第1回 ほぼ日作品大賞の 審査を終えて。  7人の審査員による終了直後の座談会
ほぼ日刊イトイ新聞が開催した はじめての本格公募企画「作品大賞」は、 3000以上の応募作を集め、 先日、すべての審査行程を終えました。 大賞をはじめとする入賞作品は、 こちらのページでお知らせしているとおりです。  さて、ここでは、たのしくもむつかしい、 そんな審査を終えたばかりの審査員7人が、 自由に語った座談会をお届けします。 なにせ、ご覧の蒼々たる顔ぶれですから ほかに例を見ない刺激的なやり取りになりました。
第1回
審査を終えたばかりの7人が、
まずは大賞作品について語り合います。
2010-08-26
第2回
さまざまな視線から、
金賞と銀賞の作品が選ばれました。
2010-08-27
第3回
特別賞に輝いた異色作品。
そして、個人賞に理屈は要らない?
2010-08-30
第4回
第1回目となる「作品大賞」の
審査を終えて、いかがでしたか?
2010-08-31

糸井 審査員のみなさん、
どうもありがとうございました。
えー、栄えある第1回の大賞は、
「カンカンバッチ」に選ばれました。
一同 (拍手)
糸井 いやぁ、難航するかと思ったんすが、
予想以上にたのしい審査でしたね。
それでは、審査のまとめを兼ねて
みなさんからコメントを
いただいていきたいと思います。
まずは、やはり、大賞作品。
「カンカンバッチ」についてお願いします。
では、そうですね、大賞作品の候補として
真っ先にこの作品を挙げた大熊さん、
いかがでしょうか。
大熊 ぼくは、最初の書類選考の段階から
この作品が一番いいなぁと思っていて、
実物を見るのをたのしみにしてたんです。
それで、今日見てみたら、
あらためてかわいいなぁと思いました。
今回は、作品大賞の第1回目ということもあって、
「作品」というものをどうとらえるか、
ということをすごく意識していたんです。
それで、ぼくが勝手に思っていたのは、
作品のなかにきちんと手仕事の痕跡が残っていて、
なおかつ、商品性もあるというもの。
糸井 なるほど。
大熊 そのうえで、ぼくは仕事柄、
ふだんからものをいろいろと見ているので
見慣れたものとは違うものを
選びたいなと思ってたんです。
そういった観点から、
この「カンカンバッチ」は
第1回目の大賞作品として
自分のなかではベストだと感じたんです。
さまざまな端材や素材を組み合わせてあるから
「一点もの」の要素もあるし、
見るたのしさ、選ぶたのしさ、
買うたのしさがある。
あと、単純なはなし、これを見たときに、
「かわいい」とか「おしゃれだなぁ」と思いました。
それが、本当の意味で
決め手だったのかもしれませんね。
糸井 ありがとうございます。
かれんさんも、この作品を
最初から推薦されてましたけど、
いかがですか?
桐島 私も、書類審査の時点で
これが一番だと思っていて、
実物を見て、やっぱり「かわいい!」と思いました。
かわいいだけじゃなくて、
素材としてもとってもよいものを
使ってらっしゃいますよね。
私は外国でいろんな素材を仕入れるので
たまたま知ってるんですけど、
たとえばこれはミャオ族のものだし、
これはタイのリス族のポンポンだし‥‥。
キッチュだけど、玩具っぽくない。
エントリーのときに提示されている
値段も手頃な感じだし、
私はこれ、売ってたら買っちゃいますね。
あと、全体に言えることですけど、
作品としてどれだけ完成されていても、
人を魅了させたり、驚かせたりする
サービス精神の要素がないと、
なかなか惹かれないんです。
この「カンカンバッチ」にはちゃんと、
そういう心が宿っているような気がします。
自己満足に終わっていないというか。
糸井 こづえさんはいかがでしたか?
ひびの まず、ビジュアル的に、
パッと目をひいた作品でした。
で、欲しいというよりは、
どちらかというと、私の場合、
「自分でもつくってみたい」って思ったんです。
糸井 ああーー。
ひびの 資料を読むと、ケーキカップを潰して
素材にしてあるって書いてあったので、
なおさら、やってみたいなって。
女性どうしのユニットだということですが、
彼女たちのほかの仕事にも興味がわきました。
空間プロデュースをやっているそうなので。
ワークショップなんかも見てみたいですね。
個々の小さい作品じゃなくて、
全体として広がる様子が、
なんだかおもしろそうです。
今までにこういうの、
見たことがないですからね。
桐島 ほかの作品はたしかに見たいですね。
バッグなんかもつくってもらいたい。
ゴテゴテな方向に行っちゃうのか、
絶妙にかわいいものを作るのか、見てみたい。
ひびの アトリエがあるなら
そこにも行ってみたいですね。
糸井 つまり、この応募作品にとどまらない
世界観があるんですよね。
ひびの そう、そう。
あとね、よく見ると、
細かいところの仕上げも
すごくきちんとしてるんですよ。
ちゃんと始末とかも考えてあるし。
