サンミュージック・リッキー社長「人の面倒を見ていたら、社長になっちゃいました」 サンミュージック・リッキー社長「人の面倒を見ていたら、社長になっちゃいました」
カンニング竹山さんやダンディ坂野さんなど、
数多くの芸人から「恩人」として名前が挙がる、
芸能事務所サンミュージックの社長・リッキーさん。
今回、リッキーさんの半生を綴った一冊、
『サンミュージックなお笑いの夜明けだったよ!』の帯を
糸井重里が書いたご縁で対談が実現したのですが、
じつは、糸井がリッキーさんと最後に会ったのは、
もう40年近く前のこと。

1982年、『ザ・テレビ演芸』で結成2年目にして
チャンピオンに輝いた当時の「若手芸人」リッキーさんと、
その姿を「審査員」席で見ていた糸井。
「あのときの若者」が、たくさんの若手芸人にとっての
「恩人社長」になるまでの人生模様を、
糸井があっちからこっちから面白がりました。
役者志望だった若者時代、変わりゆく夢、
そして、後輩たちに伝えてきた「たったひとつ」のこと。
全7回でお届けします。
第4回 二枚目と三枚目、「どっちもできる」人。
糸井
「役者志望だった若者」が、
芸人に挑戦して1年で
お笑い番組のチャンピオンになっちゃうって
ものすごいことだと思うんですけど、
とはいえ「役者」と「芸人」って、
やっぱり、全く別の世界ですよね。



なんというか、食えてたんですか、そこから。
リッキー
なんか‥‥仕事はありましたね。
糸井
おおー。それはすばらしいですね。
リッキー
あの、それは僕らがどうこうと言うより、
芸人としての最初のキャリアを積ませてもらった
人力舎という事務所が、本当に面白い会社だったんです。



玉川社長という、もう亡くなってしまった先代の社長が、
本当に昔ながらの、
ストリップとかキャバレーのフロアショーから
仕事を起こした人なので、
そこはヌードダンサーもいれば、曲芸師もいれば、
お笑い芸人もいてという、そんな場所だったんですね。
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糸井
まさしく「人力」ですね。
リッキー
はい。そんな会社だったんで、
本当にいろんな仕事があったんですよ。



夏祭りとか秋祭りとか、
けっこうちっちゃな神社のお祭りにも、
行ったりしてました。
数十人程度の人が来るお祭りとかでもね、
当時でも5万とかギャラが出たんですよ。



「今日は2回まわしで」とか言っても、
15分や20分芸をやって、あとはお祭り見て帰って
ギャラ5万もらえるわけですから、
そういう仕事もたくさんやってました。



あとは、圧倒的にお店仕事も多かったですね。
いわゆる、ショーを入れるお店が。
そういうところに呼んでもらって、
飛んでいって、芸をするという。
糸井
なるほど。



つまり、人力舎の強さは、
「どっかちょっとしたスペースさえあれば、
俺たちはどこでも仕事できるぞ」
ということだった。
リッキー
あ、ほんとそうですね。
糸井
「小屋」が必要じゃないっていう。
リッキー
はい。お笑い芸人のなかにも、
僕らみたいにどこでもできるようなタイプの芸人と、
もうちょっと芝居寄りというか、
芝居小屋のようなちゃんとした場所が
必要なタイプの芸人がいるんです。



たとえば、
大竹まことさん、きたろうさん、斉木しげるさんの
シティボーイズなんかはやっぱり、
もうちょっとおしゃれというか、
芝居のほうに寄った芸人さんというか。
糸井
ああー、なるほど。
ちょっと、その時代に戻って
芸人さんたちを分けてみたいですね。
「小屋がいらない人たち」と、「小屋が必要な人たち」。
リッキー
「小屋が必要な人たち」って、
ものすごくかっこいいんですけどね。



でも、僕らみたいな場所を選ばない芸人の
いいところは、どこ行っても芸ができるから、
営業仕事がたくさんあるわけです。



神社だろうが、デパートの屋上だろうが、
ちゃんとした劇場であろうが、
スペースがあればどこでもお笑いができる。
東京からスキー場に向かう深夜バスで
営業したこともありましたから(笑)。
糸井
食いっぱぐれなかった理由が
「どこでも仕事できたから」というのは、面白いなあ。
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リッキー
あと、もうひとつ、「役者」と「芸人」って、
じつは表現者としてはある意味、
「同じ表現」をしているんです。



あの、お笑い芸人がやってることって、
やっぱり「芝居」なんですよね。
糸井
ああー、そうか。
リッキー
うまい漫才って、
その人が素でしゃべってるように見えるんですけど、
あれもじつは、ちゃんと、その漫才の役を演じてる。



役に限りなく「自分」を混ぜ込ませてますけど、
あれは紛れもなく「芝居」で。
糸井
たとえば、錦鯉の長谷川さんなんかも、
漫才でものすごく強いキャラクターをやってますけど、
あれもやっぱり、
ひとつの「役を演じてる」わけですよね。
リッキー
そうです、そうです。
もうみんな、「そういう人だ」と思って観てますけどね。



