「みんなの家」として設計するこの建物に
集まってくるのはどんな人たちでしょうか?
まず、1階の道場にやってくるのは、
もちろん合気道に励むお弟子さんたちです。
道場では年に数回、能の発表会も催されます。
またここは内田さんの私塾でもあるので、
講義や対談を聞きに
たくさんのお客さんが訪れるでしょう。
時に合気道のお稽古をし、時に能を舞う。
時に座布団に小さな机で勉強する。
つまり1階は、
身体と知性の両方を育むための
トータルな学びの場です。

客間として機能する2階のスペースには
合気道関係者や出版関係者、
神戸女学院大学の同僚や学生たちにOB、OG、
麻雀仲間まで、
種々さまざまな人たちがやってきては、
にぎやかな宴会が開かれます。

また、内田先生のご自宅でもありますから、
当然ご家族や親戚のみなさんも
訪ねてくることでしょう。

ということは、この建物には、

1:外に向かって開かれているパブリックな空間
  (学びの場としての道場)
2:友人や仕事仲間、教え子、など
  さまざまな人が自由に出入りする
  セミパブリックな空間(サロンとしての客間)
3:ご自身の研究・執筆などの知的活動のための空間
  (仕事場としての書斎)
4:そしてご夫婦のプライベートな空間
  (生活の場としての家)

という、性格のちがう4つのスペースが必要です。
この4つが同じデザインのもとに統一され、
大きなひとつ屋根の下で
かたまっているような建物にするのでは、
うまくないなと直感しました。
これだけ多くの人が利用し、
さまざまな営みが行なわれるのだから、
たとえば光り輝くクリスタル=水晶のように
数多くの面をもつ多面体の建築として
つくれないでしょうか?
もちろん実際に水晶のような形にする
ということではありません。
これら4つのスペースそれぞれに
形や大きさの異なる屋根を乗せ、
その屋根たちが寄り添うように建つ家。
そんなイメージが浮かぶと、
アイデアがどんどん広がりはじめました。

▲屋根の連なるイメージと
 道場内部のアイデア・スケッチ。

たくさんの屋根が寄り集まっているとはいっても、
密集していては心地よい環境になりませんから、
ところどころにガーデン・テラスをつくって、
光と風の通り道にします。
この光と風に誘われるようにして、
空間から空間へと、
まるで街なかの路地を散歩するように
家のなかを「みんな」が歩くのです。
天井は張らずに構造体の骨組みをそのまま見せて、
屋根の姿かたちが室内にいてもわかるようにします。
スペースごとに勾配や高さのちがう天井が連なることで、
ダイナミックに変化する魅力的な室内風景が生まれます。

また、何をする場所と決まっていない「余白」、
要するにムダなスペースや、
光があまり届かない暗がりも意識的に埋め込んで、
住む人が自由に過ごし方を発見できるように
工夫しました。
例えばセミパブリック・スペースを一望できるロフトは、
寝転がって本を読むのに
きっと最適な隠れ場になるでしょうし、
ガーデン・テラスに落ちる光は
客間にも寝室にも
ゆたかな表情を与えてくれることでしょう。

どこに光が当たっても綺麗に反射する
クリスタルのように豊かな表情をもち、
訪れる人だれもが自分の居場所をみつけられるような、
そんな家をぼくは頭のなかに描いていました。

▲敷地に合わせて、いろいろな屋根のパターンを
 小さな模型で検討。

次回につづきます。

2011-08-12-FRI
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