桐島 素材自体はエスニックなんですけど、
その方向だけでベタに仕上げてないから、
ポップな感じがするんですよね。
糸井
うーん、こんなに
褒められてみたいものだなぁ(笑)。
一同 (笑)
糸井 大橋さんはいかがでしたか?
大橋 じつをいうと私、
最初は気に掛けていなかったんです。
メキシコなんかのお土産屋さんで
売っているようなものを連想してしまって、
細部まで詳しく見ようとしなかったんですよ。
だから、みなさんの話をうかがって
あらためて見直して、
よさに気づいたという感じです。
大熊 たしかに、第一印象としては、
メキシコやアジアのお店に
ありそうな感じがしますね。
でも、そこをすごくモダンに、
今っぽく仕上げて、
編集し直している感じがある。
大橋 そうですね。
あと、私が、いちばん感心したのは、
ケーキのカップという身近なものを、
潰して、形を変えて、
こういう作品に仕上げるということを、
思いついて実際にやっちゃったということです。
こういうことって、
これから作品をつくっていく人たちには、
すごくいいヒントになったんじゃないでしょうか。
だから、みんな、思いついたことを、
もっとドンドンやってみてもいいんじゃないかって、
そんなふうに思いました。
ですから、最終的な感想としては、
この作品が大賞になるのは
すごくいいと思っています。
変な言い方ですが、勉強になりました(笑)。
糸井 ありがとうございます(笑)。
じゃあ、卓さん、いかがでしたか?
佐藤 この作品、ぼくは最初に選んだ
10作品のなかには選んでいて、
それを5つに絞り込む段階で
落としてしまったんですね。
(審査は、7人の審査員が
 それぞれ5つ前後の作品を選んで投票し、
 1票でも入った作品をもちよって
 あらためて全員で話し合う
 というかたちで行われました)
そこのぎりぎりのところにある、
妙にひっかかる作品だった。
で、一通り自分で選んだあとで
みなさんの話を聞いて、
ああ、やっぱり、ほかの方のなかでも
「ひっかかる」作品だったんだなと
ちょっとうれしくなりました。
作品についてもう少し深くいうと、
この「カンカンバッチ」という作品には
計画性と偶然性の両方があって、
そのバランスがとてもいいと思うんです。
そして、どちらかのバランスでいえば、
偶然性のほうに少しだけウェイトがある。
そのわずかな偏りが、
とっても魅力的なんじゃないでしょうか。
糸井 なるほど、なるほど。
そのあたりはちょっと「今っぽい」というか。
佐藤 そうですね、偶有性とか偶然性って、
今、とても大切なことになってきているから。
糸井 うん。
佐藤 あと、この作品って、基本的な構造として
「威厳のある勲章」の形をとってますよね。
糸井
そうですね(笑)。
お菓子のカップでつくっていながら、
わざわざ威厳とか権威の象徴である
勲章という形をとっている。
そのあたりは、ピストルズの
『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』なんかと
通じるような感じもしますね。
佐藤
そうなんです。
権威の象徴である勲章なのに、
親しみやすくて、きれいで、
かわいくて、たのしい。
チープな感じが、とってもいい。
あと、なんていうか、
これは自分にはできないなぁっていう、
清々しさみたいなものもあるんです。
これはね、やられました(笑)。
糸井 そうですねぇ(笑)。
それでは細井さん、お願いします。
細井
書類審査のときに、
この作品の存在はすごく印象的だったんです。
でも、この作品を審査の
ものさしの基準にしてしまうと、
他の作品が計り切れなくなってしまう、
というふうに感じて、
どちらかというとぼくは
ノーマークにしていたんです。
糸井 あ、わかります。
ぼくもじつはそういう感じでした。
細井 そうでしたか(笑)。
それで、実際に今日、
現物をはじめて見たんですけど、
写真で見るよりもすごくインパクトが強い。
あと、表現が難しいんですが、
この作品の持つ「儚さ」のようなものに
すごく惹かれました。
つまり、この作品って、
たとえば同じ素材と同じ生地を集めて
同じ作者の方がつくったとしても、
たぶん、同じものは二度とできない。
だから、もしもこの作品、この商品が
どこかの街の、どこかのお店で
売られていたとしたら、
見かけたそのときに買わなかったら、
もう二度と出会うことができないはずです。
そのあたりの「儚さ」というか、
一期一会な感じがすごく魅力的で、
「出会ったからには、
 これを気に入った私が買わなくちゃ」
っていう気持ちにさせる
作品なんだろうなと思います。
糸井 うーん、なるほど。
やっぱり、売場からの視点を
強く感じる意見ですね。
細井 (笑)
桐島 でも、実際には、こういう作品は
ロフトには置けないですよね?
細井 うーん、そうですね、
絶対置けないわけじゃないですけど、
基本的に、同じ形で、
同じ質の商品がつくれないと、
なかなか難しいですよね。