だから、演技の世界でも活躍している芸人って、
今もたくさんいますよね。
「いやー、俺は芸人やから芝居なんてなぁ」
なんて言いながら、けっこうみんな、
器用に芝居するじゃないですか。



あれって、やっぱり漫才やコントも、
「芝居」だからなんですよ。
糸井
なるほどー。つまり、
「役者」と「芸人」は行き来ができる関係性なんだ。
リッキー
はい。
ただですね、ここでちょっと面白いのが、
「役者と芸人を行き来できる人」と「そうでない人」、
じつはここもまた、分かれてくるんですよ。



これ、
「役者の生理」を持ってる人と、
「芸人の生理」を持ってる人の違いだと、
僕は考えてるんですけど。
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糸井
「役者の生理」と「芸人の生理」。
リッキー
役者の世界では、
「台本を読み込んで、この役になりきれ」
とよく言われるんですよ。
この「役になりきる」というのが、「役者の生理」です。
糸井
はい。
リッキー
一方、「芸人の生理」というのは、
「役を演じるなかで、いかに自分を出すか」なんですよ。



「自分を消して役に入り込む」人と、
「役のなかに自分を混ぜ込む」人。
これは表現者として、全く違うアプローチなんですね。
糸井
ああ、全然違いますね、それは。
リッキー
わかりやすい例を出すと、
竹中直人なんて役者は、
まさに「芸人の生理」の人だと僕は思うんですね。



「竹中直人がやる織田信長」であったり、
「竹中直人がやる太宰治」であったりというのは、
やっぱり「竹中直人が7割」だと思うんですよ。
糸井
役を演じつつ、常に「自分」を残してる方ですね。
リッキー
あの人もそれこそ、役者を志しつつも、
学生時代に『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」で
チャンピオンに輝いていたり、
『テレビ演芸』でもグランドチャンピオンになってたり、
コメディアンとして注目を浴びたあと、
役者の世界に活躍の場を広げていった人で。



つまり、何が言いたいかというと
漫才やコント、喜劇ができるような、
「芸人の生理」を持っている人間というのは、
お笑いもできれば、お芝居もできる。
どっちもいけるんです。
糸井
両方いける。
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リッキー
ただ、「役者の生理」を持っている人が
お笑いもできるという逆のパターンは、
ほとんどないんです。



お芝居だけの人って、
「いやー、コントはちょっと苦手なんですよ」
って言うんですけど、そういう人はたぶん、
自分は「役に自分を混ぜ込む」なんてことはできないし、
やるつもりはないっていう生理が働いてるのかなって
僕は思ってるんですね。
糸井
はあー、面白い。
リッキー
で、僕はというと、もちろん後から思えばですけど、
もともと役者をやってたときから
「芸人の生理」の人間だったんですね。



ひとつ、それを象徴するエピソードがあって、
役者さんって、もう本気で役になりきろうとするから、
本番直前ともなったら、
「今しゃべらないでくれ」っていう空気になる人が、
けっこういるんです。
僕、あれがちょっと苦手で。



芸人は全然逆で、直前まで舞台の袖で、
「えー、今日どこ行く」
「ああ、あそこいいね、ほんでほんで」
「あ、もう出番が、じゃあね」っつって、
時間になったらそのまま舞台に出ていくわけです。
糸井
ああー。「役に入る」必要がないから。



僕、そのまんまの話を、
俳優の仲代達矢さんに聞いたことがあります。
仲代さんと萩本欽一さんが一緒に舞台をやったとき、
萩本さんは出番の直前まで、
舞台の袖でずーっと違うことしゃべってるんだと。
リッキー
(笑)
糸井
「それが、本当に困るんだ」と(笑)。
でもいざ舞台に上がったら演技できちゃうから、
困ると言うわけにもいかないし、
むしろ憧れるって言ってましたね。
リッキー
まさに、それが「芸人の生理」ですね。
芸人は本当にみんな、
出番ギリギリまでしゃべってます。



僕も、もともとそっち側の人間だったからこそ、
お笑いの世界にもスッと入れたんだろうなというのは、
けっこう実感としてありますね。
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糸井
お聞きしていて思ったんですけど、この話って、
「二枚目と三枚目の違い」とも似てますね。



たとえば、僕、矢沢永吉は、
「二枚目」ではなく、「三枚目」だと思ってるんですよ。
リッキー
ああー。
糸井
あの人は、自分でも言ってますけど、
ちっちゃいときからずっと、
人を面白がらせて笑わせてるような人なんですって。
だからこそ、胸張って「二枚目」をやれてるんですよ。



「矢沢かっこいいだろう」って言ってる矢沢は、
「三のほうの自分」、
つまり、「面白いことしてやろう」という
自分がベースにあって、
あくまで「面白いこと」として
「二のほうの自分」をやってるんです。
リッキー
いやあ、とてもわかります。



「二枚目」の人は「三枚目」にはいけないけど、
「三枚目」の人は「二枚目」にいけるっていう。
糸井
そういう、
「こっちからなら、両方行けるぞ」というのは、
いい発見ですよね。



そして、本当に面白いスターって、だいたい、
「三枚目」から「二枚目」に行ってる人なんですよね。
写真
(つづきます)
2024-05-18-SAT