山下さん |
最後にひとつ、 よろしいでしょうか。 |
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糸井 | もちろんです。 |
山下さん |
最近すこし指摘されていることなんですが、 人間の心理として、 大災害や緊急事態が起きると、 「自分は大丈夫だろう」 「私は助かる」 「そんなにたいしたことない」 と思いたがる傾向があるそうなんです。 |
糸井 | ほぉ、そうなんですか。 |
山下さん |
『正常化の偏見』といって、 「きっと自分は大丈夫」と、 正常なほうに考えを寄せてしまう。 東日本大震災でも、 津波警報が出ているときに 「きっと大丈夫でしょう」と、 海に近づいてしまう人がいたそうです。 |
糸井 | ああ‥‥。 |
山下さん |
「大丈夫であってほしい」 という願望を込めているうちに、 「大丈夫」を事実として思い込んでしまう。 |
糸井 | そういう習性が人間にはあるんですね。 |
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山下さん |
そのようです。 ですからいざというとき、 客観的で正しい見極めができるように、 普段から複数で話し合って 「このレベルの災害では、ここまでやろう」 と決めておいたほうがいいと思います。 |
糸井 |
それはもう、 まったくその通りですね。 |
山下さん |
話し合って、 それぞれが頭で想定しておくだけでも だいぶ違うので。 |
糸井 | うん。 |
PRさん | 書いておくと、もっといいですよね。 |
山下さん | そう、手帳にメモしたりね。 |
糸井 |
なるほど。 話し合っておく、 言葉に出しておく、 書きとめておく。 これ、そんなに手間じゃないですよ。 |
PRさん | ええ、たぶん誰でもできることです。 |
山下さん |
たとえば自分が海に近い家に住んでいたら、 10メートルクラスの波がきたとき どうしたらいいだろう? ということを話しておくだけで、ちがいます。 「ダッシュであそこの丘まで逃げよう」とか。 |
糸井 |
逃げる方法についての相談は、 とくにしておいたほうがいいですね。 「すこしでも高いところへ走ろう」 |
PRさん |
今回、津波で被災したある地域に、 「人のことをかまわず全力疾走で逃げる」 という防災訓練をしていた学校があったんです。 それで、あの震災の日‥‥ 全力疾走で逃げる子どもを見て、 大人たちもよくわからないまま 一緒に走って逃げだしたんだそうです。 |
糸井 | ああー、なるほど。 |
PRさん |
危機的な状況では、 率先して自分の命だけを守る行動に出るのが いちばんいいらしいです。 |
糸井 |
「なりふりかまわず逃げよう」と 子どもたちが決めていたおかげで、 周囲の大人も助かったとも言えますよね。 |
PRさん | そうですね、言えると思います。 |
糸井 |
「こういうとき俺は逃げるぞ、 だからお前もちゃんと逃げろ」 その話をしておく必要がある。 |
山下さん | はい。 |
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糸井 |
なるほど‥‥。 安否確認についてもそうでしたけど、 きょうは何度となく 「ちゃんとしゃべっておきましょう」 という話になりました。 |
山下さん |
そうですね、 いざというときのことをイメージして、 話し合いをしておく。 |
糸井 |
震災が起きたらどうするか、 その話し合いをしておこう。 これが、 きょういちばん重要な部分のようですね。 |
山下さん | 話し合いをしておく。 |
PRさん |
結局、震災への備えっていうのは、 そういうことですよね。 |
糸井 |
そうですね、 そういうことです。 しゃべって、知ることが、 そのまま災害対策になっていきます。 |
山下さん |
そして、 ほんとうにいざとなったら、 事前に話し合っていたことに縛られず、 柔軟に行動していくゆとりも大事ですよね。 |
糸井 |
もちろん大事です。 ですから、 「柔軟性も重要だよ」ということも やっぱり同じように話し合っておきましょう、 ということですよね。 |
山下さん | はい。 |
糸井 |
ええと‥‥ そんなところでしょうか。 |
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山下さん | そのようですね。 |
糸井 |
うん、 すごくよかったと思います、 このやわらかさで伝えられたら。 |
山下さん | お役に立てたのかどうか。 |
糸井 |
もちろんです。 ぼくはもう、最近ますます NHKさんが好きになりました。 |
山下さん | ありがとうございます(笑)。 |
糸井 |
もともと好きじゃないですか。 そこにきて最近の落ち着いた報道があって、 ツイッターでは独自の判断で情報を流して。 最初にも言いましたけど‥‥ いや、いいですよねぇ。 |
PRさん | ありがとうございます。 |
糸井 |
すてきなPRさんは、どうですか? なにか最後に。 |
PRさん |
はい‥‥。 とにかく時間がかかるので、 ハイテンションだと続かないです、 ということは申し上げておきたいです。 |
糸井 |
そうか、 神戸の経験があるとなおさらですね。 |
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PRさん |
神戸の長田区という、 いちばん被害の大きかった場所が 行政による区画整理をずっとやってきて、 それが終了したのがことしの3月です。 |
糸井 | そうなんですよねぇ。 |
PRさん |
3月に、やっと行政が終わったんです。 普通の会社のほうは まだ終わってないところがいっぱいあります。 |
糸井 | ものすごいですね。 |
PRさん |
16年経ってその段階です。 今回の東日本大震災は、もっとでしょうから。 |
糸井 |
もっとですよ。 ‥‥そう、長期になります。 気持ちを張りつめすぎると、 そのことでまいってしまいますね。 |
PRさん | はい。 |
糸井 |
‥‥うん。 いや、きょうはありがとうございました。 |
山下さん | こちらこそ、ありがとうございました。 |
PRさん | ありがとうございました。 |
糸井 |
きょうのNHKさんとのお話を受けて、 うちの会社は災害対策をどうするのか、 その話し合いを、みんなでしてみます。 |
□人間は「自分は大丈夫」と思い込む
心理的な傾向があるので、
普段から複数で話し合い
「このレベルの災害では、ここまでやろう」
ということを決めておくべき。
□震災が起きたらどうするか、
その話し合いをしておくことが最も大事。
(NHKの方とのお話はここまで。
株式会社糸井重里事務所での、
実戦編へ、つづきます)