H-IIAロケット40号機/温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)及び観測衛星「ハリーファサット(KhalifaSat)」の打ち上げ (c)三菱重工/JAXA
H-2Bロケットをはじめ、
日本の誇る高性能ロケットを製造し、
打ち上げているのが、
民間企業の、三菱重工株式会社さん。
そのことに、とてもあこがれます。
だって、自分と同じ会社員が、
国家がやるような仕事を請け負って、
しかも、当然ですけど、
「もうけ」まで出しているんですよ。
(ビジネスだから‥‥とはいえ!)
ああ、すごい。なんと、かっこいい。
というわけで、三菱重工で
「打上執行責任者」を務めていた
二村幸基さんにうかがいました。
ロケットのこと、宇宙のこと、
職務や仲間に対する思い‥‥など。
ああ、やっぱり、かっこいい。
宇宙が好きな宇宙の素人・
ほぼ日奥野が、
胸を熱くしながら聞いてきました。
※二村さんは、2019年3月まで
打上執行責任者として活躍され、
現在はフェローアドバイザーとして
引き続きご活躍されています。
- ──
- ロケットをつくるときの難しさって、
どういうところにありますか。
- 二村
- 極めて余裕のないデザインなんです、
ロケットというのは。
無駄を省いて、できるだけ軽く‥‥
という思想が基本にあるので。
- ──
- なるほど。
- 二村
- 分厚い板で頑丈にというつくり方と
まったく正反対で、
すべてをギリギリまで削っています。
ですから、ほんの少しでも、
寸法や角度が狂うと大変なんですよ。
その精度の基準って、
おそらく、ほかの産業とくらべても、
そうとう厳しいものです。
- ──
- あれほど巨大な構造体であるのに、
神が宿るような細部にまで、
厳しい精密さが求められていると。
- 二村
- そうです。およそ100万点の部品が、
それぞれに
極めて厳しい要求を満たしています。
おっしゃるように、
ロケットは力技で飛ばしてますから、
エンジンのパワーを
最大限、効率よく発揮するために、
自重を削り、よぶんな抵抗を減らす、
そのことが、
ロケット製造には求められるんです。
- ──
- はー‥‥。
- 二村
- 熱に対する要求も、かなりシビア。
ロケット燃料というのは、
マイナス253度の液体水素ですが、
エンジン燃焼時には、これが
約3000度の高温に変わるんです。
- ──
- 3000度!
- 二村
- その差、およそ「3300度」の変化に
耐えられなければならない‥‥
つまり、
それだけの温度変化にさらされても
形状が変化せず、
それでいて、可能なかぎり、
薄く、軽くする工夫をしています。
- ──
- どういう‥‥。
- 二村
- たとえば、燃料タンクの中の水素が
少しでもあたたまると
蒸発してしまうので、
そのために、
2ミリの厚さのタンクの板に
約25ミリの断熱材を
コーティングしたりしているんです。
- ──
- 2ミリの板に、25ミリの断熱材‥‥。
つまり、見た目は重たそうですけど、
ロケットって、大きさのわりに、
とっても軽い‥‥ということですか。
- 二村
- 軽いです。高さ53メートルの
H-2Aという標準型ロケットの場合、
衛星を載せていないときの重量が
「約289トン」なんですが、
燃料が空の状態ですと、
その8%から10%くらいの重さです。
- ──
- え、10%‥‥って、たったのですか。
つまり、重量のほとんどが燃料。
- 二村
- よくたとえに出すのは、
アルミ缶のビール、あんな感じですね。
中身のビールを飲んじゃったら、
すっかり軽くなる、あのイメージです。
- ──
- ほとんど「薄皮1枚」みたいな状態で、
飛んでいくんですね。ひゃー‥‥。
- 二村
- 燃料タンクも、
約25ミリの厚さのアルミ系の板を、
2ミリまで、ゴリゴリ削って。
- ──
- ロケットに感じていたかっこよさって、
