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たびのおわり。
みつぼし村に行かなくなったのは
旅行に行く当日の朝のことでした。
その日からおそい夏休み(すごい遅い!)を
とる予定だったぼくは
早朝やっとできあがったパッキングのなかに
3DSを入れようかどうしようか、
かなり迷いました。
持っていけばきっと飛行機の中でも楽しめるし、
ちょっとした時間にもみんなに会える。
それから、異国の地での「すれちがい」も、
きっと、あることでしょう。
考えてみると「たのしいだろうなあ」と
いうことばかり浮かぶのですけれど、
ぼくはけっきょく「やっぱり、やめよう」と思いました。
ぼくのいつもの旅のスタイルで、
今回の夏休みも、知らない場所に行って
(まあ、なじみになっちゃった場所もあるけれど、
今回は国も都市もはじめてでした)
市場に買い物に行き、自炊をして過ごす、
という、みじかい暮らしを楽しむつもりでした。
いつもの暮らしなら、いつものように
どうぶつたちも連れて行っていいのかもと、
もういちど迷ったりもしたのですけれど、
それでもけっきょく
「やっぱり、やめよう」と決めたのでした。
みんなに会っておしゃべりしたり、
ものを売り買いしたり、いっしょに遊んだり、
ときどきなんだかよくわからない
ひどい目に遭ったりするのも、
それはそれで(つまり、心の動きとしては)
ちゃんとした「経験」だと思うのです。
それを否定するつもりはないんですけれど、
毎回、ぎりっぎりまで自分を追い込むように楽しむ
ぼくの旅のスタイルには、
日本のテレビ番組が不要だということと同じように、
また、せっかく持っていった小説ですら
まるで読まずに戻ってきたりするように、
「きっと、はんぱなつきあいになっちゃうだろうな」
と思ったのでした。
といって電源をぶちっと切ってしまうのはしのびなく、
ぼくは、自宅の(みつぼし村の、です)
2階にある寝室に行き、
いくつかある電灯を消して、
ベッドのうえにごろんと横になりました。
そうすると、すぐに「シェフくん」は
目をつぶってすうすうと寝息をたてはじめました。
布団くらいかけたらいいのに、
と思うんだけれど、
彼はいつもめいっぱい遊び回っているので、
ベッドに横になったとたん、
こんなふうにバタンと眠ってしまうのです。
ぼくが(ぼくって誰だ?)起こさない限り、
目をさますことはありません。
そうして、USBのコードをパソコンにつなぎ、
充電が切れないようにした状態で、
ぼくは旅に出たのでした。
あ、思い出した。
せっかく育てた交配種のきれいな花々が
枯れてしまうのはもったいないと、
せっせ、せっせと摘んで、
ロッカーにしまったのでした。
ロッカーは散水機能つきの
温室みたいなものなのでしょう、
ここに入れておくと枯れないんです。
いろいろ謎なんだけれど。
旅に出ているあいだは、
すっかりみつぼし村のことを忘れていました。
「みんなを連れてきたほうがよかったなあ」
とも思わなかったし、
「ああ、こんな暇な時間があるんなら
みつぼし村に行きたいなあ」
と思うこともありませんでした。
それくらい、いつものように旅は慌ただしく、
あたらしいものばかりが目や口に入ってきました。
東京に戻ってきて、部屋の電気をつけ、
荷物を片づけて風呂に入ったあと、
3DSを何気なく開いてみました。
たのしみにしていた、というよりも、
ほんとうに何気なく。
あいかわらず「シェフくん」はベッドのうえで
すうすうと寝息を立てていました。
村に出てみると、いつもの顔があって、
「久しぶりじゃねえか!」
「どこ行ってたのよ」
というふうに、みんなが心配をしてくれました。
それはとてもうれしいことでした。
そんなに「かくも長き不在」ではなかったのですが
あちこちに雑草が生えていて、
摘んでおかなかった花は枯れたり、
あるいは誰かが水をやってくれたのかな、
元気に咲いていたりもしました。
なにかちょっと違うかもと思って気がついたのは
不在のあいだに順々に
紅葉がはじまっていたことくらいでした。
ちょっと心配だったのは
村いちばんのともだちの「ボルシチ」が
引っ越してやいないかな?
ということだったのですが、
彼はちゃんと、橋を渡った一件目の、
海を見晴らす崖の上の一軒家に住んでいました。
ひととおり村をまわって、みんなに挨拶をし、
ちょっと海で遊んだりして
(崖から飛び込むのが好きなのです)、
夜になって戻ってくると、
ぼくはまた自宅の2階にあがって、
ベッドに横になって、目を閉じました。
そして3DSをぱたんと閉じました。
これがぼくの今回の「おわりかた」でした。
きっとまた、ふと開けることがあるとは思います。
なにしろずっと机の上に出しっぱなし、
みつぼし村はそのあいだも、
刻々と時間が過ぎているのですから。
ボルシチもたいへいたも、
あいかわらずたのしく過ごしているはずです。
みんなより遅く(途中参加でした)始めて
遅く終えたわけですけれど、
どの村にもおなじように時間が流れている、
ということを考えるだけで、
「だいじょうぶ」って思えます。
これは、旅から戻ってきて、
つい数日前までいた場所のことを
思い返すのに、とてもよく似ています。
そっか、みつぼし村に行くのは
ちっちゃな旅立ったのかもしれません。
ちなみに「ハッピーホームデザイナー」のほうは、
急(せ)いて事業を進めたので、いちおうの
「エンディング」を見ることができました。
最後に、よく知っている名前が出てきたとき、
ずいぶんとあたたかな気持ちになったことを
よくおぼえています。
たぶんそのとき、ぼくの
「ハッピーホームデザイナー」は
はっきりと終わったのだと思いますが、
これはこれで「終わらない世界」なので、
またひょいと遊びに行こうかなと思っています。