大熊 ぼくがやらせてもらっている
パルコのお店(CLASKA/DO渋谷店)なんかだと、
すぐに売れるんじゃないかな。
桐島 私、見つけたら、きっと買っちゃいますね。
糸井 つまり、仕入れる人って、買う人なんだね。
「買う欲」のちゃんとある人がやってるんだね。
桐島 買って応援したいって気持ちがありますね。
だから、かわいいなと思ったら絶対買う。
糸井 仕入れるっていうより、
まさに「バイヤー」なんだ。
大熊 買ってしまいますねぇ(笑)。
糸井 自分が買わなかったら誰が買うんだ?
みたいな(笑)。
中古レコード屋をめぐるおじさんと
同じような理屈に。
桐島 そのとおりなんですよ。
でも、自分がひとつ買うことで、
また職人さんが作ってくださる。
そう思うと、応援のしがいがあります。
糸井 そう言われるとよくわかりますね。
ええと、それじゃ、ぼくから。
あの、正直にいうと、ぼくは、
この作品だけでなく、この手の、
手芸っぽい応募作品に対して
ちょっと距離をおいて見ていたんです。
それも、終わってからわかったんですが、
どうしてもぼくは、
ひとりの個人としての審査だけではなく、
この「作品大賞」という企画の
主催者としての目線が入るんですよ。
佐藤 あー、なるほど。
糸井 だから、どうしても、
「つぎに開催したときに、こういう作品が
 たくさん来るとどうなるか?」
っていうことを心配してしまう。
それで、もちろんぜんぶじゃないですけど、
手芸っぽい作品は、ちょっと遠くから
眺めていたようなところがある。
ただ、この「カンカンバッチ」は
ちょっと違っててね、じつは、
大賞が決まってから、さっき聞いたんだけど、
ぼくはこれをつくった人たちが
舞台美術をしてたときに
会って話をしたことがあるんですよ。
大熊 そうなんですか(笑)。
糸井 そうなんです。審査のときには
ぜんぜん気づかなかったんだけど。
しかも、その子たちのことは
けっこう気に入ってた(笑)。
一同 (笑)
糸井 たしかに力のある子たちだったんですよ。
それにすぐ気づかなかった自分は
ちょっと悔しいんだけど、
ちゃんと見いだしてる審査員のみなさんを
すごく頼もしく、うれしく思いました。
ほんと、勝手な感想なんですけど(笑)。
いや、でも、ほんとうに、
うれしい大賞でした、これは。
細井 あの、次回、これに似た作品の応募が
たくさん来るかもしれないっていう
糸井さんの心配もわかりますけど、
これは、きっとつくれないと思いますよ。
大熊 そう。微妙なセンスが必要ですから。
なかなか、一筋縄ではいかないです、これは。
糸井 うん、実物を手にとるとわかるんですよね。
一見、「わたしにも作れる」と思わせるけど、
よく見ると、じつはつくれない。
ひとことでいえば、センスでしょうね。
桐島 センスがいいんですよね、ほんと。
で、よすぎるから、
メジャー路線ではない。
糸井 ああ、たしかにメジャー路線では
ないかもしれないですね。
これ、ねぇ‥‥(ゴソゴソ)。
大橋 (糸井がバッチを胸につけたのを見て)
あら、すてき、すごーい(笑)。
つけてらっしゃると、すごくいい。
桐島 やっぱり、かわいいです(笑)。
糸井 なんか、自分がかわいい
って言われたような気さえするね。
一同 (笑)
大橋 ふふふふふ。
ひびの やっぱり、私もこれ、買っちゃうな。
桐島
ああ、そういえばこれ、
(ひびのさんのつくる)舞台衣装に
つけたりしても似合いそうですね。
ひびの そうそう。
糸井 まいったね。
こんなに褒められてみたいもんだ(笑)。
一同 (笑)
佐藤 あの、この「作品大賞」には、いわゆる、
トロフィーにあたるものってあるんですか?
もしもまだ決まってなければ、
この「カンカンバッチ」を
「作品大賞」の勲章にしてしまうとか。
糸井 ああ、それはいいかもしれない。
でも、第1回はどうするの?
自分で自分にあげるわけ?
一同 (笑)
(つづきます)


2010-08-26-THU

「第一回ほぼ日作品大賞」の
二次審査を行なった会場は、
目黒のホテルクラスカ8F
「The 8th Gallery/エースギャラリー」です。

絵画、写真、コミックスなどの平面作品。
彫刻、陶器、プロダクトなどの立体作品。
また、映像やダンス、パフォーマンスなど
ジャンルを横断して
多様な表現の場としてご利用いただけます。

開かれたスペースとして幅広く、
多彩なテーマの展覧会、展示会、
イベント、ワークショップ、
ファッションショーなどが行なえます。
さらに、8Fのすぐ上階の屋上スペースと
いっしょにお使いいただくこともできますので、
ご興味がおありの方は、
ぜひご利用をオススメします!

お問合せ先
The 8th Gallery 担当:荒川恵子
連絡先 03-5773-9667
http://www.claska.com/studio/
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