第3回 日本の人たちが持っているもの。
パトリック 今、糸井さんがインスピレーションを受けることって
どういったことですか?
具体的なことじゃなくてもいいんですけれど。
糸井 うーん‥‥そうですね‥‥
黙っている人の考え、みたいなことですね。
パトリック 「黙っている人の考え」。
糸井 はい。たとえば、
しゃべることを仕事にしている人たちと話していると、
その人たちが、ただしゃべり慣れている言葉を
繰り返しているだけのように思えるときがあります。
でも、ぼくが最近関わっている東北の人たちは、
そういう「しゃべるためにしゃべる」ような
言葉を持ってない。
きっといろいろと考えていることはあるんだけど、
口にせずに、黙って考えている。
そして、そんな人たちがふと口にする言葉って、
自然の景色の美しさとかと同じで、
ただ、風に吹かれているような言葉ひとつでも、
「‥‥ああ、聞いていたいな」って思わされるような
よさがあるんです。
ぼくは今、そういう人たちの言葉に、
一番インスパイアされてますね。
パトリック なるほど。
それを聞いて思い出したことがあります。
今度の「TEDxTokyo」に出てくださる講演者の方に、
斉藤実さんという方がいらっしゃるんですけれど、
斉藤さんは、単独ヨット航海の
世界記録をお持ちで、77歳なんです。
糸井 へーー。
パトリック 斉藤さんは自分ひとりだけしか乗ってないヨットで
これまで8回世界一周をされていて、
これからその9回目に挑まれようとしています。
彼は、航海されてきた距離も相当なものなんですが、
航海中はずっとひとりですから、長い間、
ずっと誰ともしゃべらずに過ごすわけなんですね。
糸井 ああ、そうですね。
パトリック その斉藤さんと話をしたとき、
彼の、雲についての話が素晴らしかったんです。
雲のかたちと、そのときの航海の話と。
その、斉藤さんにお聞きした話のことを
今の糸井さんの話から思い出しました。
糸井 そうか、そうだよね、
ひとりで航海しているときに
一番変化が見えるのは雲だもんね。
なるほど。
パトリック あと、斉藤さんが見た、
海の変化していく様子の話も素晴らしかった。
‥‥うん、それにしても、やっぱり、
なにしろ雲の話が最高でした。
こんなのが見えます、あんなのも見えます、
なんておっしゃって。
糸井 いいですね。
パトリック 「TEDxTokyo」でスピーチをしていただく方には、
まず、だいたいそれぞれ1時間程度、
私が直接お会いしてお話しするんですね。
その時間がいつも、もう本当に楽しいんです。
それは私にとって、最高の仕事でもあります。
斉藤さんにお話をうかがったときも、
ほんとうに楽しかった。
糸井 ヨットの上でひとり、雲を見ながら
斉藤さんが考えていることは、
まさに「黙っている人の考え」かもしれませんね。
「黙っている」からといって、思っていることや、
考えていることがないわけじゃない。
パトリック はい。
糸井 あの、これはぼくらの会社のことになりますけど、
ぼくらの組織は、たとえば会議の場で
意見を出し合うようなとき、
黙っている人をオッケーにしているんですね。
あえて意見をうながしたりも、しないようにしてて。
パトリック ほーー。
糸井 なぜかというと、そういった場面で、中身じゃなくて、
うまく表現できる人の意見が勝ってしまうというのは
よくないような気がしているからなんです。
だから何かを提案するときにも、
たとえばプレゼンということでいえば、
すごいプレゼンテーションの技術は、いらない。
パトリック ああ、なるほど。
糸井 話す人の気持ちが、話す内容と一致したところで
そのときはじめて話し合いたいな、といつも思ってて。
本人が理解する前に言葉にしてしまったり、
無理に伝えやすい話にまとめてしまうと、
実際にはもっと豊かなものが、
小さくなりかねない、というのもあって。
そうなるくらいなら、話す準備が整ってないときは
黙って何か自分の役割をしていればよくて。
なんでもいいんだけど、無理に話すより、
その場でぽつんと言ったことが、
なんだかよかったとか、
そういうほうがいいなあと。
会議の場ですごく主張したわけではない人が
黙ってやっておいてくれたことが、
後々みんなの役に立った、ということだって、
やっぱりものすごく多いし。
パトリック はい。
糸井 さきほど、日本の人たちのいいところの一つとして、
パトリックさんが「品」ということを
キーワードのように言ってくれましたよね。
その言葉のおかげで、今、ぼくも
とても理解しやすくなったんですが、
話し合いとか相談の場が
「すべての人が認められる場所」になるためには、
たぶんその場に「品」というものがあったほうがよくて。
もし何かを話し合おう、というときに、みんなが
「しゃべりの技術がうまいほうが勝つんだから、
 プレゼン能力こそが、何よりも大事」
と考えてしまうんだとしたら、
その場には「品」が足りないような気がするんですよ。
パトリック ああ、なるほど。
そうですね。
糸井 はい。
パトリック あの‥‥ただ、それはその通りだと思うんですが、
その上でひとつ、このごろ日本の人たちについて
私が考えていることがあるんですけれど。
日本だけでなく、アジア全体でもそうなんですが、
「本当は何かを言いたいと思っている人が、
 自分のアイデアに自信がなくて発言しない」
という場面に、私はときどき遭遇するんですね。
「言いたい気持ちもあるけれど、やっぱり、
 私のアイデアなんてつまらない考えかも‥‥」
そんな風に考えて、結局、言わないんです。
彼や彼女は、周りから見ると、
すごくいいアイデアを持っているんですが、言わない。
遠慮する必要はないし、本当は言えばいいんですよね。
いいアイデアは、みんなでシェアすればいいんです。
糸井 うん、それも、わかる。
パトリック そして、そういった日本の人たちの
自分たちのアイデアに対する「自信のなさ」が
もしかしたら様々な問題の
原因になっているかもしれない、と
私には、そんなふうにも思えるんですね。
日本の人たちが、自信を持てば、
それだけで解決する問題もけっこうあるんじゃないか。
これは、私がシェアしたい、ひとつのアイデアですね。
もちろんさきほど糸井さんが話されたこととの
バランスでもあるんですけれど。
糸井 うん、そうですね。
パトリック アメリカ人だと5歳くらいから
「Show and Tell(前に出て話してみよう)」
ということで、子供のときから
みんなの前に出て話す練習をするんですが、
日本人はプレゼンテーションの経験が
ほとんどないですし。
糸井 ああ、そうなんですよね。
日本の人は、そこのところは、慣れてない。
海外に行くような漁師の人とか、
外国の人と会って説明せざるを得ないという
経験をしている人は、
しゃべれたりするんですけど。
パトリック ええ。
(つづきます)
「TED」や「TEDx」のスピーチは、動画や、
配信される生中継でも見ることができます。
けれども、「TED」や「TEDx」の一番の醍醐味は、
実際にイベントに参加することだ、と
パトリックさんは強調します。

「『TED』や『TEDx』には、場としての面白さがあって、
 実際にイベントに参加すると、
 たくさんの人のさまざまな卓越したアイデアを
 シャワーのように浴びることができるんです。
 また、参加者たちのモチベーションが非常に高く、
 スピーチする人と聞く人の間に
 とてもよい相互作用が生まれます。
 また、ひとつひとつのスピーチは、
 あえて流れをつくらずばらばらの順番で並んでいます。
 これによって、アイデアのひらめきが
 生まれやすくなっていると私は思います。
 実際に『TED』や『TEDx』に参加すると、
 そこにいる人たちが互いに
 インスピレーションを与え合っているような、
 動画を見るだけではわからない
 おもしろさを体験できると思います」

また、パトリックさんが日本の人たちに
「TED」の魅力を説明するときに
よく例として出すのが、「東急ハンズ」なんだそうです。

「『東急ハンズ』では、日用品から工具、
 文房具から台所用品まで、
 いろんなおもしろいものを売ってますよね。
 フロアによって売ってるものはさまざまだけど、
 お店全体をぐるりとひと巡りすると、
 さまざまなインスピレーションを受けます。
 そして、お店の出口から出てくるときには、
 なんだか、元気になっている。
 『TED』や『TEDx』のイベントも、それに似ています。
 そこにいるとさまざまな刺激を受け、
 無意識にたくさんのヒントをもらえる。
 そして、イベントが終わって帰るときには
 なんだか元気になっている」

イベントが終わる頃には、
ひとりひとりの参加者全員の頭の中に、
予想もしなかったひらめきがたくさん生まれている。
「TED」というのは、そういう「場」なんだそうです。

(次回につづきます)
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2012-07-05-THU
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