削りに削り込んだ末のフォルム、
無駄を削いだかっこよさ、なんですね。
- 二村
- まあ、ぼくの感覚だと、
もうちょっとメリハリが効いていても
いいんじゃないかな、
という気持ちもあるんですけどね。
もっとウエストがくびれたら‥‥とか。
- ──
- あ、見た目的に。
二村さん的には、
もっと軽くしたいという気持ちですか。
- 二村
- ええ、できうるかぎり軽くというのは、
ロケット屋が
つねに持っている問題意識です。
ただ、ビールの缶みたいに
クシャッと潰れてはいけませんから、
ギリギリまで削ることと、
絶対的な強度とのせめぎあいですね。
- ──
- でも、ほんのちっちゃなものまで含めた
約100万点の部品が、
すべて何らかの役目を果たしている、
そのことを思うと、
なにか、めちゃくちゃ胸が熱くなります。
- 二村
- ひとつでも欠けたら、飛びません。
- ──
- そのへんに置きっぱなしにしたら、
ダメですもんね‥‥。
- 二村
- そりゃダメです(笑)。
- ──
- 本社の入口に展示されている
ロケットエンジンを拝見しましたが、
人間の臓器みたいだと思いました。
さまざまな太さの配管が走っていて、
でもそれらが、
ひとつとして「飾り」ではなく、
ぜんぶ必要な管なんだよなあ‥‥と。
- 二村
- 血管であり、神経であり。
おっしゃるとおりかも知れないです。
- ──
- 無駄なものは、ひとつとしてない。
- 二村
- すべて大事な役目を果たしています。
- ──
- 宮大工の人が、
自分のつくった建物の屋根裏の梁に
大工道具を置いてくるとか、
そういう話を
以前、聞いたことがあるんですけど、
ロケットでは‥‥。
- 二村
- ありえませんね(キッパリ)。
- ──
- ですよね、失礼しました(笑)。
- 二村
- お国柄で、アメリカの場合、
打上げとか製造に関わった人たちが、
ロケットの機体に
自分らのサインをするという文化が
あるらしいですけど、
日本では、それすらゆるさないです。
- ──
- もう「インクが重い」みたいな。
- 二村
- 極端に言えば。
- ──
- 一機のロケットが飛んでいくまでに、
本当にたくさんの人たちが、
さまざま関わっているんでしょうね。
- 二村
- わたしたちはは、
ロケットに関係する人たちのことを、
パートナーと呼んでいます。
一機のロケットを飛ばすのに、
直接300社以上もの会社が関わって、
そこからさらに
関連会社に広がっていくんですが、
「俺は、わたしは、
このロケットのここをつくった」
という方々が、
本当にたくさんいらっしゃるんです。
- ──
- ええ。
- 二村
- ロケットというのは、
それらすべての人たちといっしょに、
飛んでいくんです。
- ──
- 誇らしいでしょうね。
- 二村
- ですから、あなたのつくった部品は、
こんな役目を果たしていますと、
なるべく説明するようにしています。
そうすれば、自分のつくった部品が
「たしかに、
ロケットの中で仕事をしてるんだ」
という実感を持ってもらえる。
- ──
- ええ、ええ。
- 二村
- わたしたちの要求するクオリティを
満たすことは、
決して容易なことでは、ありません。
だからこそ、
「あのロケットには、
自分の部品が役に立っているんだ」
という誇りを持っていただきたい。
- ──
- はい。
- 二村
- ほんの小指の先くらいの部品を、
つくってくださっている人もいます。
つまり‥‥そういうものの集合体が、
「ロケット」なんです。
(つづきます)
2019-05-02-THU
※二村さんは、2019年3月に
打ち上げ執行責任者の役職を退任され、
現在は、フェローアドバイザーとして
活躍されております。
キューポラ(観測窓)から撮影された係留中の「こうのとり」7号機 (c)JAXA/NASA
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN