおきなかぶ』の
佐藤忠良先生も、
「子どもに見せるものなんだから、
やっぱり描き直そう」
「子どもに見せるものなんだから、
きちんとしなきゃ駄目だ」
って、いつもおっしゃってました。
- ──
- おお、大御所が。
- 関根
- はい。すばらしい作家さんは誰しも、
心のどこかに、
子どもに対して「襟を正す感覚」を、
お持ちになっている気がします。
- ──
- なんか、ふつうの本の装丁などでは
ちょっとお願いできなそうな、
錚々たる先生方が、
絵本のお仕事はされてたりしますね。
- 関根
- ほんとうに、ありがたいと思います。
絵の力がある方‥‥
日本画、西洋画の方もいます。
「こどものとも」の創刊号は、
堀文子さんが、描いてくださいました。
- ──
- 絵本だから、
子どもたちのためのものだから、
引き受けてくださるようなところが
あるんでしょうか。
- 関根
- 佐藤忠良先生は、『おおきなかぶ』が
あまりに有名になってしまったので、
「彫刻家じゃなくて、
『おおきなかぶ』の佐藤忠良に
なっちゃったなあ」
みたいなことをおっしゃっていました。
- ──
- その言いかた、
何か、ちょっと嬉しそうな(笑)。
- 関根
- ええ、とっても嬉しそうに(笑)。
世界的にも有名な彫刻家なのに、
ほんとうに謙虚で、
お電話をかけてくださるときに、
「『おおきなかぶ』の佐藤忠良です」
って、いつも、
おっしゃってくださって‥‥。
- ──
- わあ。
- 関根
- わたしたちは、いつも、心のなかで
「ええ、存じ上げてますよ」
と、ほほえみながら言っていました。
そうやって、佐藤さんはじめ、
すばらしい方々が、ロングセラーを
つくってくださったのです。
<つづきます>
2018-11-18-SUN
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。
ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)
会場:TOBICHI すてきな四畳間
住所:東京都港区南青山4丁目25-14
[MAP]
junaida 最新絵本
2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
数量限定・3会場限定
画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN