あの会社のお仕事。福音館書店 篇 あの会社のお仕事。福音館書店 篇
ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第5回 ネタ切れなんて言ってられない。
写真
──
関根さんは、もう、子どものころから
絵本が大好きで、大好きで?
関根
いえいえ、そんなことないと思います。



もちろん、好きではあったんですけど、
絵本の編集者になりたいとは、
ぜんぜん、思っていませんでしたから。
──
では、どうして絵本の編集者に?
関根
わたしは「人の気持ち」のようなものに
興味があって、
大学では心理学を勉強していたんです。



そのときに、子どもの気持ちだったり
発達のことなども学んで、
児童相談所や乳児院にも、
アルバイトや
仕事の手伝いで行ったりしてたんです。
写真
──
ええ。
関根
そういう施設の本棚には、
絵本や児童書が、置かれていました。
──
おお。
関根
施設では、いろいろな親子を見ました。



施設へ相談にいらしたときには
もう根が深くて、
ことはそう簡単ではなくなっていて‥‥
ということが多かったんです。
──
はい。
関根
親と子の間の問題を解決するための
努力の方法って、
いろいろあるとは思うんですけど、
なるべく早い段階で、
親子にとっていいこと‥‥つまり
絆を深めるお手伝いができないかと
思ったんです。



で、本には、そういう力があるなと。
──
なるほど。そこで、そう思われて。
関根
はい。まあ、ただ、はじめは単純に、
本に再開して、
「うわあ、この絵本なつかしい。
 おもしろかったな、好きだったな」
と思っていただけでしたけど。
──
ええ。
関根
でも同時に、子どものころ、
親に読んでもらってうれしかった気持ちを
思い出したんです。



あの、愛情に充ちあふれた時間があったら、
その後の成長の助けになるかもしれない、
親子が互いの関係で悩んでも、
何とか乗り越えていけるかもしれない‥‥。
写真
──
そう思って、福音館書店さんに。
関根
はい、この会社の本を読んでいたので。



ただ、新卒では試験に落ちてしまって、
中途採用で入社したんですけど。
──
そこから、絵本編集者になった。
関根
まず、5年くらい営業をやったあとに、
小学生向けの雑誌をつくり、
その後「こどものとも」に移りました。



それから20年、変わらずです(笑)。
──
それだけ、子ども向けの物語や絵本を
つくってこられたなかで、
関根さんが、すごいなあと思う絵本を、
いくつか教えていただけますか。
関根
そうですね‥‥たとえば、この本、
岩波書店から出ている
バージニア・リー・バートンさんの、
『ちいさいおうち』とか。
写真
──
ああ、読んだ記憶があります。
関根
この絵本は、わたしが子どものころ、
大好きだったんです。



バートンさんは、アメリカの作家で、
物語をつくり、絵も描く人で。
──
ちいさいおうちのまわりが
どんどん近代化していくようなお話、
でしたっけ。
関根
アメリカ開拓史が背景にあるんだと
思うんですけど、
田舎での~んびりと暮らしていた
ちいさいおうちのまわりに、
大きなビルが建ち、幹線道路が走り、
最後には‥‥というお話です。
写真
──
ええ、ええ。
関根
この作品も、大ロングセラーですね。



これからも一生、忘れない絵本だし、
ずっと心に残り続けると思うし、
大人になって読んでも、
いいなあって思える作品なんです。
──
そういう絵本、自分にあるかな‥‥。
関根
あると思いますよ。忘れているだけで。



で、そういう本こそが、
人生にとって
いい影響を与えてくれると思うんです。
──
関根さんも、誰かの心に残るような
作品をつくりたい、という気持ちで。
関根
そうですね。実際、この本みたいな
海外の傑作をお手本にして
「こどものとも」は生まれたんです。



当時‥‥1950年代、60年代には
海外のすばらしい絵本が、
日本でも、次々と
翻訳出版されるようになっていたんです。
──
そうなんですね。
関根
毎月毎月、そういう絵本を目指すのって、
たいへんなんですけど(笑)。
──
ですよね(笑)。他にも、ありますか?
関根
テレビアニメの
『おさるのジョージ』という名前で
有名になっちゃってますけど、
『ひとまねこざる』という本も好き。
──
もとは、そういうタイトルでしたか。
版元は、こちらも岩波書店。
関根
はい、好奇心の旺盛なおサルさんが
やりたい放題、
いたずらや冒険をするんですけど、
これが、ほんとうにおもしろくて‥‥。



「やっちゃいけないことを、
 絵本の中でぜんぶやってくれてる!」
って、子ども心に(笑)。
写真
──
子どものころって、
自分ひとりで遠くへ行けないぶんだけ、
絵本のなかで遊ぶんでしょうね。
写真
関根
ええ、そうかもしれません。空想でね。



マリー・ホール・エッツという作家の
『わたしとあそんで』も大好きです。
──
あ、それ知ってます。家にあります。



動物たちと遊びたい女の子が、
いじらしくて、ちょっと切なくって、
最後は心がホッとするような。
関根
こんな作品、なかなかつくれません。



人生に対する作者の思いや考えが
押し付けじゃなく、
じんわりとにじみ出てくるような、
そういう作品は、
一朝一夕にはできないと思います。
──
哲学。
関根
マリー・ホール・エッツの作品には、
作家の哲学が、
しっかり込められていると感じます。
──
ちなみに、関根さんが、
いちばんはじめに手がけた絵本って、
なんという絵本ですか。
関根
『やぎのめーどん』というお話です。



絵がとてもよかったんですが、
自分の仕事として見返した場合には
いろいろと反省もありますね。
──
そうでしょうね。
新人の仕事をベテランの目で見たら。
関根
でも、あるタレントさんが、
雑誌のインタビューで
『やぎのめーどん』のことが大好きと
おっしゃってるのを読んで、
ほんとうに嬉しかったです。
写真
──
関根さんは、もうすでに
たくさんの絵本をつくっていますが、
ネタ切れというか、
手詰まり感、みたいなことって‥‥。
関根
それは‥‥ないですねえ、あんまり。



たしかに、
「すばらしい絵本が、
 もうこんなにもたくさん出てるし」
と思ったりもするんですけど。
──
ええ。
関根
でも、それでも、
「次は、こんなお話を
 子どもたちに見せたらどうだろう」
という気持ちが湧いてくるので。
──
おお。それは、どういうときに?
関根
やっぱり、自分たちのつくった絵本を、
子どもたちが、
きらきらした目で見てくれるときです。



そういうときに、
「すごい。やった!」とうれしくなって、
「次は、こんな本はどうだろう?」
って、チャレンジをしたくなる気持ちが、
心に湧いてくる気がします。
──
なるほど。
関根
何より、子どもの好奇心は限りがないし、
想像力だって、すごいですから。
──
それに応えようと思ったら、
ネタ切れだーなんて言ってられませんね。
関根
そうなんです(笑)。
写真
<つづきます>
2018-11-19-MON
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery 
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。



ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)

会場:TOBICHI すてきな四畳間

住所:東京都港区南青山4丁目25-14 [MAP]
『Michi/みち』原画展
junaida 最新絵本 2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
『Michi/みち』特装版
数量限定・3会場限定 画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。